「スキルアップ=ハードスキルの習得」だけではない。AI時代にこそ必要な真のスキルとは。
皆さん、こんにちは。今回は「ソフトスキル」について書かせていただきます。
「リスキリング」の必要性が叫ばれて数年が経ちますが、個人の新しいスキル習得への意欲の高まりに加え、企業が社員に対する教育投資を行い、成長機会を提供することが徐々に標準化してきました。リスキリングに注力することによって個々のパフォーマンスレベルや生産性向上を図るだけでなく、“人への投資”を明確に経営戦略の柱の一つに据えることで、激化する人材獲得競争にも対処していける可能性が高まるからです。さらに、経営環境の大きな変化に、各企業の人材育成の仕組みが追いつかなくなっていて、社員に様々なスキルを学ばせる必要性が日に日に高まっていることも要因です。
引用した記事の中には、
とあります。
スキルの中には、プログラミングや技術、財務、労務、語学などの専門スキルを指す「ハードスキル」と、コミュニケーション能力や信頼性の高さなど、時間をかけて身に着けた対人関係の特性などを指す「ソフトスキル」がありますが、どちらも仕事における重要な能力で、目標達成に役立つものです。ソフトスキルは職種関係なく活用できる汎用的なスキルですが、これらに体系的な取得支援策を講じている企業はそこまで多くはありません。
記事の中にあったように、企業変革のカギとなるのは、経営者や管理職に求められるマネジメントスキルであって、その習得を促すためのリスキリングは、企業成長の上で必要不可欠です。
それらのスキルをどのように向上させていくべきかについて考えていきます。
■今こそソフトスキルが求められる理由
ソフトスキルとは、コミュニケーション力やチームワーク、誠実さ、信頼性、事業創出力や問題解決力、発想力、適応力など、個人の仕事の進め方や、周囲の人と仕事を進める上でベースとなる、個人の習慣や特性です。
今なぜそのソフトスキルが求められているのかですが、考えられる要因は以下の通りです。
●生成AIの台頭によって、AIに奪われない仕事のスキルを身に着けたいという欲求が高まっているから。
→専門職が持つスキルは、将来的にAIに取って代わられる可能性はゼロではありませんが、人間ならではのソフトスキルはAIに奪われる心配は今のところありません。他者と協働で新たな事業を立ち上げたり、良好な関係性を構築しながら職場を活性化させたりというような、人間にしかできない部分は、当面はこれまでと同様に求められます。
●多くの人がスキルアップ=ハードスキルの習得だと誤解しているから。
→「リスキリング」とか「スキルアップ」というと、多くの人がハードスキルだけを指していると誤解しています。前述したようなスキルはもちろん、リーダーシップを発揮しながら自らアクションを取ることのできる力、つまり、“人や組織を動かす力”こそ、経営幹部や管理職に必要な能力であって、それらのソフトスキル習得に目を向けずに、ビジネススクールで学べるような知識や思考だけを学び、実践が伴わずに少し頭でっかちになってしまう人も残念ながら少なくありません。組織の規模が大きくなったり、動かす範囲が大きくなればなるほど、単純に専門的な知識だけで人を動かすことは難しく、ソフトスキルが重要になってくるのです。
●グローバル企業と対等に渡り合える人材を増やす必要があるから。
→海外ではソフトスキルのトレーニングに多額の投資をする企業が少なくありませんが、日本でもリーダーシップを取る人材をもっと増やさなければなりません。グローバル企業との競争に勝ち抜いていくためには、大きなプロジェクトや重要なミッションを遂行し、成功へと導いていける人材を輩出していく必要性があることは明らかです。ここへの投資や育成を避けていては、数年後さらに大きな差が開いてしまうでしょう。
●企業経営におけるDE&I推進の重要性が認識され始めているから。
→グローバル化や顧客ニーズの多様化によって、DE&Iの推進に注力する企業が増えてきました。様々なバックグラウンドや価値観を持つ人と働く上では、協調性、相互理解力、問題解決力などのスキルが確実に必要になります。多様性を各企業が求め始めている今の時代において、ソフトスキルの向上は、リーダーシップを発揮しながら健全なチームワークを築く上でも必要不可欠です。
●多くの日本企業において、エンゲージメントが低い状態にあるから。
→グローバル企業では定期的に社員のエンゲージメント調査をしていることが多いですが、人的資本経営の普及に伴って、日本でも徐々にエンゲージメント指数を公表する企業が増えています。「仕事に熱意を持って取り組めている社員が多いか」「企業への愛着を持ち、貢献実感を持ちながら働いている社員が多いか」などは、業績にも当然直結しますが、エンゲージメントを向上させるためには、ヒト・モノ・カネの経営資源の中でも“ヒト”を上手に扱うスキルが重要です。つまり、「人のやる気を最大化させながら業績を上げる」ことが日本企業においても非常に重要な要素なのです。
●ソフトスキルはキャリアを通してずっと残るものだから。
