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鬼軍曹、修行僧、女将さん --わたしの中のもうひとりの自分

ミーティングが終わる5分前、頭の中で号令が飛ぶ。「あと5分だけど?結局何が決まったの?タスク確認まで行って!」--これはとある仕事仲間との対話型会議の中で語られたエピソード。うまく進行しない会議はその場にペースを合わせつつ、必ずもう一人の自分がイライラしてしまう。この対話の中で、これを冗談めかして「鬼軍曹」と名付けた。

こんにちは、フリーランス×チームの働き方、ナラティブベースのハルです。ナラティブベースには「ナラティブ(語り)」を目的にした対話型会議が何種類もあります。冒頭のエピソードは、各メンバーの希望のタイミングで行う自分を主人公にした語りの場(ワーク・クラフト・ミーティング)のワンシーンです。今日はナラティブからみつける「もう一人の自分」と「名付け」の効果について書いてみたいと思います。

自分を語る場

「自分を主人公にした語りの場」と書きましたが、普段、誰かにインタビューでも受けなければ、自分自身を語るという機会は少ないのではないでそうか。例えば似たもので「自己紹介」がありますが、TPOや相手から相応しい内容を選び「相手に自分を理解してもらうために話す」ので、自分を語るというのとはちょっと違うかもしれません。でもこの「自分を語る」=「自分が自分自身を理解するために話す」ことは、不思議なことに、いろんな効果を生み出します。

自社で行なっている「ワーク・クラフト・ミーティング」は、主人公となる人+2人で三角形に風呂敷を広げるように小さな場をつくり、対話を開始します。現在・過去・未来、どこからでも自由に話しはじめてOKです。よく「なんでもつぶやいてみて」なんて促します。主人公といっしょに風呂敷の角を持った二人が、質問を投げたり、ときには関連する自分のエピソードも挟みます。主人公にはネガティブな感情、ポジティブな感情など両方を語ってもらい、語ったことをホワイトボードに付箋で貼り、色分けしていくことで、可視化・言語化していきます。↓こんな感じで語ったことが断片で色とりどりに貼られていきます。(実際は付箋の中は語ったことやキーワードがメモされます。)

「ワーク・クラフト・ミーティング」は、語りによって物事にアプローチする「ナラティブ・アプローチ」の考え方をベースにしています。

筋書き(プロット)を入れる

何のためにやっているのか?目的を尋ねられれば「自己理解を促す」なのですが、特にゴールはありません。語ったりそれを眺めたりするプロセスそのものが目的です。そのため、わたしはよくこういった対話型の会議を「ゴールのない会議」と表現したりします。ゆるやかに目的はもちつつも到達点を決めずに話し出すことで、「話す内容を充実させなければ」「何か意味のある結論に行かなければ」といった重荷は下ろし、まるで喫茶店で待ち合わせして話し始めたような雰囲気を大事にします。

「ナラティブ」という言葉は、「自分が主人公の物語」とも訳されたりします。ナラティブはその人が語った物語のワンピース(一片)のようなものです。それ自体は輪郭や流れを持ちません。それを眺めたり話したりしているうちに、不思議とその人なりのプロット(筋書き)が浮かび上がります。例えば、「Aをした」「Bをした」といった断片に「Aをした、それなのに、Bもした」とか、もしくは「Aをした、だからこそ、Bをした」とか、そういったつなぎ(解釈)を人の力を借りつつ自分なりに肉付けしていくことで、ナラティブ(断片の集まり)がストーリー(流れ)になっていきます。「ん?そういうことなのかな…わたし。」というくらいの流れ。

もうひとりの自分を名付けてみる

こういった自分語りの中で、「自分の中にこういう自分がいる」といった特別な人格が出てくる時がよくあります。自分の頭の中の声を「天使の声/悪魔の声」なんて表現したりしますが、単純に善悪ではなかったりします。その声は、こうなりたいという理想だったり、こうあらねばという呪いだったり、どうしてもこうしたくなっちゃうという強いこだわりだったり。いずれにせよ、時には奮い立たせてくれるけど、ちょっと付き合いづらい、今追い詰めないで、なんてこともありますよね。その声のことを周りに話し共有したり、どう扱うか?をいっしょに考えるてみると、案外面白いことが起きていきます。

