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脱炭素で都市は変えられる: 京都が世界的なイノベーション都市になる最大のチャンス

(Photo by Joris Visser on Unsplash)

脱炭素が経済を動かす時代

脱炭素、カーボンニュートラル、CO2ゼロなど、呼び方はいろいろだが、世界の投資マネーが脱炭素の取り組みを追いかけ、上場企業のみならずその取引先企業も、必死に自社の脱炭素への取り組み方を模索している。

次の記事は、日本の脱炭素の取り組みが遅れていることに警鐘を鳴らす。世界中の投資家が、すでに投資先の温暖化ガス排出量の実質ゼロに向けて『ダイベストメント(投資撤退)』を実施するところが増えてきている。そしてさらにその一歩先として、一部の投資家がダイベストメンとするだけではインパクトが部分的になってしまうので、世界全体で実質ゼロにするための『エンゲージメント(対話)』の重要性を指摘している。

脱炭素に取り組む京都

京都市の市民も地域企業も、持続可能性が大好物である。持続可能性の話が出ると、「それはぜんぶ私たちがやってきたことだ」と頬を赤らめる。
そんな京都市が、「脱炭素ライフスタイル」で世界をリードしようと多様性あるチームを立ち上げた。私もメンバーに選ばれて対話に参加しているが、脱炭素がもたらす京都のイノベーション都市としての可能性が十分に共有されているとは言い難い。

京都市はいま、極端な財政危機に陥っている。コロナで観光客が来なくなったからだと思っている人も多いかもしれないが、それは直接的な原因ではない。観光産業自体が京都市にもたらす財政的メリットがほとんどないにもかかわらず、観光を経済政策の中心に置いてきてしまったことが、長期にわたる構造的な財政悪化の原因になっている。

いま京都市は財政再建に向けて片手でコストカットを進めているが、もう一方の手を使って、イノベーション戦略を仕掛けなければならない。そんな京都市にとって、脱炭素は「やらなければならないもの」というよりも、「世界に打って出るチャンス」と捉えることができよう。

脱炭素の「まちづくり」から「イノベーション戦略」へ

これまでの「まちづくり」は、行政が「こんなまちにしたい」というビジョンを示して(あるいは一部の市民と一緒に描いて)、それを多くの市民に理解してもらって一緒に実現していきましょう、という啓発型のものが中心であった。行政は、このやり方しか知らないので、脱炭素もこういう啓発型のスタイルで普及させようとしてしまいがちである。

しかし、もし都市が脱炭素を「イノベーション戦略」として捉え直すことができたならば、コラボレーション先は金融機関、ベンチャーキャピタル、地元企業、そして国内外のイノベーション企業に広がる。そして、ビジョンの作り方も根本から変わってくる。

まちづくり型のビジョンが「誰もが反対しない美しい文言」であったのに対して、イノベーション戦略のビジョンは「都市の明確なポジショニング」をあらわさなければ意味がない。

聞いただけで京都だと分かる脱炭素ビジョンとは

京都に来て、もっともすごいなと思ったことが、「大きな会社よりも長期間続く会社が尊敬される」という事実だ。経営者などの集まりでも、十何代目というような経営者が上座に座るのが京都流だ。経営者は自分の代で成長させることよりも、次の代で倒産しないように経営を舵取りする。

京都には、もともと持続可能性を経済価値よりも重視する文化があるからこそ、脱炭素を超前向きに捉え直すことができるだろう。例えば、せっかく京都なのだから「すべてのクルマをEVにする」というよりも、「洛中のクルマをゼロにする」という脱炭素ビジョンにワクワクするのではないだろうか。

都市の脱炭素イノベーション戦略

都市の脱炭素イノベーション戦略とは、行政の役割として、その都市にしかない「ワクワクする制約」を政策として打ち出し、金融機関や大企業の役割として、「脱炭素につながる新サービスを次々と生み出すプラットフォーム」を事業として立ち上げることだ。

脱炭素を「つまらない制約」にしてしまうことは簡単だ。その一方で、あなたの住む都市でも、脱炭素をきっかけに「都市を市民の手に取り戻す」ことが可能だ。経済成長一辺倒の社会は、行政と企業が次々と新しい社会システムを構築し、それを市民は消費者として選択するしかなかった。しかし脱炭素の世界的なムーブメントは、行政も企業も社会システムを勝手にアップデートすることができない。持続可能性を伴うビジネスは、需要家の「不便を伴う協力」が必要だからだ。市民は需要家としても、投資家としても、「ワクワクする不便」を提示してくれる企業を選ぶことができる。

行政のリーダーシップが問われている

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)は、自動車を国外から買ってキャッシュを流出させたくないフィンランドが、いまある自動車を国民でシェアしようという苦肉の策から生まれたものだ。そう、「ワクワクする不便」が世界のイノベーションを生んだ好事例である。

脱炭素の供給側のイノベーションは、世界が同じルールで競っている。しかし、行政が促進する需要側のイノベーションは、その都市ならではのルールで競争、いや共創することが可能になる唯一の道だ。行政がユニークなビジョンとルールを設定することで、新しい脱炭素の新産業クラスターを生み出すことができるのだ。行政、ファイト!!!!

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