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有能タレントとして長期契約されるフリーランスの変化

 リモートで多様な働き方ができるようになると、有能な人材ほど勤務先に縛られることを嫌うようになる。そこで、社員とフリーランスの中間的な立場としてプロジェクト単位で専門性の高い人材を採用するのが、オープンタレント制の仕組みである。

企業は、これまでのフリーランスを短期的なワーカーとして活用してきたが、人手不足が深刻化する中で、有能なフリーランス人材に対しては長期契約をして、自社の戦力として取り込もうとする動きが加速している。フリーランスの中には、他の会社に雇用されながら、副業として行っているケースもあり、専門分野のプロ人材としての働き方には、多様な選択肢が広がっている。

世界的な会計事務所のDeloitte(デロイト・トウシュ・トーマツ)は、150ヶ国以上で40万人の従業員を雇用しているが、新たな人材採用の枠組みとして「デロイトオープンタレントコミュニティ」を10年程前から構築している。

このコミュニティでは、フルタイムの雇用には関心が無いが、会計・人事・事業コンサルティング・システム開発などの専門領域で活躍したい人材を、プロジェクト単位の契約制で採用している。コミュニティ内には、世界各国にあるデロイトグループ会社が募集する求人案件が集約されており、希望の職種に応募すると、該当プロジェクトチームのリーダーとオンライン面接して採用されると、リモートで勤務する流れとなる。

デロイトの仕事に関わるスタイルは、既にフリーランスとして起業しており、複数クライアントの仕事と並行して参加するケースや、1年間のみプロジェクトに参加するケース、定年退職後のセカンドキャリアとして参加するケースなど、多様な働き方の中からチームメンバーが選出されている。報酬は、該当職種のフリーランス相場に準じて決められているが、プロジェクトの内容によっては数年にわたる長期契約になるため、他のギグワークと比べると収入は安定しやすい。 ただし、正式な社員ではないため、有給休暇を含めた福利厚生は受けられない。

Deloitte Open Talent

デロイトがオープンタレント人材の採用を強化している理由として、医師や大学教員など専門性の高い職種ほど、非常勤人材の割合が高くなっていることが挙げられている。米国大学で採用される教員人材の中では、非常勤教員が常勤教員の割合を上回っており、知識労働者の働き方は、着実に独立系へと移行している。 そのため、これからの企業が活用すべき人材としては、業務の性質に応じて、以下5種類のタレント層から、柔軟なポートフォリオを組む必要があると解説している。

○バランスシート人材
会社が法定正社員として採用する伝統的な従業員。人材を維持するための固定費や教育費は、すべて会社が負担しているが、有能人材の離職率は高まってきている。

○パートナーシップ人材
グループ会社や資本提携しているパートナー企業で働く人材の経験、スキル、知識を効果的に活用する。近年では、有能人材の獲得を目的とした企業買収も増えている。

○レンタル人材
製造業の工場で働く派遣人材や、コールセンターの外部委託スタッフなど、外部の企業が雇用している人材を借用して業務を行う。

○フリーランス人材
特定プロジェクトのために採用される独立系の人材。契約によって働く期間は決められて、報酬は時間単位、日数単位、プロジェクト単位で支払われる。これからは、バランスシート人材とフリーランス人材が統合されて、同じ職場で働くようになる。

○オープンソース人材
無償で労力を提供する人材で、社会的に意義のあるプロジェクトに集まる傾向が強い。フリーソフトウェアの開発はオープンソース人材を中心に行われている他、暗号通貨の開発プロジェクトでは、オープンソース人材に有償のインセンティブを付与することで、仕事に取り組むモチベーションを高めている。

【社内タレントコミュニティの構築】

 フリーランスの仲介プラットフォーム、Upworkでもタレントコミュニティを構築したい企業向けのエンタープライズ機能を提供している。Upworkの法人アカウント内では、Upworkに登録しているフリーランスの中で職種別に選抜された上位1%の優秀者が事前にリストアップされており、社内の各チームがスカウトした人材に対して、管理者が承認の許可を出すことで、正式契約のオンライン手続きが行われる。

報酬条件の設定については、時間契約か定額契約の選択をして、後者の場合には、仕事の成果となるマイルストーン(中間目標)を決めて、そのポイントをクリアーする度にボーナスを支給する機能も用意されている。実際に仕事をして評価が高かった人材は、共有タレントリストに登録して、別の社内チームが新規プロジェクトを立ち上げる際の採用候補とすることもできる。

Upwork Enterprise Suite

Upworkの報告によると、フリーランス人材の総所有コストは、正社員の1/3から1/5程度に抑えることができ、限られた予算の中で競合他社よりも強いチームを作ることに役立つ。この考え方の背景には、フルタイム社員の平均勤続年数が年々短くなっていることがある。

米国のハイテク企業では、エントリークラスの技術職をフルタイム社員として雇うのに、年収13万ドル前後を払う必要があるが、そこに健康保険、教育費用、他の福利厚生を加えると、18万~20万ドルを超すコストがかかる。しかし、平均在籍期間は2年弱と短い。それならば、高いスキルを持つフリーランス人材に時給130ドルを払ったとしても、年間コストは安くなる。

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