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ダニ媒介感染症に注意

 「感染症」の話題と言えば最近ではいつも新型コロナウイルスですが、他にも重要な感染症は山ほどあります。私は熱帯感染症が専門であり、その多くは昆虫媒介感染症や人獣共通感染症であることから、本記事を取り上げました。

 ダニ媒介感染症とは、病原体を保有するダニに咬まれることによって起こる感染症のことです。人が野外作業や農作業、レジャー等で、これらのダニの生息場所に立ち入ると、ダニに咬まれることがあります。ダニがウイルスや細菌などを保有している場合、咬まれた人が病気を発症することがあります。今回報道されたのは致死率が6~30%と高い「重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome: SFTS)」の感染例が、千葉県で確認されたものです。2013年に国内で初めて報告されて以降、感染地域は西日本が中心でしたが関東地方で確認されるのは初めてとなります。

主なダニ媒介感染症には以下のものがあります。

①ツツガムシ病

病原体はツツガ虫病リケッチア(Orientia tsutsugamushi)という細菌で、感染経路はこのリケッチアを保有したダニの一種であるツツガムシに刺されることで感染します。刺されて数日してから悪寒や頭痛を伴う高熱とともに皮疹もみられます。刺し口が特徴的で早期の診断と適切な抗菌薬投与により劇的に回復します。

②日本紅斑熱

病原体はリケッチア・ジャポニカ(Rickettsia japonica)という細菌で、感染経路はリケッチアを保有するマダニに刺されることで感染します。ツツガムシ病と類似するので鑑別は困難ですが治療は同様ですので早期の診断と適切な抗菌薬投与が重要です。

③ライム病

病原体はボレリアという細菌で、アメリカ北東部を中心に流行が続いていますが、国内での主な感染経路はボレリアを保有するシュルツェ・マダニ(Ixodes persulcatus)に刺されることで感染します。マダニ刺咬後に見られる関節炎、遊走性皮膚紅斑などが特徴的です。早期の診断と適切な抗菌薬投与が重要です。ボレリアによるダニ媒介性感染症にはシラミでも媒介する回帰熱もあります。

④重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

病原体はブニヤウイルスで、マダニに刺されることで感染します。2011年に中国で初めて報告されたダニ媒介感染症です。日本では2012年秋に死亡した患者が2013年1月にSFTS患者として初めて確認されて以降、毎年60~100名程度の患者が報告されています。抗ウイルス薬がないので対症療法となりますが、血小板減少、白血球減少、肝機能以上などがあり重症化する可能性がありますので注意が必要です。

マダニに咬まれないために

 草むらや藪などマダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖・長ズボン、足を完全に覆う靴、帽子、手袋を着用し、肌の露出を少なくすることが重要です。防虫剤は服の上から塗布することにより補助的な効果があると言われています。マダニ類の多くは皮膚にしっかりと口器を突き刺して長時間吸血しますが、咬まれたことに気がつかない場合も多いと言われています。マダニに気がついた時に無理に取り除こうとするとマダニの一部が皮膚内に残ってしまうおそれがあるので、必ず医療機関で処置をしてもらうようにしてください。もしマダニに咬まれた後に発熱等の症状が認められた場合は医療機関を受診するようにしてください。

マダニ対策・今できること(国立感染症研究所)

ちなみに過去に医学部の学生さんに出題した問題がありました。選択肢は一部改編していますが記事をお読みなれば簡単に解けますよね?

マダニが媒介するのはどれか。2つ選べ。

a. デング熱

b. ライム病

c. ワイル病

d. 日本脳炎

e. 日本紅斑熱

#日経COMEMO #NIKKEI

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