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入社してから、ずっとテレワークの新入社員を組織の一員として自覚を持たせるには?【日経COMEMOテーマ企画_遅刻組】

新しい組織に入ったのに生活環境が変わらない

募集締め切りを過ぎてしまったのですが、日経COMEMOのテーマ企画で募集していた「#入社後いきなりテレワーク」に便乗してみたいと思います。

この話題は、私の勤務する大学でも同じように悩ましい問題があります。いわゆる「新入生がキャンパス・ライフを送れない」問題です。新しい組織に入ったは良いものの、いつもの生活空間と変わらない場所で授業を受けたり仕事をしたりするだけで、いまいち自分の中で「新しいステージに移ったぞ」という実感を持つことができません。

新入社員の意欲の低下は早期離職やぶら下がりにつながる恐れ

すべての業態や職種で必ずしも対面が必要かと言えば、機能面だけで言うならばそうでもないでしょう。例えば、大学とはそもそも学ぶ場であるため、実習や実験が必要な分野ではない限り知識と思考能力を研鑽する場としてはオンラインでも事足りるはずです。

しかし、世の中は「学生のキャンパスライフ」という概念を守ろうという議論が起きています。「私のバラ色のキャンパスライフと黒髪の乙女はどこにいった?」と、百万遍通りの四畳半に住む某大学生のように嘆く新入生は数多くいることでしょう。そして、四畳半で嘆く若者は大学生だけではなく、この春から社会人としてスタートを切った若者も同様のようです。

筆者が新社会人としてスタートを切った現場は、浜名湖の畔にある工場で板金工程のライン作業だったので、おそらくはこのご時世でもテレワークは実施されなかったでしょう。しかし、入社以来、テレワークを強いられている新社会人は少なくありません。そして、この状況によって「新社会人として頑張るぞ!」という意気込みは肩透かしを食い、意欲が削がれてしまったという声が聞こえてきます。

新社会人だけではなく、新入社員の意欲を高めるのに入社日からの3か月間~半年をどう過ごすのかが重要だと言われています。ハネムーン効果といって、新入社員は入社直後が仕事に対する意欲が最も高い傾向にあります。そこから理想と現実のギャップを感じるリアリティ・ショックから、意欲がそがれていくのです。そして、この期間で低下した意欲が大きいほど、早期離職やぶら下がり社員に繋がる傾向にあると言います。

甲南大学教授の尾形真実哉氏によると、新入社員が感じるリアリティ・ショックは「思っていたよりも大したことはなかった」というガッカリした感情の方が顕著にみられます。そして、テレワークを強いられている現状は、通常よりも意気阻喪となりやすくあります。

心理的契約の不履行を個人も組織もコントロールする

新しい組織に入るときには、入社前に個人も組織も様々な期待や予測を持ちます。それは、給与や処遇のように契約書にて取り交わすこともありますが、暗黙的に約束事のように思っていることもあります。例えば、個人からは職場の雰囲気や実際に任された仕事の魅力など、働いてみないとわからないことが挙げられます。反対に、組織からは仕事に対する姿勢や考え方、仕事の進め方など、こちらも実際に働いてもらわないと判断できないことが具体例となります。この入社前に暗黙的に取り交わされている約束事を、心の中の契約ということで「心理的契約」と言います。

心理的契約は、仕事に対する意欲や離職意図に大きな影響力を持つことがわかっています。そのため、新入社員を育てることや定着に秀でた組織や部署は、新入社員を迎え入れる独自のノウハウを持つことが多いです。

例えば、リクルートでは「お前は何をしたいの?」と上司が何度も繰り返し問うような上司と部下のコミュニケーションが密なことで有名です。そして、このように上司が部下とコミュニケーションを取りながら育成することで人材輩出企業として知られています。同様に、SONYやパーソルなど、上司や先輩が新入社員と密なコミュニケーションを取ることで、個人と組織の間の心理的契約の齟齬を修正していくようなプロセスを取っている企業は数多くあります。

しかし、急きょ始まったテレワークによって、伝統的なコミュニケーションの手法が使えなくなってしまいました。もちろん、中にはテレワークをCOVID-19の流行前から導入していたり、準備ができていたりして、伝統的手法のアップデートができている企業もあります。1on1ミーティングを積極導入し、成果を出していた企業などが当てはまるでしょう。ですが、うまく伝統的手法のアップデートができていない場合、組織と個人の心理的契約がうまく満たされず、双方に溝が生まれてしまいます。このような状態を心理的契約の不履行と言います。

現状が心理的契約の不履行が起こりやすい状態であることを、新入社員個人も、新入社員を受け入れる企業や職場も自覚的である必要があります。例えば、新入社員を受け入れようという空気感を創るために、Googleでは受け入れ側がやるべきチェックリストを作成しています。これまでのノウハウの蓄積が通用しないときは、やるべきことを列記したチェックリストや職場独自のルールを作るなど、ちょっとしたひと手間が必要になるでしょう。

反対に、新入社員としても、職場や会社が受け入れてくれないからと言って、意欲を低下させているだけだと将来大きな損をしてしまいます。組織側が何もしてくれないのであれば、自分で自分の将来について責任を持ち、主体的に動く必要があります。

テレワークで不自由を強いられている現状はストレスのかかりやすい状況にあるでしょう。しかし、この状況は、これまで慣性で過ごしてきてた仕事の進め方を見直す契機でもあります。是非、新入社員の受け入れについて、企業も個人も従来のやり方を見直し、より良い職場作りに励んでもらいたいです。

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