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富裕層ビジネスの拠点として見直される百貨店の外商ネットワーク

 消費者の買い物意欲は実収入の低迷によって伸び悩む一方で、高級品の売上は好調となっている。大手百貨店の2021年度の決算は、大丸松坂屋百貨店を運営するJ.フロント リテイリング(3086)、高島屋(8233)などが前年比で売上を伸ばしている。

コロナ前の百貨店は、外国人旅行者によるインバウンド景気に支えられてきたが、コロナ禍以降は大幅に売上が減少した。その打開策として、国内富裕層に対するラグジュアリーブランド、高級腕時計、宝飾品などの販売を強化することで、経営を立て直す兆しが見え始めている。銀座に本店を置く老舗百貨店の「松屋」では、100万円以上の高額品を購入した顧客が前年比で2倍に増えており、一部の得意客が業績全体を牽引する流れとなっている。

これらの富裕層向けの販売チャネルとなっているのが、百貨店にある「外商」の部門で、フリーで店舗を訪れる一般客とは異なり、得意客1人ずつに担当者が付き、趣味や嗜好を熟知しながら、顧客のニーズに合った商品をセレクトして販売していくスタイルである。

もともと、年配の経営者や医師などが主な顧客層だが、最近では30~40代で事業や投資で成功したニューリッチ層も外商ルートでの買い物に興味を示すようになってきている。それは、一般客よりも早く特別な商品の情報を提供してもらえたり、限定商品の入手がしやすくなるためだ。しかも、百貨店は、入荷数が少ない限定品でもプレミア価格は上乗せせず、定価販売が基本だ。

たとえば、エルメスやロレックスの新作商品は、百貨店の店頭にはほとんど陳列されなくても、外商ルートであれば融通してもらいやすい。そこに決まったルールがあるわけではないが、日頃から外商担当者との付き合いが深く、年間の購入金額が高い顧客には、特別な商品の購入権が優先的に与えられている。

各百貨店では、外商客の開拓ルートとして独自のクレジット会員制度を設けており、そこでの買い物実績が高い顧客に対して、外商カードへの切り替えを行うインビテーションを送っている。百貨店によってインビテーションが届くまでの難易度は異なるが、年間100万円以上の買い物をしてくれることが優良顧客の基準になっている。

《百貨店外商顧客の特別サービス》
 ○外商顧客専用カードの付与
 ○買い物をサポートする担当者が付く
 ○年間購入額に応じた特別割引率が適用される
 ○百貨店内の特別サロンを利用できる
 ○駐車場の利用が無料になる
 ○担当者に商品を自宅まで届けてもらえる
 ○限定商品を購入しやすくなる
 ○特別イベントへの招待

最近では、外商の会員顧客を広げることが百貨店のビジネスモデルとして重要視されており、大丸松坂屋のように外商カード(お得意様ゴールドカード)の申込をオンラインで行えるようにしている例もある。このカードで年間70万円以上の買い物をすると、翌年は買い物金額に対して10%の割引率が適用され、駐車場の利用が一定時間は無料になる特典もある。

同社の決算資料によると、お得意様ゴールドカードの発行枚数は31.2万枚に対して稼働客数は23.8万人で、年間の平均購入額は57万円となっている。

大丸・松坂屋お得意様ゴールドカード

外商の販売手法は、老舗百貨店が呉服屋だった江戸時代からあるもので、当時の得意客であった武家屋敷を定期的に訪問しながら、高級着物を掛け売りで販売することからスタートしている。現代でもその手法は踏襲されているが、掛け売りがクレジットカードとなり、訪問販売はオンライン商談へと進化してきている。

100万円以上するような高額商品を販売するには、セルフサービス方式のeコマースでは営業力が弱いため、担当者が顧客の希望をヒアリングしながら目的の商品を探し出す「外商」の手法は、富裕層向けのパーソナルショッピングとして海外からも注目されている。

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