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出向を「一時的なもの」と軽くみるのは危ない(経産省での出向経験を踏まえて)

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

今年は事務所の前の丸の内通りもライトアップされ、キラキラしています。

さて、今日は「出向という選択肢」ということで、私が経済産業省へ出向した経験を踏まえて書いていきたいと思います。

経済産業省へ任期付き職員として着任

私は2018年10月から2020年9月まで、経済産業省経済産業政策局産業人材政策室(当時。今は「課」)に任期付き職員として着任しました。

任期付き職員として着任する場合には、元々いた事務所からは一応籍は消すことになるので、厳密には、元いた会社に籍を残す出向とは違うのですが、一般的には「出向」と言われています。

産業人材政策室では、兼業・副業、テレワーク、フリーランスの活躍といった柔軟な働き方の推進、HRテクノロジーの普及促進、そして、経営戦略と人材戦略の連動といった政策を立案してきました。
ざっくりというと、「イノベーションを創出し、生産性をいかに向上させるか」という観点から、働き方改革を進めてきたというイメージです。
人材版伊藤レポートも一つの成果物です。

「法的にはこうです」から「だからこうすべき」まで考えることが大変

私が産業人材政策室で担当してきた執務は、労働法的観点も必要なマターが多く、弁護士として法的な観点を“踏まえて”政策の検討をしてきました。
もっとも、政策検討の場で「法的にはこうです」という意見を言うだけでは、外部の弁護士から意見をもらうことと何ら変わらないでしょう。

一時的とはいえ、出向期間中は「経産省職員」として、政策目的のために「だからこうするべきだ」ということまで考えることが求められていたように思います。そして、この点が最も難しい点でした。

自分の専門領域外の専門家と話すことで自分の専門性の重要さにも気付く

政策として「だからこうすべき」ということを、法律家の頭だけで考えることは難しいです。
特に雇用政策は、消費行動や日本経済、人々の労働慣行へのインパクトがあるため、労働法だけでなく、労働経済学者や、人事管理論の専門家、そして企業人事の方々の知見を聞くことも非常に重要といえます。
何より忘れてならないのが、「政策立案」のプロである経産省プロパーの方の知見です。

こうした様々な専門家の知見を聞くことで、「自分の専門領域外の専門家の知見を知る」ということに加え、そうした方々と議論を中で「自分の専門領域の専門性を高める必要性を知る」という2つの気付きがありました。

出向経験を踏まえて思う3つポイント

さて、長々と出向経験を語ってしまいましたが、自分の出向経験を踏まえ、出向する場合に気を付けるとよいと思うことを挙げてみます。

①「一時的なもの」として軽く見ない

かつては(今でも?)片道切符のものもあったでしょうが、今、議論されている「出向」は、雇用調整やスキルアップを目的とする出向で、「一時的に他の組織で働く」ということが想定されているでしょう。

ただ、私の経験を踏まえると、出向は「一時的」とはいえ、得られるものも大きい一方で、苦労も大きいといえます。
転職であろうと転籍であろうと出向であろうと「自分のいた組織と別のところで働く」ということに違いはなく、少なからず精神的な負荷がかかります。
転職の場合でもよく言われますが、最初の半年間は自分でも気づかないですが、結構精神的な負荷がかかっており「一時的に他社で働くだけ」と軽い気持ちで出向するのは危険でしょう。

②出向元に籍は残るが「出向先社員」として本気で働く

出向は、出向元での籍は残るとはいえ、「出向先社員」として働く意識が必要だと思います。
外から見れば自分が出向者であることなど分からないわけですし、何よりも出向で多くの経験を得るためには、どっぷり出向先に浸かって、本気で悩んで本気で仕事をした方が、多くの経験を得ることができると思います。

③自分の専門性との関連を意識する

上記で「出向先社員として働く」と書きましたが、とはいえ自分の持つ知見や専門性を使わないのではなく、出向先での業務に活かすべきでしょう。
出向期間が進むにつれて、出向先に浸かりすぎて自分の専門性を忘れがちになりますが、出向期間中も自分の専門性について研鑽を積んでおく必要があると思います。
また、出向先での業務と自分の専門性との関連を意識しておくと、出向元に戻った時に出向元での業務にさらなる広がりが見えてくるでしょう。この「出向元で出向の経験を活かす」という点は、転職の場合との大きな差といえます。

今回は「出向という選択肢」ということで、私の経験を踏まえて書きました。苦労もあったと書きましたが、総じていえば、良い出向経験をさせていただいたと思います。

なお、「出向」には、法的には曖昧なままとなっている論点がいくつか存在しています。この点は、また別途書いていきたいと思います。


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