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外国人社員の活用は、プロ野球方式か?欧州サッカー方式か?【日経COMEMOテーマ企画_#外国人社員に何を期待しますか(遅刻組)】

日本は外国人にとって働きやすい国なのか?

国際結婚をして最も驚いたことの1つが、在日外国人にとって日本での職探しが想像以上に困難だということだ。これは、東京にいたときも、大分に引っ越してからも同じだ。特に、海外の大学を卒業した非英語圏の外国人にとって就職先の選択肢があまりにも少ない。

それまではネット上の噂話としか思っていなかった「英会話講師の募集だけど、白人とアフリカ系の方しか募集していないんですよ」という言葉を直接聞いたときには、採用研究の末席を汚す身として戦慄した。そして、在日外国人のコミュニティで耳にする「日本での働きにくさ」や「仕事探しの難しさ」にまつわるエピソードは枚挙にいとまがない。

例えば、結婚を機に来日した韓国人女性は母国では米国系企業に勤務する優秀なビジネスパーソンだったが、日本ではまったく仕事を見つけることができずにキャリアが絶たれてしまった。しかし、数年後に配偶者の仕事の都合でタイのバンコクに移住すると直ぐにグローバル企業での職を見つけ、キャリアを取り戻している。彼女にとって、日本よりもタイのほうが働きやすい国だった。

5年契約で地方都市の市役所で在日外国人窓口の職員として勤務していたインドネシア人女性は、期限後にも日本での就労を希望したが、新しい仕事を見つけることはできずに帰国することになった。彼女は日本での勤務を希望していたが、日本企業から来るオファーはインドネシア現地法人での勤務ばかりだった。

また、日本独自の「職務記述書がなく、判断基準があいまいな状態で何社も求人に応募を出して、数多くの不合格通知を受け取りながら、一社の内定を得る」という就職活動スタイルに、心が折れる在日外国人も多い。

在校生の約半数を国際学生が占める立命館アジア太平洋大学だが、その中で日本での就職を希望するのは僅か3割程度しかない。7割の学生は、大学生活の4年間を通して、日本で働くことは自分のキャリアにとって魅力的ではないと捉えている。(厳密には、大学院への進学者もいるためにもう少し比率は下がるが)

政府として外国人の高度専門人材の雇用を促進したいという方針が出されているものの、受け入れ先として企業側の整備ができているかというと不十分なのが現状だ。それでは、企業はどのようなスタンスで大卒の外国人人材を採用し、人材活用していくべきだろうか。そこには2つのスタンス(プロ野球方式、欧州サッカー方式)があるように思われる。

本稿は、日経朝刊の投稿募集である「#外国人社員に何を期待しますか」を下敷きにして考えていきたい。

プロ野球方式の外国人社員の考え方

「助っ人外国人」という言葉が古くからあるように、プロスポーツ業界では外国人選手の採用に歴史がある。特に、日本よりも海外のほうが進んでいる競技では外国人選手がチームの趨勢を左右した。そのため、日本プロフェッショナル野球協約では外国籍の選手に対して出場枠を設けてきた。

日本プロフェッショナル野球協約における外国人枠の規定はおおよそ以下の通りだ。

① 各球団は任意の数の外国人選手を支配下選手登録できる(現在は無制限)
② 出場選手登録(一軍登録)は4名まで
③ ②に付随して、投手または野手として同時に登録できるのは3名まで
(2002年以降)

なお、現在は新型コロナウイルスの影響により、上記規定に特例措置が取られている。

プロ野球における外国人枠のスタンスは、「外国人が活躍してもらうための特別枠を設けて、その中で人材活用をする」というものだ。外国人選手はあくまで「外国人」であり、日本人選手とは扱いに一線を画す。このことは、裏を返せば「外国人が活躍する場面がないのであれば、日本人だけで運用する」という意味でもある。

企業に置き換えると、プロ野球型の外国人社員の活用は「外国人社員が求められる業務だけ外国人を採用し、そうではない場合にはできる限り日本人社員で構成する」というスタンスになる。また、そこまで割り切ってはいないものの「日本人社員と同じ基準で選別をして、結果として外国人が選ばれるようなら採用する」という場合も、実態としてプロ野球型と近しい運用になりやすい。その理由は、現状の従業員構成が日本人がマジョリティとなっている場合、マイノリティである外国人は選抜されにくいという無意識のバイアスが発生するためだ。このバイアスは性差でも発生するため、日本企業の重要なポジションに女性社員が選ばれにくい理由の1つにもなっている。

