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100年思考のまちづくり〜社会的共通資本の市民協創

先日、京都大学の「社会的共通資本」に関する研究シンポジウムに参加した。「社会的共通資本」は宇沢弘文氏の提案した経済モデルです。きわめて多くの社会的共通資本の蓄積を持つ京都こそ、「文化で稼ぐ」を超えて、「より良い社会的共通資本を未来に遺す」という視点が必要であると感じました。ここでは、「社会的共通資本」という概念を手がかりに、これからの社会のあり方を「well-thinking(100年思考)」していくための方法について考えます。


社会共通資本の協創

次の記事は、「まちライブラリー」という興味深いグローバルな運動について紹介しています。「まちライブラリーは本のある場所。私設図書館のようなものだが、規模も立地も形態もさまざま。ビルの一室もあれば、屋外に置かれた鳥の巣箱状のものもある。本についてのトークイベントや読書会を開催することもある。運営する人も多種多様だ」と伝えています。


そしてさらに興味深いのが、「まちライブラリー」には象徴的な言葉がふたつあり、ひとつは「個」で、もうひとつは「社会的共通資本」と指摘しているところです。つまり、「個」の想いの表現である私設図書館が、まちの長期的価値を蓄積する社会インフラとなっているという解釈になります。

それはつまり、市民協働や市民協創というものが、「個」の身近な社会課題解決の手段というだけでなく、「社会的共通資本」そのものを生み出す行為であることを示唆しています。

未来の世代のために社会的共通資本を増やす

昨今、地域の価値を「市民のwell-being」で見ていこうという動きが活発です。たとえば福井県の小浜市では、「食のまちづくり」を宣言し、子どもたちが一次産業や料理に深く関わることが、一人ひとりのwell-beingに影響を与えていることを調査しています。well-beingの価値観では、一人ひとりはその人らしく幸せになる権利を持っており、その価値を他人が評価判断すべきではないと考えます。

では、well-being以前は何が指標だったのかと考えてみると、こんな言葉は使ってはこなかったかもしれませんが、経済成長重視の社会は「well-doing」を指標に発展してきたと言えるでしょう。well-doingの価値観では、生産性が高い人や組織が重要で、そこにインセンティブをかけることで、ますます生産性が上がっていくと考えます。この世界では生産能力の下がった高齢者はお荷物になります。

つまり、生産性を上げれば良い社会になると信じていた時代は、成果を上げる能力が最も大事になりますから、その人の学歴やキャリア、実績など、つまり「過去」を評価することを重視してきました。それが、一人ひとりの幸せを大切にする社会になることをめざすようになり、一人ひとりの「今ここ」を重視する時代にシフトしてきたと考えることができます。

しかし、過去を評価する時代から、今ここ、つまり現在を重視する時代になりましたが、それだけで、「未来の世代」に「より良い社会」をバトンタッチすることが本当にできるのでしょうか。

このような問題意識に基づき、「京都をつなげる30人」プロジェクトから生まれたコンセプトが「well-thinking」です。well-thinkingは「100年思考」とも呼んでいますが、現在のしがらみを超えて、自由に発想し、非連続な未来を協創していこうというアプローチです。「自分の人生の中で答えは出ない」という諦めのもと、「生きている間に答えが出ないものでも、本当に大切なものに取り組み始めよう」という力強いスタンスです。このような概念が、500年、1000年と続いている企業が身近に存在する京都から生まれたことは必然であると考えています。

well-doing:生産性重視。成果主義、能力主義。「過去」に注目。
well-being:幸福度重視。多様性包摂。今ここ、「現在」に注目。
well-thinking:本質重視。長期的思考。「未来」へ遺すものに注目。

つまり、「社会的共通資本の協創」をしていく時に、well-doing視点だと「社会的共通資本からお金を生み出す」ことに目が行き、well-being視点だと「社会的共通資本が幸せを生む」ことに目が行きますが、well-thinking視点を持つことができれば、「未来の世代のために社会的共通資本を増やす」というところに目を向けることができるということです。

生駒市の「協創」まちづくり

次の記事は、奈良県生駒市が、市民との「協創」を掲げた街づくりを進めていることを伝えています。自治会館などを「まちのえき」として市民主役の活動の場とし、若者の成長も後押しすることで、住むだけでなく地元で「働く」「楽しむ」ことができる住宅都市を目指しているといいます。

まちのえきは『クールスポット』として暑い日などに人が集まる仕掛けをつくったり、そのほかにも市民のアイデアを活かし、空き家活用の『恋文不動産』、ユニークな人生を歩む10〜20代の社会人や起業家などに学校の教師が講師を依頼できるマッチングサイト『U-29キャリア図鑑』、高校生が地域でやってみたいことを募りサポートする『いこま未来ラボ』など、「協創の場や機会」に溢れています。

これまでの価値観、つまりwell-doingやwell-beingの視点で生駒市の取り組みを見ると、「それで生駒市の社会課題はどれだけ解決したの?」であるとか「生駒市の人口流入は増えたの?」といった短期成果に目が行ってしまうのではないでしょうか。しかし、そういった既存の指標では生駒市の協創の本当の価値を価値を測ることはできません。well-thinkingの視点で、「生駒市が市民と協創した社会的共通資本」の真の価値を見つめることが、何より大切です。

100年思考のまちづくり

それぞれの個人が「100年思考」で自分のことを考えてみてください。もちろん100年後に生きている可能性は低く、いきおい、自分が死んだ後の社会、次の世代が生き抜く社会へと想いを馳せることになるでしょう。一人ひとりがそう考えることができれば、多くの人が理想の未来に向かって協力することができるようになるはずです。

また、100年後の人たちが何を幸せと感じるかなど、私たちには想像できるはずがないという諦めから、「より良い社会的共通資本を残そう」というところに考えを集中させることも可能でしょう。

私たちは、いつからでも、100年思考を始められます。組織や地域の人で集まって、100年後の人たちが「100年前の人たちってこんなこと考えて、新しいことを始めたんだね」と言っているシーンをみんなで想像してみませんか。



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