→技術的なスキルは世の中の流れに連動して常に変化しますが、ソフトスキルは一度習得すると長いキャリアを通じてずっと生かしていけるものです。また、仮に仕事内容や職種が大きく変化したとしてもどこでも通用するスキルのため、ソフトスキルを磨くことでキャリアチェンジも容易になり、自分の強みや競争力として「キャリアの選択肢」を増やし、「新しい挑戦をすることの後押し」やその挑戦の結果の「成功確度を高める」ものにもなり得ます。
こちらの記事には、
とあり、一昔前の、戦略立案や人事管理、財務、物流や技術の管理などの「経営に必要な専門知識」の習得から、「専門性の異なるメンバーの能力をうまく統合・調整する能力」や「他者への理解を深め、経営問題の解決を提案する能力」の習得へとMBAのプログラムも大きく変わっていると紹介されています。新規事業の立案力や実行力に加え、「批判的思考」や「デザイン思考」、「持続可能性推進」などを組み合わせることも求められ、「多様な経営能力の調整力」も重視されているそうです。
こちらの記事には、
とあり、ソフトスキルによってチームのコンディションや人間関係を適切にコントロールした上で、ハードスキルをよりよく活用していくことが重要であることが分かります。だからこそソフトスキルのトレーニングに多くの投資をしているのです。
日本ではDXやAIという言葉が注目される度に、それらを使いこなせる知識や技術を持った人材を増やすためにまずはハードスキルを習得しようという動きが出てきます。それはもちろん間違ってはいませんが、どうしても職務経歴書に書きやすいようなスキルや知識だけを身に着けようとする動きから脱却できていないことの表れでもあります。
ビジネスを大きく発展させていくには、ベースとしてソフトスキルが確実に必要なのであって、ソフトスキルを磨いていくことが個人の成長をさらに促し、キャリアの選択肢を増やし、会社全体、ひいては社会全体の生産性を向上させていくこともできるのだと思います。
■ハードスキルとソフトスキル
今の若い世代、特にコロナ禍で社会人になった世代は、人との共同作業の機会が少なかったことが影響し、チームワークやコラボレーション、コミュニケーションのスキルが不足しているというデータもあります。それは、一定期間、リモートで勉強をしたり、仕事をしなければならなかったことを考えると自然なことです。一方で、そのような状態にもかかわらず、彼らは技術的な能力を高めることに重点を置いています。
企業としても、全社戦略としてDXを推進している企業ほど、技術力の強化を目標に掲げ、技術的なスキルを社内に蓄積し内製化することで他社との差別化を図ろうとしています。ソフトスキルを軽視しているわけではないにしても、どちらかというとハードスキルに比重を置きがちです。
ハードスキルを習得すると、そのスキルレベルをスコアなど数値で判断しやすく、定量的に評価することが可能ですが、ソフトスキルは定性的なものなので「評価指標を置きにくい」ことが、会社としてソフトスキル習得に向けた取り組みに大きく舵を切れない理由の一つではないかと思います。
ハードスキルはどのポストでも重要なものの、優れた人材かどうかを左右する決定的な要因にはなりませんが、ソフトスキルの根幹にあるのは、その人の人格や仕事に対するスタンス、物事への取り組み方や考え方、価値観です。つまり、ハードスキルは「仕事のアウトプットのクオリティ」に大きく影響するもので、ソフトスキルは「職場の人間関係や組織文化、企業風土」に大きな影響を与えるものです。
特に管理職に求められるソフトスキルには、
プロジェクトの成功に向けてチームを牽引していく力
目標達成に向けて個人や組織に行動を促す力
問題解決をスピーディーに主導していく力
適切な権限委譲をしながら部下の強みや能力を引き出していく力
的確なフィードバックを行いながら、部下のキャリアをデザインする力
個人の利益よりも組織の利益を重視しながら、組織のために必要な行動がとれる力
自分が伝えたいことを、相手が理解しやすいように言語化して伝える力
異なる意見を受け入れながら、チームに足りない視点を適切に組み込んでいく力
良好なチームの関係性を構築する力
新しい発想をもとに、既存の仕組みや施策に応用する力
自分や他者の感情を的確に察知し、コントロールしながら成果につなげていく力
などがあります。こちらの記事には、
「AIの能力はますます人間の知的洞察力で対処してきた知識労働の領域に近づいている」とした上で、AIで代替されない「コミュニケーション力」「批判的に聞く力」「協力」「共感」といった人間に固有のスキルが求められているとあります。
ソフトスキルがリーダーの重要な資質であることは間違いなく、企業は技術的なハードスキルとソフトスキルを広く兼ね備えた人材を育成していかなければならないことを頭に入れておかなければなりません。
仕事の在り方そのものも急速に変化している中で、各企業の経営幹部や社員の育成を担う管理職や人事は特に、社員が習得すべきスキルやそのレベルアップに関する考え方を、市場や業界のトレンドや課題感に合わせて適応させていく必要がある、と言えそうです。
■ソフトスキルを向上させるためのポイント