欧州サッカー方式の外国人社員の考え方

欧州連合として通貨同盟が2002年に完全施行されて以来、欧州内は人材の流動性が高まり、ありとあらゆる組織のグローバル化が急速に高まった。その結果として、欧州サッカーは選手の多国籍化が最も進んだ業界の1つとなっている。

欧州サッカーでの選手の多国籍化が進んだのは、1995年のボスマン判決により、EUの労働規約がプロサッカー選手に適用されることになったのが契機だ。それ以来、EU加盟国のリーグにおいてはEU圏内の外国人に対して外国人枠が適用されないことになった。その結果として、スターティングメンバ―全員が外国人選手という事態が度々生じている。

EU圏外の外国人選手に対しては各国で対応が異なる。最も制限が厳しいのはスペインで、トップチーム25人の中に5人登録可能であるが、そのうち3名までがベンチ入り・出場を許される。反対に、ドイツは制限が緩く、外国人枠を撤廃し、それにともないドイツ人枠が設けられている。ドイツ人枠では、ドイツ国籍を持つ12人で、且つそのうち6人はクラブの地元で育成された選手を登録しなければならない。

欧州サッカー方式における外国人枠のスタンスは「組織目標を達成するためには国籍は関係ないが、自国民の人材育成を疎かにしない」と言えるだろう。EUの行政執行機関である欧州委員会の見解では、EU加盟国籍所有者に対して外国人枠を設けることは「人の自由移動」の原則に反すると見解を示している。それに対して、FIFAは外国人によって各国のリーグで国内の選手が出場機会を奪われ、国内の選手が育たないことを危惧している。そのため、ドイツのように国内選手の育成のためにルールを設けながら、外国人選手が活躍できる制度を模索するなど、各国で工夫がみられる。ドイツ同様に自国民枠と類似の制度を設けているのは、オランダやオーストリアがある。

この方針は、欧州系グローバル企業における外国人社員のマネジメントにも似たようなスタンスが見て取れる。日本企業では、海外現地法人で採用された現地社員が本社の基幹社員となったり、役員に昇進したりすることは少ない。それどころか、海外現地法人の経営を担う重要なポジションに就くことも珍しい。それに対して、欧州系グローバル企業では全世界のどこの拠点で採用されても、成果を残し、本人が希望するのであれば本社の基幹人材として登用される。初めから本社採用で雇用される外国人社員も多い。

外国人役員の比率も欧州の大企業は日本とは大きな差が開いている。ヘイドリック&ストラグル(2011年)の調査によると、欧州15カ国の大企業における外国人取締役の比率は平均で24%である。スペンサースチュアート社における調査(2020年)では、英国とドイツが30%、フランスが29.3%となっている。それに対し、日本の外国人取締役の比率は、日経225で4.0%、TOPIX100で6.6%となっている。これらの数値からも、日本企業と比べて欧州企業の方がグローバル規模で人材を登用し、活用していることが見て取れる。

自社の戦略に応じて外国人社員の考え方は変わる

ここで言いたいことは、「日本はダメだから、欧州から学べ」ということではない。まずは、自社のスタンスをはっきりとさせるべきだ。

プロ野球型のスタンスなのに欧州サッカー型のようなことを言ったり、欧州サッカー型を目指しているのにプロ野球型のスタンスを捨てきれなかったりと、軸がぶれてしまうことが問題だ。

そのうえで、採用や人材育成、活用のときに従業員とコミュニケーションをとっていく必要がある。採用時によくみられるが、組織は構成員に対して不利益や不都合のある情報の開示を避ける傾向にある。しかし、人材マネジメントに関する数多くの調査が、従業員の定着やエンゲージメントを高めるには不利益や不都合のある情報であっても開示する透明性の高さが有効だと述べている。専門用語では、リアリスティック・ジョブ・プレビューとも呼ばれる。

外国人採用のスタンスを定め、透明性を高めよう。そうすることで、外国人社員の採用で応募者に余計な不安を与えることもなくなるだろう。また、自社のスタンスが社内に浸透することで、外国人社員のマネジメントに対して現場のマネジャーや同僚が戸惑うことも減る。人材マネジメントの基本は、従業員を管理することではなく、組織が進みたい方向へ従業員の目線を揃えることだ。スタンスを定め、透明性を高めることは、その基本を支える原則である。


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