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「親知らずを抜かないで良いかもしれない」方法から、新しいことを習慣化するコツを考察してみる

今回のCOMEMOお題はこちら。

自分の胸に手を当てて「最近何を習慣化したかな?」と自問自答してみる。
と、丁寧な歯磨きを習慣化したことに思い至った。

丁寧な歯磨き?

・・・と怪訝に思われた向きもおられると思うので、以下なぜこれが習慣化されたのかを記し、最後にそのポイントを考察してみたい。

一年ほど前のことである。
話は、上の奥歯の痛みから訪れた歯科医での一幕に端を発する。

筆者:銀歯の奥がまた虫歯になっているようなんです。治してください。
先生:大分歯石が溜まってますね。まずはそれをクリーニングしましょう。

歯石?

こちとらお口のケアには抜かりはない。何しろ電動の歯ブラシで、毎日親から譲り受けた歯を磨き上げているし、なんならたまにデンタルフロスも行い、念入りに歯間のクリーニングも行っている。

その意識の高さたるや、雨の日も皇居を周回するランナーの如し。
自分に限って、歯石などに縁の在ろうはずがない。

そう確信した筆者は反論した。

筆者:いや、まず虫歯の治療をお願いします。
先生:でも、これ虫歯じゃなくて、歯石が原因で歯茎のコンディションが悪いことによる痛みかもしれませんよ

・・・歯石により歯が痛む、などという直感に反したことがあるだろうか?

先生:ちょっとお口の中の写真撮らしていただいて、画像見ながらお話ししましょう。

望むところである。何事もコミュニケーションはエビデンスを元に、というのはもはやお作法だ。

数分後、診療台の前面に設置されたモニターに、写真が大写しになった。

40インチくらいはあるモニター全面に筆者の口のみが写っている、異様としか形容ができない絵面である。

くちびるの周りの髭が非常に汚らしく、見るに堪えない。

そこで、髭エリアに目を背け、口の内側を注視すれば、永久歯に生え変わってからというもの都合50年近く付き合ってきた白く輝く歯くんや、その頭に帽子のように鎮座している銀歯くんが愛くるしく存在感を主張する。

・・・はずであったが、その歯くん、輝くどころか、白以外の色の方が多いのではないか、という汚れっぷりである。

「これが人の歴史というものだ」などと嘯くのも憚られるレベルの汚さ。

先ほどの勢いはどこへやら。
まさにエビデンスを見せつけられ、反論の余地がなくなり、かつ、このままではいずれ自分の歯でものを噛むことはできなくなる、と、怖さを感じた筆者は、「はい、クリーニングからお願いします」と白旗を掲げた。

クリーニング、と一言で言うが、口の中を上下左右、さらに歯と歯茎の内側という都合八箇所に分類し、それぞれを1時間かけてクリーニングする作業が始まった。週一回の通院で都合2ヶ月かかる大掃除。

そして毎週の通院では、治療台に座るたびに、親知らずの奥が磨けていない、だの、前歯の裏に歯ブラシが届いていない、だのの指摘を受ける。

かくして、筆者の歯磨きタイムは、二種類の歯間ブラシ、デンタルフロス、狭いところを磨く用の名称がわからない細い歯ブラシ、そして電動歯ブラシという、都合五種類のツールを使い分ける大プロトコルに相なった。

丁寧な歯磨き、とはすなわち、この大プロトコルのことである。

一旦、このプロトコルが成立すると、筆者の心情にある変化が訪れた。
それまでは恐怖・憂鬱でしかなかった通院が楽しくなってきたのだ。

どういうことかというと、歯磨きが劇的に上達し、ほとんど歯垢も歯石も見当たらない、と褒めていただけるようになったのだ。
調子に乗って「強いて言えば磨き残っているところはありますか?」などと聞き、課題解決しては翌週また褒めてもらう、などということも楽しくなった。

クリーニングが完了し、次はもう1ヶ月後の定期検診、という段になって、先生が恐ろしいことを宣った。

「親知らずが全部残っているので、抜いてしまおう。このままだとここから虫歯になるのでよろしくない。」

親知らず撤去の大事ぶりを先達から聞き、恐怖にしか感じていなかった筆者は「どうしても抜かなければだめでしょうか?」と聞き分けの悪い子供よろしく粘ってみた。すると先生は、

「うーん、このレベルの歯磨きがずっと続けられるのであれば、まぁ抜かない選択もアリかもしれません」と一縷の光明を投げかけてくださった。」

「はい、やります!誓います!!」

1ヶ月後。「うん、これなら次は3ヶ月後でいいです。」
さらに3ヶ月後「うん、これなら次は4ヶ月後でいいです。」

そして時は現在に至る。
かくして10分間にわたる、五種のツールを使い分ける大プロトコルは筆者の新しいルーティンになった次第。

さて。

上記の通院物語には、新しいことを習慣化するためのコツのようなものが含まれているように思われる。

(1)根拠なき思い込みの打破と納得
筆者は恐ろしいことに、自分の口内環境には問題がない、と思い込んでいた。自分がやっていた口腔ケアに根拠のない自信を持っていた。
しかし、写真を見せられることにより、それが見事に打ち砕かれ、クリーニング、ひいてはきちんとした歯磨きプロトコルの必要性を納得した

(2)恐怖をエネルギーに変える
自分の歯でものが食べられなくなるかもしれない。
親知らずを抜かなければならない。
・・・といった恐怖の感覚は、何か新しいことを始めたり、それを続けたりするエネルギーの役割を果たしている

(3)リマインダーによる意識づけ
通院するたびに、先生は受診台のモニターに例の口内写真を大写しにされる。2度とみたくないその汚画像は、定期的に「歯磨きプロトコルを続けなければならない」と筆者に固く胸に誓わせる役割を果たしている。

(4)報酬をエネルギーに変える
歯磨きが上達した、と先生に褒めていただいたり、検診と検診のインターバルが長くてもOK、とお墨付きをいただいたりすることは、筆者の中である種の報酬的に作用し、このプロトコルを続ける原動力になっていると思われる。

以上4点を意識的に設計することにより、歯磨きに限らず新しいことを習慣化できる確率が上げられるのではないか、と思う。

読者の皆さんも、よかったら試してみてください。




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