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シニア人材の活用の戦略・戦術・個人レベルの違い

戦略・戦術・個人レベルの視点を分けて考える

歴史的に人材マネジメントの用語には軍事由来のものが多い。その中でも混同されやすいのが、戦略と戦術だ。戦略は、軍事目的を達成するための方針や計画であり、資源の配分や獲得といった内政面も含める。戦術は、戦略の枠の中で戦闘に勝利するために行う計画や方法になる。個人レベルで戦闘に勝利するための方法は兵法になる。
どれも勝利を収めるための方法という意味では戦略と戦術と兵法は同じだが、これら3つのレベルの事象を混同して語ることはファンタジーの世界でもない限りないだろう。しかし、企業になると、とたんに混同されがちになる。
企業に置き換えると、戦略は会社全体を俯瞰して立てるもので、戦術は部署単位で目的を達成するための計画と言えるだろう。個人レベルでは、組織行動やマネジメント行動、キャリアなどがこれにあたる。

シニア人材活用の戦略・戦術・個人の違い

戦略レベルでシニア人材の活用を考えると、リソースの分配と再配置の問題になりやすい。組織の新陳代謝を図るために、定年を迎えた従業員には人員補充が難しい職種に移動してもらい、新たな職種で業務を遂行するための能力を習得してもらう。
しかし、戦術レベルでみると、人材を駒のように移動させて活躍するかというと、そんなに単純な話ではない。当事者のモチベーションや資質の問題、もし現場仕事をしてもらうのであればシニア人材の体力面についても考慮しなくてはならない。職務の設計や配属する部署の設定、配属前の準備やリスキリング研修の計画と実施など、対処すべき事象は数多い。
また、個人レベルでみると、会社都合の戦略や戦術とは別ロジックで話が進む。定年の年齢まで、キャリアについて主体的に考えることをしてこなかった場合、社内での扱いが悪くなることに憤りや失望といった感情面と向き合う必要が出て来る。自律的にキャリアを考えている場合は、事前にリスキリングで準備をしたり、自分のポジションを社内に作ったり、社外に飛び出して新しい挑戦に取り組んだりと建設的な行動をする。
つまり、戦略レベルではシニア人材を活用するための機会を準備し、戦術レベルでは実際に運用するときに必要な施策を講じて実行することになる。一方で、個人レベルでは従業員がキャリアについて向き合い、対処していくことになる。

ニュースで取り上げるシニア活用は戦略レベルが多い

シニア人材の活用でメディアに取り上げられる事例は、戦略レベルなことが多い。例えば、先日は吉野家で定年社員をトラック運転手として再雇用するというニュースが流れて世間を賑わせた。2年前には、電通がシニア人材を対象に個人事業主として業務委託契約に切り替えて働くことが出来る制度を取り入れて話題となった。

これらの取り組みは、全社レベルで人材を再配置するという戦略レベルの取り組みだ。実際には、部署レベルで運用するための多様な施策と連動させる必要があり、そういった戦術が制度の成否を分けることが多い。一方で、このような時代の流れと会社からの要望に適応するために、個人もキャリアを見直す必要が出ている。

ここで、冒頭で軍事用語として戦略・戦術・兵法を紹介したことを思い出してほしい。シニア人材活用の戦略と戦術は、どれも会社が従業員の社会人人生を保証するのではなく、それまで培ってきた経験を活かして自律することを求めるように変化している。つまり、個人が独立して生きていけるように自身の市場価値を上げなくてはならない。自身の市場価値を兵法とするのであれば、武芸と同じように研鑽と自己鍛錬を積まなくてはならないし、剣術道場などで学ぶことで本目録や免許皆伝をもらうことが重要になる。

キャリアを兵法となぞらえて考えると、シニア人材と呼ばれる年齢に差し掛かってから慌てて能力開発に勤しむのではなく、日ごろから訓練し続けることの大切さがわかるだろう。新たな能力を身に着け、一人前になるためには時間がかかり、身に着けた能力も長い間使わないと錆付いてしまう。新しい技術が生まれたときに、練習を怠っていると古いやり方しか覚えておらず、試合で勝つことも難しくなる。

会社としては、個人レベルの事象を丁寧にケアすることは難しいことが多い。それはレイヤーの異なる施策を実施しようとすると、多大なコストが必要となるわりに、そこから得られるリターンがわずかで生産性が低すぎるためだ。有限なリソースをそこに割くことは現実的とは言えない。しかし、戦略レベルのことはできるし、運用を担当する部署が戦術で補完することもできる。しかし、個人レベルのことは個人でなんとかするしかない。そのためにも、年齢に関係なく、自分の市場価値を上げるための努力を続けることが重要だ。

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