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「歴史は繰り返す」経済バカ殿がトップだと庶民が苦しむ

世の中の一般的な庶民は「なんだか生活が苦しいなあ」と思っていることだろう。それもそのはずで、食料などは軒並み値上げされていて、電気代などの光熱費も異常に高いし、クルマを使う人にとってガソリンの価格に至っては勘弁してよという話だろう。その値上げに見合う収入増があるならともかく、手取りもさほど増えていないのである。

その一方で、既に報道されているように国の税収は過去最高の71兆円だったらしい。20年度から3年連続で増え続けている。、

これを聞いて普通はこう思うだろう。「そんなに税収が多いなら、減税とかしてくれよ」と。

しかし、政府と財務省は絶対にしないのである。むしろさらなる増税を考えている。

江戸時代に「慶安のお触書」というものがあった。教科書に載っているから知っている人もいるだろう。「百姓は朝から晩まで働け」とか「百姓は茶も酒もたばこもやるな」とか書かれている酷いものだが、これは三代将軍家光の頃に出されたものである。

しかし、それよりも酷い迷言がその後生まれている。
「ゴマの油と百姓はしぼればしぼるほど出るものなり」

これを言ったのは、幕府の勘定奉行神尾春央(かみお・はるひで)である。事実、神尾は全国各地に散らばる幕府の天領を視察し、収税状況をチェックし、隠田の摘発などのほか、基本的な年貢率の強化(要は増税)を行った。結果、神尾がそれを実施した年は江戸時代約260年を通じて収税石高が最高記録の180万石を達成した。

それを命じたのは、名君というイメージのある徳川吉宗である。
吉宗は確かに、目安箱の設置や大岡越前の登用など一部善政をやったが、こと経済政策に関してはクソがつくほどの悪政しかやっていない。いわば経済オンチの政治家だった。

為政者が経済オンチだと結局苦しむのは庶民。

神尾の件の結果がどうなったかというと、当然百姓たちは困窮し、摂津、和泉、河内、播磨、大和の農民たちが決起して、各奉行所に年貢の減額を訴えた。それだけではなく、摂津、河内3郡の農民ら2万が、京都御所に押しかけ、朝廷として、幕府に対する年貢の減額の斡旋を行ってほしいと求めた(摂津国河内国延享2年一揆)。これ、もう「幕府なんかあてにできねえ。天子様お願いします」であって、結構為政者としてダメ出しくらったような話。

お上の税収が最高記録なんて事態そのものがロクなもんじゃないという話である。お上が潤うということは、イコール庶民たちが苦しめられた結果であるからだ。

話を冒頭の令和の税収最高記録に戻すと、なんでそんなに税収が多かったかという消費税の税収が23兆792億円で過去最高だったからである。それは国民の消費意欲が旺盛で好景気でそうなったわけじゃない。いわばインフレのあだ花みたいなもので、生きるのに必要な消費をしただけなのに元の物価があがっているからそうなっている。それこそみなさんの手取りはそんなに増えていないだろう。



2022年度の歳出では、予算に計上したものの使わなかった費用が約11兆円もあるそうだ。だったらその分減税できるだろうって話で、消費税減税が無理でも、各種控除の拡充などで国民の手取り=可処分所得を増やす方策はいくらでもある。そして、国民の可処分所得を増やせば、巡り巡って結果的消費税の税収はあがるはずなのである。

でも、政府は絶対にそれをやらない。わかってなくてやらないのではない。わかった上でやらない。てか、信念をもって緊縮財政をやっている。

実は、徳川吉宗の経済バカ殿ぶりを猛烈に批判した目安箱の投書がある。投書したのは浪人の山内幸内という人物である。

彼の批判を要約を意訳してお伝えすればこうなる。
「お上が節約をして無駄な出費を減らすことは大変結構な事だが、それを庶民に強制するんじゃねえ。贅沢とは役人が公金で遊ぶようなことをいうのであって、庶民の金は流通してなんぼだ。むしろ裕福な人間は金をたくさん使ってもらわなきゃ困る。それで職人や商人たちの生活が成りたつのだから。金を蓄えて使わないなんての愚の骨頂で、人間でいえば金銭は血液のようなもので、病気にならないためには血行(流通)をよくすべきなんだよ」
と、経済学の父と呼ばれるケインズが言ったようなことを160年前の江戸の一介の浪人が言っている。

役人が公金で遊ぶようなことを戒めているのも、現代のエッフェル議員の例のようなものはいつの時代でもあったのだな、と思わざるを得ない。全体の景気がいい時はそれも許せるが、そうじゃない時はそらみんな怒るでしょって話だ。あれは怒っていいし、あれを「そんな目くじらたてるほどでもない」というのは上級国民だから言えること。

ちなみに、この批判をした山内を吉宗は罰せず、笑って褒美をとらしたそうで、それもまた吉宗の寛容さを示す美談として語られているが、結局この献策を取り入れることはなかった点が経済バカ殿たる所以だろう。

繰り返すが、為政者が経済バカ殿だと結局苦しむのは庶民。

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