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多拠点居住という生き方〜個人にとって、地域にとって、イノベーションにとって

多拠点居住には魅力がいっぱいである。先日、東京と北海道の東川町の二拠点居住を行なっている友人を訪ねて、東川町で5日間のワーケーションをした。私の理想とする「スローでクリエイティブ」な移住者と大勢出会い、たいへん大きな刺激を受けた。そういう私自身も、いまは京都市を本拠地にしながら、月に平均3回くらい仕事で東京に行き、月に1回は広島に行くので、多拠点居住の感覚は理解できる。政府が「二地域居住」促進制度を具体化するなか、多拠点居住の持つ意味を個人にとって、地域にとって、イノベーションにとって、考えてみたい

林千晶さん、東京、飛騨、秋田を駆ける

ロフトワーク創業者の林千晶さん。彼女が立ち上げた新会社Q0が主な活動拠点にしているのが秋田だ。先日も、大阪でご一緒したあと、そのまま秋田に飛行機で、文字通り飛んでいかれた。

そんな林千晶さんの特集が日経で組まれたので、楽しく読ませてもらった。この記事の中で林千晶さんは「東京ではわからないから地方に行こうと、訪れたのが秋田県でした。するとそこには『秋田を面白くしたい』、『地域の文化や技術を継承したい』という強い思いを持った若者が何人もいました。」と語る。

この特集であらためて感じたことは、林千晶さんは「地域資源×デザイン」という成功の方程式でイノベーションを起こしてきたということ。そしてこれからも、その触媒になっていこうとされていることだ。

同じ記事の中で、次のようにも述べている。「『やりたい』という強い思いから開発がスタートし、自分や仲間のもつスキルを掛け合わせることで新しい価値を生み出すのです。日本を変えるのは分析ではなく、何をやりたいかという強い意志だと実感しました。」

多拠点に関わるイノベーターが自由に駆け回ることで、このような「想いの掛け算」が次々と起こっていくことを想像すると、もうワクワクが止まらない。

「二地域居住」促進制度

いま話題の「二地域居住」促進制度。移住まで行かなくとも、その地域を定期的に訪れ、関わり続ける人を増やそうという政策である。

次の記事で、国交相の倉石氏は、この制度策定の背景をこう語る。「2023年7月に閣議決定された新しい国土形成計画では『新時代に地域力をつなぐ国土』として初めて地域の力を前面に押し出した。人口減少や災害、エネルギーといった課題がある一方、新型コロナウイルス禍をへてデジタル技術が急速に進み、暮らしや働き方の個人の価値観が大きく変わりつつある。そうした中では、新たな時代にチャレンジする地域力が国づくりのカギになる」

加えて、同氏は次のようにも語る。「具体的にはデジタルを活用した地域生活圏の形成を目指す。従来のように1つの自治体がフルパッケージの公共サービスを提供するという考え方ではなく、官民双方が主体となり、分野や市町村の垣根を越えた連携で日常の生活サービスを持続的に提供できる環境を共創する。その担い手確保の観点で、二地域居住は非常に有効な政策と位置づけている。」
つまり、この「二地域居住」促進制度の持つ意義は、たんに関係人口を増やそうという表層的なものにとどまらず、地方創生で行き過ぎた自治体観競争を超えた、新たな公共サービスのあり方への移行の可能性を示唆しているのだ。

とはいえ、まずは同氏が語る、次のような方向で、自治体間競争が加熱することが予想される。「地域の外から来る人を受け入れるための場所がまだまだ必要だ。改正法ではどんな人に来てもらいたいか、どう地域と関わってほしいかといった基本方針や対象区域、コワーキングスペースや交流施設の拠点整備の内容などを盛り込んだ特定居住促進計画を市町村がつくれる規定を設けた」

元大津市長の越直美氏は、「二地域居住」促進制度の持つ意味を次のように語っている。「これまで自治体の人口増加策の王道は、子育て支援を充実し、定住人口の社会増を目指すことであった。私が大津市長のときも、8年で保育園など54園作り、人口を増やすことができた。ただ、この戦略を取れる自治体には条件がある。それは、大都市の通勤圏であること。それ以外の自治体では、移住者が地域で仕事を見つけるのが難しく、人口増は至難の業である。しかし、二地域居住促進法の活用により、遠方の自治体でも、地域に関わる若者を増やすことができる。」

シェアする関係人口づくり

二地域居住の促進制度が、自治体観競争を煽ることになるのか、あるいは自治体の独自性を保った上で、ヒト・モノ・カネ・知識が自治体を横断してスムーズに流れ、イノベーションが地域から次々と生まれるようになるのかは、これからである。

次の記事は下関市における、「アドレスが多拠点居住のプラットフォームを提供し、ミクルがオンラインイベントや地元のまち巡りイベントなどを実施する」という多拠点居住のプラットフォームづくりの試みである。「下関市は地域の民間事業者に補助金を出し、空き家や空き店舗などをお試し暮らし施設としてリノベーションする取り組みを後押しする」という。

この記事の中で、非常に重要な発言があった。「アドレスの佐別当隆志社長は『移住のように他のエリアから人口を奪うのではなく、シェアする関係人口づくりに貢献したい』と話した。」

多拠点居住は、個人に豊かな人生をもたらす可能性がある。アドレスは、そのようなライフスタイルを支援するプラットフォームだ。しかし、地域にとって二地域居住促進法は、吉と出れば地域イノベーションの触媒となるが、凶と出れば地域間競争、自治体間競争の加熱となりかねない

多拠点居住が、個人にとっても、地域にとっても、イノベーションにとっても、ワクワクするものであってほしい。

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