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その食は、人を良くするのか? 〜 日経のお題「毎日UberEats有りですか/食の未来」への応答

日経新聞からの今月のお題の1つが、「毎日UberEats有りですか?」。質問の趣旨は、未来の食についての考えを、ってことだから、そっち側での返答をしつつ、Uberの話に最後戻るって流れで行こうと思う。

2013年。3月20日。

この日僕は羽田から高松行きの早朝の第一便に乗った。

2回目の瀬戸内芸術祭のオープニング目掛けて。


行く理由は色々あって、1つは、NYに行くたびにお世話になる、83歳(当時)のアーティスト川島猛さんの作品を見つつ、ご本人にも会うために。

川島さんの話は今日はしないけど、インタビューはこちらに以前まとめたので是非読んでほしい。


もう1つは、現代美術家、僕の人生の師匠30人のうちの一人、椿昇師匠が、瀬戸内芸術祭の、小豆島のアート全体をプロデュースされていて、「開会式当日に来れるんだったら、小豆島を案内するよ」、とのことだったから、

それは行かない手はない。

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開会式で、椿師匠と合流。

小豆島にフェリーで一緒に渡る。

そして、「まずはじめにここを見てもらわんとな。」と、最初に連れて行かれたところは、、

どんなアートが設置されたところかな、、と想像していたら、、

ここ。

ズンズン入っていく椿師匠。

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場所は、ヤマロク醤油と言うお醤油やさん。

その先にあるのは、たくさんの大きな醤油の樽だった。

ヤマロク醤油の方にご説明いただいたが、写真を見た方が早いだろう。

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樽の表面にはびっしりと菌。

そこで話されたことは大体こう言うことだ。

現在、日本の醤油のほとんどがステンレスのタンクで作られている。樽で作られているのがごくわずか。(1%以下だったと記憶している)

しかし、ステンレスだと、菌が数種類しか生きていない。一方、この上の写真から醸し出されていると思うが、樽で作ると、その中には150種類くらいの菌が生きている。だから味わいが違う。

なぜステンレスが多くなったのか?

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それは、樽で作ると時間がかかるから。

仕込んで出来上がるまで、2年かかる。一方ステンレスだと3ヶ月。(記憶が違っていたらごめんなさい。でもスピードの違いはわかってもらえると思う)

ただそれだけでは、手間隙かけても樽でやります。と言う人がもっといてもいいと思う。そんなにステンレスばかりになった、その理由は、、

GHQ。

戦後、そんなに効率の悪い作り方をするな、とマッカーサー率いるGHQが醤油の工業化を進めたから。それでどんどん樽で作る醤油屋さんがいなくなり、今や樽を作る人がいなくなってしまい、「樽で作る醤油」の存続が危うい。レッドリストだ。

なので、銀行からお金を借りて、樽を作る職人さんがいる間に、樽を新たに発注したそう。

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樽で作るには菌が育つまでに長い時間がかかるが、そこを逆手にとって、新しくこの樽で作った醤油を「醤油ヌーボー」として出したところ、即完売したらしい。

様々な工夫。様々な思い。

毎日、家で使っている醤油、その身近な食べ物の背景にはそんな危機とエピソードがあった。

僕がその時感じたのは、

「3種類の菌の醤油を使っているのと、150種類の菌が育てた醤油を使うのと。醤油と言う日本人のベースが変わると味覚の物差しが変わってしまう。そうすると、文化、デザイン含め、日本人の繊細さの物差しも変わって、デザインが変わってしまうのではないか。」と言うことだ。

「まずは、小豆島のソウルを見んとな」と言うことで、いつも椿昇さんの小豆島ツアーはここから始めているらしい。


知らないうちに変わってしまう。それは恐ろしいことだ。

効率 vs 文化。

効率 vs 豊かな生活。


これについては、無限にエピソードがあるだろう。

ある飲料メーカーの人に聞いたことがある。狭山のお茶の生産者の方で、お茶を機械ではなく手もみをする方がいて、その方が言うには「誰かを思いながらお茶をもむと味がぐんとよくなる。」と。


また、日経の切り抜きで言うと、土曜日の有名人が若い時の食について語る食の履歴書のコーナーは、人間味だらけだ。

7月25日の「迷い見守る「オヤジ」たちの味 宇梶剛士さん」より切り抜き。

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単純な効率化の先に、この記事にある「心にしみた」と言うエピソードが生まれるか?

現代は「人間中心」「Human Centered」なデザインとか言うが、人間の「行動」に注目したDesignというだけのものが多くて、要は自社の稼ぎのためのHuman Centeredになっていないか?と思う。結局それは、自社中心じゃないか。そうすると、微細な判断が間違って、結局あらぬ方向に向かっている。

人間中心ではなく、「人間味中心」「"Humanity" Centered」な未来であって欲しい。食関係も、食関係以外も、あらゆる分野が。

食と言う字は「人を良くする」と書く、と、そう言う話がたまに出るが、(漢字の本来の由来は違うらしいけど)

人を良くするかどうか。それが良い未来の食への流れじゃないかなあ。当たり前だけど。

今日はほとんど触れなかったが、先述のアーティスト川島猛さんの言葉を手帳にメモっていたのを思い出した。その言葉で終わろう。

「人間性は、清い水。」




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