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コーポレートガバナンス・コード改定案に人材戦略が明記。雇用慣行の変化は進むか。

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

以下の記事のとおり議論が進められていたコーポレートガバナンス・コードの改定ですが、4月6日に、フォローアップ会議で改定案が示されました。

コーポレートガバナンス・コード自体は、働き方云々以外にも広く「企業統治」に関する指針を示すものですが、今回の案では、働き方と関連する記載がなされているので、書いていきたいと思います。

「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改定について」

まず、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議が示した上記タイトルの報告書では、「企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保」として、次のような記載がなされています。

「企業がコロナ後の不連続な変化を先導し、新たな成長を実現する上では、取締役会のみならず、経営陣にも多様な視点や価値観を備えることが求められる。我が国企業を取り巻く状況等を十分に認識し、取締役会や経営陣を支える管理職層においてジェンダー・国際性・職歴・年齢等の多様性が確保され、それらの中核人材が経験を重ねながら、取締役や経営陣に登用される仕組みを構築することが極めて重要である。」

 ここでは、取締役会のみならず、それ以下の階層においても多様性が重要であるという考え方が示されています。 

求められる「多様性」の内容

さらに、注目すべきは、「多様性」の内容でしょう。

ここでは、ジェンダーだけでなく、国際性、職歴、年齢等が、「多様性」の内容として挙げられています。

「多様性」というと、「ジェンダー」に注目が集まることが多く、これが重要であることには疑いはないですが、持続的な企業価値の向上のためには、そうした「属性」ではなく、いわば「価値観」のレベルでのダイバーシティ(そして、インクルージョン)が重要といえるでしょう。

コーポレートガバナンス・コード改定案への反映

コーポレートガバナンス・コード改定案には、補充原則2-4①として、次のような記載を加えています。

「上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。」

ここでは、上記のような多様性確保についての自社の考え方とその進捗を図ることのできるKPIを示すといったアクションを求めているものと思われます。

さらに、そうした人材育成方針、社内環境整備の方針とその実施状況を開示すべきという考え方も示されました。

そうした開示が進むことで、資本市場、労働市場との対話が進むことが期待されます。

雇用慣行の変革は進むか

さて、ここで、「人材戦略の重要性」が、コーポレートガバナンス・コード改定案の中に位置づけられたことの意味合いを考えてみます。

そもそも、元来どういった人材ポリシーを設定し、どういう人事制度を構築していくか等の人材戦略は、各企業の経営戦略に応じて多種多様であるべきといえます。

新卒一括採用、年功序列型賃金、終身雇用等の日本型雇用慣行は、「当時の時代背景に照らすと」、多くの企業にとって経営戦略に適合していたのだろうと思われます。

問題であるのは、日本型雇用慣行そのものではなく、上記のような特定の時代における選択の結果が、経営環境が変化したにもかかわらず、慣行として固定化してしまったことではないでしょうか。

そうすると、今回のコーポレートガバナンス・コード案のなかに、「人材戦略」を位置付けたことは、人材戦略を経営戦略の「外」にある変えられないものとするのではなく、自社の人材戦略を経営戦略に「中」に位置づけ、経営戦略に照らして構築、実現していくことを期待しているものであるといえるでしょう。

ただ、当然ながら、このことは、「経営戦略に照らして人材を無碍に扱う」ということではなく、多様化する人材が活き活きと働くことができ、能力を発揮することができるようにするということも重要であるということは忘れてはならないでしょう。
こうした組織と個人の関係性については、経済産業省産業人材政策室が昨年9月に公表した「人材版伊藤レポート」にも書かれています。

このレポートについては、また詳しく書いていきたいと思います。

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