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夫が育休をとれば出生率はあがるのか?

「〇〇すれば出生率はあがる」という論説を振りまく有識者とされている連中が多いのだが、それらはほぼ嘘である。
「夫が育休をとれば出生率はあがる」もそうなのだが、検証してみたい。
  

積水ハウスが公開している「男性育休白書2022」なるものがある。

これは、男性の家事育児力を以下の指標に基づいて都道府県別にランキングしたものだそうだ。

1.女性の評価
男性が行っている 家事・育児の数と、男性が子育てを楽しみ、家事や育児に積極的に関与すると思うかどうかを4段階で評価したもの
2.男性の育休取得経験
男性の育休取得日数
3.男性の家事・育児時間
男性の自己申告ではなく女性から見た男性の家事・育児時間 を基準とする。
4.男性の家事・育児参加による幸福感
男性本人に家事・育児に参加して幸せを感じているかどう か を4 段階で聞いたもの
これら4 指標 5項目をそれぞれ数値化し47都道府県別にラン キングし 、1 位 : 4 7 点 ~ 4 7 位 : 1 点を付与し 、各項目の点数を足し上げることで、都道府県別の男性の家事・育児 力」総合スコアを算出したとのこと。

詳しいランキングはリンク先を見ていただければいいと思うが、1 位「高知」 2 位「 沖縄 」 3 位「 鳥取」なのだそうだ。

この調査にケチをつけるつもりはないが(ま、結果としてケチをつけているようなものだが)、こうした複数の指標をスコア化したもののランキングは注意が必要である。そもそもその複数の組み合わせが事実を正確に表現するとは限らないからである。組み合わせ自体が恣意的だし。

ランキング1位が高知とのことだが、単純に2022年合計特殊出生率でみると、高知は25位で決して高い方ではない。もちろん、この白書では、男性の育休取得を出生率の向上と結び付けていないのだが、育休というからには子どもが生まれなければ話にならないわけで関係ないものではない(白書の真の目的は、出しているのがハウスメーカーということで察しがつくと思う)。だとすれば、この白書での総合スコア1位が出生率25位では格好がつかないのではないか?ちなみに、沖縄の出生率は1位で、鳥取も3位なのでそこはいい。

もっと不都合な事実を羅列してしまえば、2020年の国勢調査において、高知は生涯未婚率が男6位、女2位と上位に位置するのである。

男の家事育児云々の前に高知の男女は結婚すらしない(もしくは、できない)のだ。そっちの方を問題視した方がいいんじゃないかと思う。特に、高知の女性が東京に続いて未婚率2位はどうなの?と。ちなみに、高知の女性の管理職率は高いらしい。

なるほど。管理職が多いから生涯未婚率も高いのか、と。

それこそ、高知の未婚の問題とは、そもそも男がたいして給料ももらっていない甲斐性なしだし、家でも酒ばっか飲んで家事も育児も使い物にならないから女は経済的自立をし、結果結婚すらしないのだ、と勘繰りたくもなる。高知の詳細分析をしたわけではないので断言できないが、どうなんだろうね。

高知の話はさておき、この白書における男性の総合スコアが出生となんらかの相関があるのかどうかをチェックしてみたい。

総合スコアを横軸に、縦軸は2020-2022年における各都道府県の出生率の増減ポイントを置いた。もし、男性の育休力が出生数を押し上げる効果があるのではあれば、少なくともスコアが高ければ高いほど出生率は増えているに違いない。

結果は以下の通りである。
むしろ逆で、やや弱い負の相関がある。はずれ値である鳥取を除けば、相関係数は▲0.33で、むしろやや強い負の相関。つまり、総合スコアが高ければ高いほどこの3年間の出生率は大きく減少しているということだ。

男性の育児力を高めても出生率はあがらない。
タイトルにある「夫が育休をとれば出生率はあがるか?」という問いに対する正しい答えは「そんなことはない」である。いずれにしてもそこに因果はないからだ。
とはいえ、だからといって、さすがに、じゃあ育児力を低めれば出生率があがるとまではいわない。
育児云々は出生の結果であり、出生がなければ、その前に出生を生む結婚がなければ何も始まらないことだけは確かだ。

そもそも出生率が増えているのは鳥取と富山だけだが、富山の総合スコアは高いどころか下から数えた方が早い。

そして、何よりこういう出生の話をする時に、出生率だけ見ても意味はないということだ。実数を同時に見ないといけない。
日本の出生数は東京圏+大阪、愛知、福岡、兵庫の8代都市で過半数を占める。その他の39の地方が束になっても、この8大都市の出生数が増えなければ、日本全体としての子どもの数は増えない。

そして、男の育児力だのを高めるほど出生のマイナスが大きくなるのなら、ここを強化する意味は本当にあるのだろうか?

少なくとも優先順位のトップはそこじゃない。結婚や出産をしたいのにできない若者が抱えている悩みや不安はそこ(育児の問題)以前の問題だからだ。

何度も言うが、少子化は中間層の婚姻数の減少に尽きるのてあり、今は一定以上の収入のある男女は20年前と変わらない数で子どもを産んでいる。

逆にいえば、夫の育児が~なんていえてる夫婦は、少なくとも経済的不安のない夫婦であり、言い方選ばなければ「恵まれた層」であり、中央区のタワマンなんか住んで、給料も高ければ、福利厚生もしっかりしている大企業に勤め、大企業だから代替要員も充実しているがゆえに育休なんてことが言えるんじゃないの?

ま、実際、世帯収入900万以上しか子どもは生んでいないからね。エビデンスは以下の記事↓

そういう上級国民はいい。今でも十分子どもを産み育てている。しかし、とはいえ、そういう階級層が全員4人も5人も子どもを生むわけではない。

「男性を家庭に返そう」とか言ってる大学教授がいるんだが、そんなことは各夫婦が決めればいいことで大きなお世話だ。育休をとれとかいうが、そんなことができるのは3割の大企業就業男性だけであって、特にただでさえ人手不足の上に運輸や物流や建築や小売りなどで物理的肉体労働が伴う現場で仕事をしている側にしてみれば、「どうやって取れというんだ?」と言いたくもなるだろう。
それぞれの経済的事情で夫の一馬力にならざるを得ない夫婦もいる。

別に男性の育休促進を否定はしない。大企業や官公庁など恵まれた職場ならやればいい。しかし、全部がそういう環境ではないということが言いたいのだ。

百歩譲って「男性の育休取得を増加」させたいのなら、まずその前提となる独身が結婚できる環境を整えてからの話である。結婚もできなければ話にならない。

所得階級からいえば圧倒的に人口ボリューム層である中間層が結婚し、出産をしなければ、早晩気今の韓国と同じ道を進むことになるだろう。


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