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米中対立とスタートアップの未来、アジアの未来

国際交流会議「アジアの未来」で、米中対立について取り上げた議論が、今後のスタートアップエコシステム動向を考える上でも大変興味深い内容だった。討論の概要についてはこのリンク先の記事にある。

深刻化する米中対立の時期にあって、こうした当事国のパネラーも含めた対話と意見交換の場があることは大変有意義なものだ。記事に書かれていないこととしては、今の米中関係は言ってみれば「ニューノーマル」であり、20世紀の米ソ対立とは根本的に違うという指摘は非常に興味深かった。つまり、米ソ対立は、アメリカとソ連2つの陣営がそれぞれ異なるシステムにおいて対立していたのに対し、今回の米中対立は1つのグローバルなシステムの上での対立である、というシンガポール国立大学中東研究所所長ビラハリ・カウシカン氏の指摘があった。こうした理由からであろう、貿易だけは融和的な仕組みがまだ残っているという指摘もあった。

これはスタートアップエコシステムにおいて世界の中心であり続けているアメリカのシリコンバレーと、そこに有能な人材を供給してきたアジアという観点で見ると、米中関係もこのシリコンバレーのスタートアップのエコシステムにも少なからぬ影響を与えることは間違いないと言って良いだろう。

例えば人材の面。カンファレンスの中でも指摘されていたと記憶しているが、すでに米中間の人的交流が減っているという。これがアメリカのスタートアップへの中国からの人材供給が滞ることにも及べば、アメリカのスタートアップの競争力が相対的に低下する可能性がある。中国人だけではないが、シリコンバレーの人材の少なからぬ割合がアジア人で、この記事によればFacebook社員の半分以上はアジア系ということだ。

こうした中国人の人材が、アメリカではなく中国国内のスタートアップで働いたり起業することになれば、中国の中でのスタートアップの成長が一層進む可能性もあるのではないか。そこに国家的なバックアップがあればなおさらこのである。

大雑把に言ってアメリカの5倍以上の人口がある中国は、すでにローカルに巨大なマーケットが存在していることは、スタートアップの成長にとってプラスに働くものとなるだろう。そこにスタートアップを成長させる人材と資金を供給するエコシステムが完成するのであれば、今後中国のスタートアップエコシステムがシリコンバレーと肩を並べ、あるいはそれ以上のものになるという可能性もあるかもしれない。

こうして中国のスタートアップが成長する時に、日本やその他の西側諸国がその恩恵に預かれるか、具体的には投資の機会を得られたり、中国のスタートアップとのオープンイノベーションの機会が得られるかは、今後の動向を注目したいポイントである。

投資については、中国政府がスタートアップへの資金供給を強め、株式の一定割合を海外株主に握られることによって中国のスタートアップの持つ技術などが流失することを防ごうとするのであれば、投資の機会は限られることになって行くかもしれない。

一方、こうしたスタートアップとのオープンイノベーションを始めとしたビジネス面での提携については、政策的にもまたスタートアップの成長という観点からも、特に日本のようにアメリカと中国の両方と関係が深い国においては、中国との関係を経済面で維持するため、中国の国策として積極的に展開される可能性もあるかもしれない。

日本は、アメリカ側の自由主義・民主主義の陣営に属する国なので、政治的にはアメリカ側と同じ立場に立つことになる。こうした中で、経済の面で中国とどのように関係を維持していくのか、ということは大きなポイントになると思われる。ここでは昔から言われている「政経分離」のスタンスを取ることになるのだろうか。

この時に、ベンチマーク的に見ておきたいのは台湾の動きである。台湾は中国の主張からすれば中国の一部であり、またニュートラルに見ても広くグレーターチャイナ(大中華文化圏)の中に属する国である。一方で台湾の政治体制は民主制であり、その点では日本と同様に自由主義・民主主義の陣営に属する国だ。今後の技術の利用においてキーデバイスと言っていい半導体の製造の面ではトップクラスの実績と能力を持つ国であり、人口規模は小さいものの、テクノロジーの世界での存在感は決して小さくない。

この台湾が、政治・経済両面において、どのように中国とのスタンスをとっていくかは、日本にとって大いに参考になるのではないかと思っている。

米中対立というと、当然軍事的な紛争の可能性もあるが、そこでいちばんに巻き込まれる可能性が高いのは台湾とそして日本である。対中国で台湾と日本の有事が起きるとすれば、同時に起きると考えておくことが自然であろう。

その意味も含めて、台湾がどのように中国及びアメリカとの距離感を持って政治的経済的あるいは軍事的な対応に出るのかは、日本の選択をどうするべきかを考える上で、ひとつの判断材料となるものだろう。そして、それは台湾のスタートアップやスタートアップエコシステムがどのように変化していくかという点でもまた、注目に値するものではないかと思っている。

台湾もまた Startup Island Taiwan をスローガンに国を挙げてスタートアップのサポートをする方向に向かっている。

こうした状況下で、米中対立はスタートアップエコシステムにとっても無関係のことではない。アメリカ・中国はもちろん、台湾などの動向も見ながら、日本のスタートアップにとって望ましい、出資者やマーケット、あるいは事業提携先などについて考えていく必要が強まるだろう。



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