ナラティブ・アプローチに「外在化」「名付け」という概念があるのですが、わたしはそれらを参考にアレンジし対話型会議で使うことが多いです。語りに登場する「もうひとりの自分」にもニックネーム(呼び名)を与えてしまうと、途端に扱いやすくなったりする効果があります。上述のイライラ号令をかけ始める「鬼軍曹」、その他にも自分で自分をまだまだだ!と戒め修行を求める「修行僧」、いつでもキチンと物事をすすめて当然の「きちんとさん」などなど…、その性質や持つ印象によって、仲間といっしょに名付けてみると、自分の中で現れては消える人物像がはっきりしてきて、不思議なことにどう扱うかが分かってくるのです。

クスッと笑う、ときには勝手にさせておく

ちなみに、わたしの場合は、いつでもテキパキ、先を読んで準備と先回りを怠らない「女将(おかみ)さん」です。わたしの場合は女将の声が、とくにオフ(休みたいプライベートのとき)によく出てきます。これが厄介で、休もうとしてもあれこれと細々した家事や仕事の下準備をひっきりなしにせかしてくる。昔から仕切り屋のわたしは、仕事の上でもテキパキと仕切ることが求められるセルフイメージを根強く持ってしまっており、そんな女将の声を休みたい時まで持ち込んで自分で自分を苦しめます。

自分の中から取り出し、ニックネームをつけたら、その人格を少し離れたところからみて、仲間といっしょにクスッと笑ったり、「いやになっちゃうね〜」「あの人しょうがないわ」と呆れてみましょう。具体的には、「鬼軍曹が来た!」といってみるとか、「きちんとさん、今日は来ないね。」などと言ってみる。

わたしは休日は朝風呂に入るのですが、そのとき女将を勝手にさせておくことにしています。朝風呂に入っている自分と別に、台所やリビングで掃除している自分(=女将)を想像し、「ああ、おかみ、今日も忙しなくやってくれてるわぁ」と考えるようにしています。(実際掃除しているのはお掃除ロボットですが)そうすることによって、不思議なくらいリラックスし、本来の自分がしがらみから自由になって解放されていくのです。

どう扱うか?は自分が決める

こういったもう一人の自分は、社会や周りに適応するために一生懸命つなぎとめる役割を持っていたりもします。しかし、あまりそれに付き合いつづけると窮屈になってしまい本来の自分がもつ創造性が発揮されづらくなったり、追い詰められて精神的に参ってしまうときもあるでしょう。

特に、働き方が多様化する今は、人によってはリモートワークで自宅で仕事をする日も多いかと思います。明確な就業時間がなかったり、プライベート時間との切り分けが難しくなったり、オンオフがはっきりしないことで、自分の中で自問自答を繰り返してグルグルしてしまったりしますよね。

そういった「評価されようと頑張る自分」「納得しようと頑張る自分」「理想を追って頑張る自分」を労いつつ、付き合い続けるためにも、それを語ることで、「その人はなぜ自分の中にいるのか」「どんなことをしてきたか、していきたいのか」「いっしょにいる必要があるのか?ないのか?」など、ゆっくり考えてみるのもいいかもしれません。

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眺める効果

こうした外在化したものを名付けたりを周りと共にして、それを眺めていくことは、他にもさまざまな効果を生み出します。人は、さほど意識していなくても、人に話したこと、人から聞いたことをもとに、日々の意思決定や行動をしていくものです。対話の中で語った「これってどういうことだろう?」「なぜ起きているのか?」「悲しそう」「楽しそう」「これはぜひやり方を真似て私もしてみたい」「こんなことは改善してもう起きないようにしたい」など、語りの断片が日々の仕事にも影響を与えます。そして、「これってなんて呼ぶんだ?」「もうしかしたら、いつも言ってる〇〇ってこういうこと?」などの何気ない名付けが、組織の共通言語にもなっていいます。対話そのものはゴールを持たなくても、そこでいっしょに話したプロセスは、ゆるやかに行動のベクトルを解決に合わせたり、共通認識や共通言語を生み出したり、仕事においても一定の効果を生むのです。

自分を語ることで、「もうひとりの自分」を含め、相手に自分を理解してもらう安心感にもつながり、心の重荷を減らしたり、安心して仕事や本来やりたいことに集中できる心の状態を取り戻す一定の効果があります。個人的に、カウンセリングやコーチングを受けたり、マインドフルネスやコンパッションなど、いろいろな考え方で瞑想を試したりなど、心の健康や本来の自分を取り戻すための時間を持とうと取り組んでいる人も多いでしょう。個人的な取り組みでもいいですが、できれば日々仕事をともにする仲間と対話の時間を持ち、こういった自分の物語を確認したり、眺めたりする時間もとってみると、また違った関係性やその効果が職場にも起きていくと思います。ここでご紹介した内容をヒントに、対話型会議をぜひお試しください。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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