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隠れた富裕層の広がりと消齢化社会の特徴

 2024年の消費経済を占う上で重要な顧客層となるのが、趣味を楽しむことに積極的で、興味のある分野では高級品の買い物にも前向きな人達である。日本には、1億円以上の金融資産を持つ富裕層が148万世帯(全世帯の約3%)、5000万円以上の準富裕層を含めると474万世帯(全世帯の約10%)になる。高齢になるほど資産額が増えていくのは自然なことだが、富裕層の属性にも変化が起きている。

特筆すべきなのは、生涯独身者の富裕層が増えていることである。結婚する、しないは、それぞれの価値観だが、家族を持たなければ生涯支出は減るため、資産額は増えていくスピードも速い。大企業に勤めながら実家暮らしをする独身者は、50代で純資産額が1億円を超すケースもある。また、30~40代で早期リタイアを目指すFIRE族(Financial Independence, Retire Early)の中でも、独身のライフスタイルを守り続ける人は多い。

金融庁の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、単身者の金融資産保有層は中央値が450万円だが、平均値では1348万円という大きな差がある。これは上位の単身富裕層が、平均値を押し上げていることを意味している。3000万円以上の金融資産を持つ単身者の割合も、2007年には8.0%だったが、2022年には13.4%にまで増えている。

家計の金融行動に関する世論調査

同調査では、遺産についての考えも質問しているが、独身者は財産を残す子供がいないため、自分が楽しむために使い切りたいという回答が最も多く、全体の30%を超している。これら独身マネーの一部は、趣味のコレクションや、特別な体験ができる旅行、レジャーなどに向かっているが、本当に有意義なお金の使い道は、意外と少ないのが実情である。

【世代格差を消滅させる消齢化社会】

 お金や生き方についての価値観は、年齢と共に変わっていくのが定説だが、現代では様々な情報やコミュニティを探すことができるため、年齢に関係無く、同じ価値観を持つ人達との結び付きが強くなっている。たとえば、同じ旧車に乗るユーザーが集まるオフ会では、20代と50代でも友達になることができる。 不動産投資の勉強会でも、20代から80代まで多様な年齢層が参加しているが、大家として成功したいという目標は共通しており、年齢差を超した新たな人間関係が生まれている。

従来の人間関係は、「上司と部下」のような上下関係により世代間の垣根が存在していたが、趣味や嗜好によって結びついた人間関係では、水平な付き合い方になっていく。このように、世代格差が次第に縮小していく社会を、博報堂生活総合研究所では「消齢化社会」と名付けて、古い常識やライフスタイルが変化していく様子に注視している。

消齢化の潮流は、若年層が中高年の嗜好に近づいていることと、逆に中高年が若年層の嗜好に近づいていることにより起きている。その例として、ファッション分野はわかりやすく、若者は、30年以上前のヴィンテージファッションに憧れを抱く一方で、高齢者はファッションへの関心が薄いと言われてきた常識も、現代では当てはまらなくなっている。

さらに、金銭的な面でも世代間による経済格差は縮小している。これは、前述のように、副業や投資に関心を持つ若者が増えていることが関係している。反対に、低賃金で働き続けるだけの中高年層は、30年前の同世代と比較しても、経済的な余裕が無くなっている。消齢化の時代には、年齢に関係なく、人生を楽しみながら、新しいことにチャレンジすることが、成功や幸福感へと結びついている。

消齢化社会「生活定点」年代別グラフ(博報堂生活総合研究所)

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