それでは、ソフトスキルをどのように磨いていけば良いのでしょうか。対人関係やコミュニケーション、チームワーク、リーダーシップなど、仕事における重要なスキルを高めるためのポイントを挙げてみます。
●自分が周囲に対して取っているコミュニケーションの仕方や方法などを、他者からフィードバックしてもらう
→業務上関わる範囲が大きい人や、多様な職種や価値観を持つ人と接する機会が多い人ほど、コミュニケーションのパターンは複数持っておく必要があります。その使い分けが正しいのか、それぞれのコミュニケーションを通して目的が果たせているかなど、周囲の人から率直な意見をもらい、自分の課題や改善点を把握することがスタート地点です。一般的に、自分が話したいことを一方的に話す上司が多い傾向にありますが、相手の話を引き出し、理解する姿勢を持ちながら、アクティブリスニングを実践するようにトレーニングすることも重要です。
●組織の変革や改革を断行する経験を積極的に積んでいく
→自らの意思を持って大きな決断を行い、決めたことを確実に遂行していくような機会(それが組織の変革や改革をリードする経験であればベター)に積極的に飛び込んでいくことが、大きな成長につながることは間違いありません。人から指示されたことを言われた通りに対応しているだけで、ビジネススキルが上がっていくことはほぼないからです。その際、一人で改革を行うことは不可能なので、様々な部署にいるキーマンを起点として、チームの中での自分の役割と他人の役割を理解し、協同しがらお互いにサポートし合えるチームビルディングも学ぶことが大事です。
●組織課題や問題に対する解決案を提案し、実行していく
→各企業に必ず存在する事業課題や組織課題に対して、何が本質的な課題で、どのように解決していけばいいのかを多角的な視点から考え、論理的に解決策を見つけるトレーニングをしていく必要があります。問題解決のためのフレームワークを学び実践するのもいいですし、社内だけの知恵やリソースで解決しようとせずに、外部から情報を集め自社に合った最適なフレームワークを発見する形でもいいと思います。一番ダメなパターンは、評論家のように課題だけを指摘していて、解決策を考えず、かつ解決案を実行すらしようとしないケースです。
●自分のコンフォートゾーンから抜け出す
→自分の居心地の良い場所に留まり続けることで、成長角度が鈍化し、スキルを向上させていくことが難しくなります。コンフォートゾーンから抜け出し、「新しい仕事に挑戦する」「自分の今の実力よりも高い能力が必要とされる役割を担う」など、自ら環境や役割や仕事内容を変えることで、必然的に新しい能力や経験を積むチャンスを得ることになります。ガラッと環境を変えることにハードルを感じる場合でも、やや背伸びが必要なミッションや、周囲のサポートを借りながらであれば挑戦できそうな仕事を見つけるなど、難易度を調整しながら新しいことを学ぶ機会を作っていくと良いと思います。
●コンフリクトマネジメントを経験する
→職場で意見が対立することは決して悪いことではありません。チームの目標を達成するためにも、社員同士が率直に対話しながら、より良い方法を模索したり、時にはお互いに指摘し合ったり、うまくいかない原因を発見することで成果に直結しやすくなります。大事なのは、意見が対立した時にそれをどう乗り越えるかという経験です。対立が起きた時にそれをどのように解決するかを考える過程を通して、コンフリクトマネジメントの経験が身に着き、リーダーとして必要な能力を発揮、または向上させることができます。
●エモーショナル・インテリジェンスを向上させる工夫をする
→自己認識を高めながら自分の感情や行動をコントロールする能力や相手に共感する能力、他人の感情を理解しながら自分の感情を分かりやすく伝える能力、さらに良好な関係を維持する能力などを高めていかなければなりません。そのためには、「人の話を今まで以上に傾聴する」こと、「周囲の批判やアドバイスを積極的に受け入れる」こと、「自分の言動が周囲に影響を与えていることを理解し、前向きな姿勢を維持する」こと、「大変な時でも心に余裕を持ち、周囲への安心感を与える」など、ちょっとした意識の積み重ねが大きな変化につながります。
最後に、改めてですが、これからのAI時代には、AIの活用に加えて人間による発想力や創出力を活用しなければならず、これまで述べてきたようなソフトスキルが非常に重要です。
組織の繁栄、会社の持続的な成長のためには、社員と適切なコミュニケーションを取りながら、会社のビジョンと個人のビジョンをリンクさせ、お互いに共感を得ながら同じ方向に向かっていかなければならないからです。そして、中長期で発展し続けるためには変化に対してオープンでなければならず、変化が必要なタイミングにチャンスと捉え、社員も会社も変化対応力を高め続けていかない限り、会社や組織の成長はありません。
そのようなタイミングでリーダーシップを発揮し組織全体を牽引していけるような、ソフトスキルが高い人材の層が厚ければ厚いほど、経営戦略や事業戦略の成功確率が引き上がっていくことは間違いないはずです。