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縦型社会が溶けるとき、女性の出番がやってくる

旧安倍政権のスローガン「女性が輝く日本へ」や、COMEMOの本特集「女性に活躍してほしい理由」という言葉に、私がどこか違和感を覚えるのは、その根底に「日本の女性は、いま活躍していない・輝いていないよね・・・」という前提が透けるからだろう。

もちろん、その前提には、社会に残る男尊女卑や、仕事において女性が不利におかれやすいという、正しく前向きな認識が対にあるため、これらの言葉は容認されている。

しかし、本来なら、やや失礼な話ともいえる。日本女性は、そんな環境の中でも、目に見える金銭報酬がない家族のケアを大部分担い、加えて多くは非正規雇用で家計にも貢献してきた。彼女たちの世界が、保守本流の男社会にとって見えにくい・十分感謝されていないだけであり、おしなべて「活躍していない」「輝いていない」というのはおかしい。

そのうえ、定年を迎えるお父さんに比べ、主婦に代表される家族ケアの仕事は一生続く。家族が育ったのち、その中心的な磁石になるのは、お母さん長じておばあさんの場合が多い。日本女性はこれまでも、十分働いているし、輝いている。

一方で、「社会の」「中枢で」といった枕詞がつけば、確かに女性活躍はまだまだ途上だ。ジェンダー差別が明示的にも暗示的にも残る保守本流の表の社会は、女性にとって成功のハードルが高い。

しかし、これから世の中の流れは、「社会の」女性活躍を確実に後押しする。これは、差別に対する意識が高まったからだけではない。今まで、「どうか仲間に入れてください」と女性が頭を下げ、無理をして入っていった男社会の構造そのものが、デジタル化と、さらにはコロナ禍によって、大きく変わる局面にあるからだ。この転換は、特に女性にとって有利に傾くと考える。

まず、デジタル化は産業構造を大きく変える。自社マーケティングを抱える組織に属さずとも、インターネットを使った発信コストは限りなく低くなった。これまで組織に入らなければとてもアクセスできなかった能力-例えばメーカーなら研究開発、製造、流通―も、個人やベンチャーがモジュラー的に使えるようになった。デジタルな世界では規模拡大の速度が速いため、昨日まで聞いたこともなかったファブレスのインディーブランドが急成長し、大企業を慌てさせることが日常である。これが、柳川教授が経済教室で論じた「供給側からの“イノベーションの民主化”」に他ならない。

それでも、社会には「中枢」があり、会社には「役員フロア」があり、ピラミッドの中、階層を「わきまえる」という意識は、特に日本人に根強い。ところが、この階層意識が、コロナ禍で揺さぶられると思う。ホワイトカラーが出社できなくなり、オフィスの序列を肌で感じられなくなったいま、私たちの深層心理においても、縦型社会への不信が育っているのではないか?

この転換は、いままで保守本流のフリンジにいた女性にとって朗報だ。「縦型単線・外れたら終わり」の出世競争を競う必要が薄れつつあるからだ。無理して男性の働き方に合わせなくとも、出産・子育てをひと段落してからでも、十分に個人の能力を発揮できる個人型の働き方が開けつつある。もちろん、これは男性にとってもキャリアの選択肢を増やすことだろう。

ただし、道具立てがそろっていても、背中をひと押しすることは大切だ。単純作業の切りくずを請け負うギグワーカーではない、独自のアイディアを具現化するような付加価値の高いフリーランサーを守り、育てる政策が求められる。成功例を世に知らしめて、起業に対する心理ハードルを下げることも大切だ。企業側も、このような外の人材とうまく付き合い、お互いに価値をもたらす関係を作ることが競争力の源泉となるだろう。

これまでも十分に働いていた女性が、より社会の表舞台で活躍することは、日本にとって活力を生む。ゲームのルールが変わるいまこそ、その背中を押すタイミングだ。

#日経COMEMO #女性に活躍してほしい理由

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