ちぐはぐに見えてしまいかねない外国人就労問題

安倍首相が経済財政諮問会議で外国人労働者の受け入れ拡大を表明した。農業、建設、宿泊、介護、造船の5分野が対象。業界ごとの試験と日本語試験に合格すれば最長5年の滞在が可能となり、外国人技能実習制度から移行した場合には通算10年日本にいられることになる。こうした措置は地方の中小、小規模事業者の人手不足が深刻化しているためのものであり、移民政策ではないと政府は主張している。

一方、外国人労働者の受け入れは、実態として急速に進んでいることを我々は知っている。しかも日本語も達者だ。コンビニで、おでんを買ったとき、桶の中からちくわぶと白滝を選んでくれたのはベトナムの女の子だったし、「辛子やゆず胡椒はいくついりますか?」とも聞いてももらった。これが政府の言う“日常会話ができるN4レベル”かどうかわからないが、十分な対応力に見えた。まだ留学ビザなどを駆使したものだろうが、それでも実際に始まっているように見える外国人就労を、今更特定の5分野に限って受け入れ拡大というのも、疑問は残る。

しかもそんな中、技能実習生に関する不正のニュースが出てきている。5月以降、日産自動車や三菱自動車は受け入れた技能実習生に本来の目的とは異なる作業に就かせていたことが明らかになった。受け入れ企業も制度悪用というより、拙速な制度設計で理解が浸透していなかったと主張しているようだが、それも無理からぬことかもしれない。

これから先の日本は放っておけば総人口が減る。2008年に1億2808万人とピークを付けた日本の総人口は2050年には9708万人と1億人を割る。人口は結局、競争力につながる。人口が減少していく国は、極端に言えば、AIやIoTの力を借りて効率化に勤しむか、移民政策に手を付けるか、人口が減ることによる景気の落ち込みを気にしないか、しかない。働き方改革で総人口を減らないようにする努力も必要だが、実際に想定しうる未来に確実に対応する必要がある。「外国のエリート層に選ばれる日本」。「優秀な技能を持った人のみ来日を望む」-といった悠長なことを言っている場合ではもはやない。外国人労働者の受け入れ拡大はいいことだ、と考えるが、あれこれ基準を設けた結果、うまく使えなかった、では、折角の踏込みも意味がなくなることも肝に銘じる必要があるのではないか。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31413180V00C18A6MM8000/

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