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広告の使い道、これからのグラデーション

最近のときめき

杉山恒太郎さんの連載する「世界を変えたネット広告・海外編」にここ毎朝“ときめいて“いる。評判になった著書の流れをくむ「世界を変えたネット広告」の海外編である。

日経電子版で見ている私はワンクリックでまずはその広告を動画で視聴してから文章にあたれるのでそれはもう便利、もはや新聞紙には戻れまい。吉行和子の私の履歴書も縦書き活字をスマホで拡大して読んでいる、きっと新聞紙はもうムリ。そういう意味では私も実はネット広告側に巻き取られている側の一人なのだろう。

さて毎日の連載に“ときめいて“いるのだが、一方なにか“郷愁感”のようなものを感じとってもいる。それが何かと問われてみれば、広告というものそのものの郷愁感だろうか。テレビが家からなくなって10年ほど経つ。
大きな資本で大量のものを作り大量に広告を流し大量の消費者に買ってもらう、企業広告だとしても結局企業のブランドイメージを上げて商品やサービスを利用してもらう、そのために莫大なお金を投じて作られる広告、というもの。

連絡をしてみたら

連載が始まって恒太郎さんにメールをしてみた。

「本当に毎日感動しています。あの広告の力を、現代に、ちょっとベクトル変えて何かに放射できないか、などと考えます。」

と。
恒太郎さんから、

まさにそれが狙い!

とお返事が。
そう、あれだけの美しき感動の広告という存在を単に一企業の売り上げのためだけでなく、単発のソーシャルグッドだけでもなく。


SuicaやPayPayなど電子決済が流通すると、商品と紙幣の交換という感覚が薄れ、単にポイントが増えたり減ったりしているだけのような気になる。かつてはモノとかコトの対価で交換していたが、もっと曖昧な感謝とか応援とか共感とか、本来対価性がないものも、その意思表示としてポイントが増減して、送ったポイントが巡りめぐって後ろから付与されたり、そんな感覚的な経済活動が生まれてくる気がする。

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「ウェルビーイング 経営に幸せを」も面白い


企業が企業価値として社員の幸福を捉え出したと。

私は昨年コロナ禍にステイホームをしてみて、「1/1の人生」と感じた。
料理をつくって家族と食べて、今更ながら自分の人生、自分の幸せを感じたが、それはイノベーションも必要なく自分の足元にあったと。だから社員にも言っている、仕事だけに依存するのではなく、自分の幸せは自分でちゃんと小さく設計してねと。そりゃーそうである、自分の人生の主役は自分でしかなく、会社がとって代われるものではない。
複業もコミュニティも興味の先も、社会関係資本を広く蓄えて、一人ひとりが幸せに自律できれば、その集まりである家族、その集合体である組織は、きっとより魅力的で機動的であろう。

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1コマ漫画を思い出す

私が新卒で三菱商事に入社した36年前、こんな1コマ漫画があった。
南の島の椰子の木の下でのんびりと寝そべっている現地の人の横に、スーツでアタッシュケースを携えた商社マンと思しきビジネスマンが立っている。
現地人が何をしているんだと重ねて聞いていく。商社マンは世界中を飛び回りビジネスを広げ、会社と自分に利益をもたらし家族を築く、そのために寸暇を惜しんで世界を飛び回っている!そして成功して、将来は南の島で幸福にのんびり暮らすのだ、と。
すると現地人「それなら今わたしはやってるよ」。

4月の中旬、恒太郎さんとTimeout Tokyo副社長の東谷彰子さんとブルーボトルコーヒー本体のブランド責任者元日本社長の井川沙紀さんと4人で北軽井沢の我が家に泊まりに行った。
平日である。皆さん私が主宰するコミュニティ「新種のimmigrations」の住民でもあるが、とても豊かな日となった。
私は北軽の家に行くとなるべく電気も音楽もつけず、不便と孤独を楽しみにいく。

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この日は、陽のあるうちからご飯の用意。沙紀さんは蕗味噌を炒めて作ってくれた。東谷さんはまな板の音もリズミカルにとにかく手際が良い。
ふと見ると、暖炉の前のソファで、恒太郎さんが、いびきをかいて寝ていた。

平日、足元には夕刻の西陽がりろりろと差し込んでいる。
こういうのを幸せ、というのだろう。
平日と休日、オンとオフ、かつては綺麗に分かれていた。分けるべきだった。
今は、グラデーションの中で様々な社会関係資本を蓄え、手段と幸福を波が寄せて返すように同時に手の中に納めていく。
広告表現、デジタルの流動性、幸せ、自律、循環、チャレンジ、隙間、ひらめき、仕事、価値、横へのスライド、仲間、愛情、やはり幸福。


36年前の1コマ漫画のおじさんが、今目の前にいる。

この記事を書いた人

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遠山正道(とおやま・まさみち)
スマイルズ代表取締役社長/スープストックトーキョー代表取締役会長

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。著書に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)。

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