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経験の無い物価低迷に直面するユーロ圏 ~日本化の足音~

悲惨な物価情勢が継続
現在、ユーロ圏は経験の無い物価低迷に直面しています。ユーロ圏のデフレ懸念自体、もう5~6年前からあるものですが、ここにきて再度注目されています:


12月1日、ユーロスタットから発表された11月消費者物価指数(HICP)は前年比▲0.3%と4か月連続で前年比マイナスを記録しました。マイナス幅も市場予想(同▲0.2%)を超えるものでした。変動の大きい食料・タバコ・アルコール・エネルギーを除いたコアベースで見ても、同+0.2%と過去最低の伸び率を3か月連続で記録しています(下図):

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こうした物価情勢が断続的に緩和策を強化しなければならない政策理事会の立場に繋がっているものと考えられます。

サービス物価低迷の波
現在、ユーロ圏が直面している物価低迷の中身を詳しく見るとより深刻さが感じられます。上の図に示されるように基本的にはエネルギー価格のマイナス寄与が物価低迷をけん引しており、この効果が剥落してくる2021年には物価は増勢を取り戻すというのがメインシナリオではあります。しかし、「エネルギー以外の鉱工業財」に限って見ても4か月連続で前年比マイナスを記録しています。もちろん史上初めての出来事です。原油価格の急落はこれまでも経験した事態であり、そのたびに「エネルギー以外の鉱工業財」の物価を下押しするということは確かに見られてきましたが、これほどマイナスが続いたことはありませんでした。

今後心配される展開は「エネルギー」および「エネルギー以外の鉱工業財」といった生産活動をするための要素価格が下落し、低位安定するという現在見られている潮流が労働市場、すなわち人件費にも及んでくる展開です。ただでさえ金融危機後の欧米では賃金の伸び率低迷に懸念が高まっていただけに、コロナショックがどのように影響を与えるのかは相当重要なテーマと考えられます。賃金低迷はそのまま家計部門の消費・投資活動の足枷となり、長く暗い低成長期の遠因となり得ます。

なお、ユーロ圏に限ったことではありませんが、先進国では自然利子率(理論的には潜在成長率と近似する計数)が下がってきているという見方が台頭しており、先般、そのような記事も出ていました。これは短期的には重視されませんが、中長期的には極めて重要な話です:

この点、物価統計において人件費の先行きを読むにはサービス物価の動きが参考になります。サービス業の性質を踏まえれば、およそサービス物価とは賃金の塊と考えて差し支えないからです。既にECB政策理事会ではサービス業ならびにサービス物価の低迷が議論の的となっていますが、ユーロ圏のサービス物価は経験の無い低迷に直面しています(下図):

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2008年(すなわちリーマンショック)までの5年間、2019年(すなわちコロナショック直前)までの5年間、そして年初来11か月間について総合・コア・サービス物価の伸び率平均を比較したものが下図です。サービス物価はリーマンショック前と比較して半分以下になっており、それが総合やコアで見たHICPの伸び率鈍化に寄与している構図が見て取れます:

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もちろん、現状はドイツにおける時限的な消費減税など、コロナ禍に限定した租税政策が広くあまねく物価を押し下げているという特殊事情もあり、それがサービス物価にも波及している部分は小さくないと考えられます。しかし、日本が経験してきた「デフレの粘着性」に鑑みれば、こうした動きはいったん定着してしまうと払しょくが難しいという印象があります。世界経済がアフターコロナを迎えた際、ユーロ圏に圧し掛かっている物価低下圧力が綺麗に取り除かれるのかどうか。自信を持って「元に戻ると思う」とは言い切れないのが現状かと思います。


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