企業不祥事が防ぎきれない株式会社特有の要因

こんばんは!
エコノミストの崔真淑(さいますみ )です。
日々、経済や資本市場をみていると下記ニュースのように企業不祥事の話を目にすることがあります。
2015年にコーポレートガバナンスが制定されて、経営者の不祥事や会計不正が顕在化するケースが増えているように感じます。
今回は、なぜそうしたことが起きてしまうのかの、株式会社特有の要因を考えていきます!

企業の不祥事、突然発覚 株価の浮沈握る2つの要素:日本経済新聞 https://style.nikkei.com/article/DGXMZO40609710Z20C19A1000000/

*企業不祥事は潜在的にどれぐらいあるのか?

Dyck, Morse, Zingales(2013)では、1996年から2004年の米上場企業を対象に、年間に起きる企業価値を損なわしかねない企業不祥事件数の確率推定を行いました。なんと、毎年14.5%=7社に1社の企業が不祥事、つまり経営陣が企業不祥事を毀損する経営(無意識・意識的を含む)を行っている可能性を指摘しています。これは米国の研究ですが、昨今の企業不祥事報道を見ていると日本も同様の傾向が起きていても不思議ではないでしょう(もちろん、過半数の企業は確りとした経営をしていることが研究で報告されているわけですが…)。

では、なぜ経営陣の企業不祥事などのモラルハザード(無意識・意識的に関係なく)を防ぐことが難しいのでしょうか?それは、上場している株式会社の株主構造が影響しています。株式会社は、その企業の保有者である株主(プリンシパル)と、経営を株主に代わって遂行する経営者(エージェント)という構図から成立しています。創業当時の株式会社、経営者=株主であり、 経営者の目的=株主の目的という構図であることがほとんどです。しかし、株式公開を行い、株主の分散化が起きると、経営者の目的 ≠ 株主の目的であるケースが出てきて、様々な課題が起きたのです(Tirole 2005)。

*株主価値を毀損する事例とは?

例えば、業績も株価も低迷が続いているのに過剰な役員報酬をもらい続けようとする経営陣、短期利益を優先するがために長期利益を犠牲にするなど企業価値を損なわしかねない行動がおきていることを多数の学術研究が報告しています。(Yermack (2006), Graham, Harvey, and Rajgopal (2005))
これらの行動は、株主利益の毀損に繋がりますし、雇用されている社員の不利益にもつながりかねません。もちろん、そのような行動が発覚した場合には、経営陣に罰則を与える契約をすればいいでしょう。しかし、完全に契約に織込むことは難しいうえに、株主より当該企業の情報を知り尽くした経営陣は、株主の見えないところでモラルハザードを起こす可能性は残り続けるのです。こうした情報の非対称性によって起きる課題を、エージェント問題と言います(Jensen and Meckling, 1976)。

言うまでもなく、最悪の場合、株主は企業保有者なので、株主総会で議決権を通してモラルハザードを引き起こす経営陣を退陣に追い込むことも可能です。しかし、下記で示すように、実はそれもなかなか出来ないのです…。退陣の脅威にさらされないからこそ、こっそりと経営陣がモラルハザードをし続け、それが倒産という株主利益だけでなく社員への不利益に繋がることも起きてしまうわけです。

*なぜ、「モラルハザードを起こす経営陣」=「ヤバイ経営陣」をすぐ退任させられない?

 では、なぜ退陣に追い込めないのでしょうか? Jensen (1996)は、株主は保有企業で直接的に意思表明を示すことはできないが、議決権行使によって企業価値へ影響を与えられると報告しています。しかし、実際に影響を与えられているかの学術的根拠には乏しいとCai, Nguyen, Walkling(2017)は指摘しており、Bebchuk (2003)は、現職の取締役は議決権行使による解任の脅威にほとんど直面していないと報告しているのです。ここで引用している学術研究は米国のケースですが、国内資本市場を日々ウォッチしている自身は日本で起きていても不思議ではないなと思うことばかりです。

 こんな話をすると、いや!プロ投資家である機関投資家はうるさいぞ!彼等が経営陣を監視してくれているはずだ!との声も聞こえてきそうです。しかし、それにも課題があるのです。というのも、Coffee (1991)は、機関投資家の報酬体型に着目しこのようなことを指摘しています。投資先の経営陣を確り監視したところで、機関投資家の報酬に反映されにくいこと。更には、報酬は投資リターンだけでなく運用金額で決まることがあるからこそ、経営陣を監視するインセンティブが働きにくいと…。

*なぜ、経営陣のモラルハザードを防げないのか?
実はこんな学術研究があります。Dyck, Morse, Zingales(2013)では、1996年から2004年の米上場企業を対象に、年間に起きる企業価値を損なわしかねない企業不祥事件数の確率推定を行いました。なんと、毎年14.5%=7社に1社の企業が不祥事、つまり経営陣が企業不祥事を毀損する経営(無意識・意識的を含む)を行っている可能性を指摘しています。これは米国の研究ですが、昨今の企業不祥事報道を見ていると日本も同様の傾向が起きていても不思議ではないでしょう(もちろん、過半数の企業は確りとした経営をしていることが研究で報告されているわけですが…)。
では、なぜ経営陣のモラルハザード(無意識・意識的に関係なく)を防ぐことが難しいのでしょうか?それは、上場している株式会社の株主構造が影響しています。株式会社は、その企業の保有者である株主(プリンシパル)と、経営を株主に代わって遂行する経営者(エージェント)という構図から成立しています。創業当時の株式会社、経営者=株主であり、 経営者の目的=株主の目的という構図であることがほとんどです。しかし、株式公開を行い、株主の分散化が起きると、経営者の目的 ≠ 株主の目的であるケースが出てきて、様々な課題が起きたのです(Tirole 2005)。
例えば、業績も株価も低迷が続いているのに過剰な役員報酬をもらい続けようとする経営陣、短期利益を優先するがために長期利益を犠牲にするなど企業価値を損なわしかねない行動がおきていることを多数の学術研究が報告しています。(Yermack (2006), Graham, Harvey, and Rajgopal (2005))
これらの行動は、株主利益の毀損に繋がりますし、雇用されている社員の不利益にもつながりかねません。もちろん、そのような行動が発覚した場合には、経営陣に罰則を与える契約をすればいいでしょう。しかし、完全に契約に織込むことは難しいうえに、株主より当該企業の情報を知り尽くした経営陣は、株主の見えないところでモラルハザードを起こす可能性は残り続けるのです。こうした情報の非対称性によって起きる課題を、エージェント問題と言います(Jensen and Meckling, 1976)。
言うまでもなく、最悪の場合、株主は企業保有者なので、株主総会で議決権を通してモラルハザードを引き起こす経営陣を退陣に追い込むことも可能です。しかし、下記で示すように、実はそれもなかなか出来ないのです…。退陣の脅威にさらされないからこそ、こっそりと経営陣がモラルハザードをし続け、それが倒産という株主利益だけでなく社員への不利益に繋がることも起きてしまうわけです。

*なぜ、「モラルハザードを起こす経営陣」=「ヤバイ経営陣」をすぐ退任させられない?
 では、なぜ退陣に追い込めないのでしょうか? Jensen (1996)は、株主は保有企業で直接的に意思表明を示すことはできないが、議決権行使によって企業価値へ影響を与えられると報告しています。しかし、実際に影響を与えられているかの学術的根拠には乏しいとCai, Nguyen, Walkling(2017)は指摘しており、Bebchuk (2003)は、現職の取締役は議決権行使による解任の脅威にほとんど直面していないと報告しているのです。ここで引用している学術研究は米国のケースですが、国内資本市場を日々ウォッチしている自身は日本で起きていても不思議ではないなと思うことばかりです。
 こんな話をすると、いや!プロ投資家である機関投資家はうるさいぞ!彼等が経営陣を監視してくれているはずだ!との声も聞こえてきそうです。しかし、それにも課題があるのです。というのも、Coffee (1991)は、機関投資家の報酬体型に着目しこのようなことを指摘しています。投資先の経営陣を確り監視したところで、機関投資家の報酬に反映されにくいこと。更には、報酬は投資リターンだけでなく運用金額で決まることがあるからこそ、経営陣を監視するインセンティブが働きにくいと…。
 かつては、委任状争奪戦によりプロ投資家が経営陣を退任に…なんて話も話題になりましたが、その成功確率の低さから米国では近年ほとんど起きていませんし、日本でもです。では、企業保有者の株主の影響力が完全ではないならば、誰が経営陣を監視するのでしょうか?

*機能する社外取締役とは?

 そこで、最近注目されているのが、株主の代わりに経営陣を監視する社外取締役です。しかし、上述した企業不祥事を引き起こした上場企業には、社外取締役は存在していました。社外取締役が経営陣を監視しきれない背景には、彼・彼女達の能力云々だけでなく、Jiang, Wan, Zhao(2016)では、社外取締役は2サイドインセンティブという課題を指摘しています。社外取締役に、そのポストを与えてくれた経営陣(社外取締役の使命はほとんどが経営陣マターや繋がりで決まることがCai, Nguyen, Walkling(2017)で報告されています)に取り入って収入と来期ポストを優先すべきか、または株主に代わって監視を行い自分の評価を高めるべきか…という二つの誘因で行動が迷うというのです。
 では、後者の誘因を優先する社外取締役はどんな特徴があるのか?Jiang, Wan, Zhao(2016),Diamond (1989)は、経営陣と対立して当該企業の社外取締役ポストを失っても今後の仕事への影響が出にくく、社会的評価が既に高くて企業不祥事の際に甚大な影響が出やすい人物ほど、株主の方向をみて、モラルハザードになりかねない案件には取締役会で反対票を入れる確率が高いことを指摘しています。そこに年齢が重なるとその傾向は、更に高くなるとか。じゃあ、そんな人物はいるのかって?自身は、かつてソフトバンクで社外取締役をしていた、永守重信氏のような方をイメージしいています。その社外取締役のポストが無くなったぐらいではびくともしないし、社会的評価は抜群ですから!
経営陣と学校が一緒だから、モノを言わなさそうだから就任したという社外取締役でなく、自分の生殺与奪権を握りかねない経営陣を監視しボコボコにしてくれそうな社外取締役がいそうな企業を選ぶというのも、キャリアリスクヘッジのための視点としてありかもしれません。

 他にも、経営陣のモラルハザードを防ぐ制度は多数存在しますし、複合的に制度設計を行うことが必要です。今回は書ききれなかったので、またいつかの機会に…!

長い文章を読んでいただきありがとうございます!
応援いつもありがとうございます!
崔真淑(さいますみ)

*2018年10月にニューズピックスにて記載した内容を一部変えて記載したものです。

コラムは基本は無料開示しておりますが、皆様からのサポートは、コラムのベースになるデータ購入コストに充てております。ご支援に感謝です!