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滴滴(DiDi)への政府の規制によって中国配車アプリ業界は混戦に?新王者は生まれるのか

中国の配車大手であるDiDi(滴滴)が政府の規制によって各アプリストアから撤去されてから早くも3ヶ月が経ちました。当時は、最大手だったDiDiがいなくなり、「配車アプリの新王者が新たに誕生するのでは!?」とみんなの議論があらゆる場所で盛り上がりました。あれから3ヶ月経って、中国の配車アプリの市場構造がどうなったかについて調べてみました。

結論から言いますと、新規ユーザーの獲得ができなくなったはずのDiDiはいまだに配車アプリで膨大なシェアを持っています。

でも、「なんだ...」と離脱しないでください。面白いのはここからで、DiDiの競争相手となり得る企業が次々と新たな資金調達を実現している(これからする)ことからみて、投資家も資本も新たな成長を期待していることが明らかなのです。

そして、そのなかでも特に勢いがある数社を興味深い確度から分析することができます。DiDiが処罰されてから、各配車アプリが次々と新たな取り組みを進めてきましたが、成長に伴い監督不行き届き問題なども現れてます。9月1日、中国交通運送部(省のこと)などの政府機関が

「T3出行」「美团出行」「曹操出行」「高德」「滴滴出行(DiDi)」「首汽约车」「嘀嗒出行」「享道出行」「如祺出行」「阳光出行」「万顺叫车」

の11社の配車アプリ運営社に行政指導(约谈)を行ったとの情報が公開されました。政府が公開した情報を解読すると、上記の11社のリストは先頭から問題が多い順で、このリストにあることは、すでにそれなり(行政指導に呼ばれるほど)の市場シェアを持っていると考えられます。

政府の情報公開によると、今回の行政指導では、違法運営への取締や、運営各社の公平的な競争、資本を利用して悪質の競争や盲目的なサービス拡張の抑止、正常な市場秩序への妨害禁止などが要求されたとのことです。

DiDIもリストに入ってるのですが、DiDiの手前にあげられていた4社こそがここ3ヶ月で急成長したところです。順に解説していきます。

■「T3出行」の強引な躍進

1位の「T3出行」は2019年3月に設立された会社で、株主には自動車メーカー大手の「中国一汽」「東風汽車」「長安汽車」、さらにIT大手の「テンセント」「アリババ」など強力な企業がいます。設立時の資本金規模は100億元弱で、株主は自動車メーカーがメインなこともありビジネスモデルはメーカー3社が車を提供して「T3出行」が運転手を募集する形でした。

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このモデルは、役割分担が整理されて運営とサービスを提供することができ、一見するとドライバーを確保するだけで良いと考えられます。でも実際には運営側の負担が重いことが問題です。7月にDiDiが規制されてから、「T3出行」はサービスの拡大のため一部の都市で新たに一般ユーザー車両も加盟できるスタイルの運営を開始しました。これでDiDiと同じく運転手が自分の車でサービス提供することが可能になり提供車両の拡大につながっていますが、国が決めた運営条件を車や運転手が満たしていない不法運営の問題が多発しています。

(車の条件には「7席以下の乗用車」「ドライブレコーダーやGPS、緊急通報装置などの装備が必要」がある。また、運転手への条件には「取得した免許と運営車の一致」「3年間以上の運転歴」「交通事故の犯罪歴や危険運転の犯罪歴がないこと」「薬物使用歴と飲酒運転歴がないこと」「暴力犯罪歴がないこと」などが規定されている。)

それでも急成長した「T3出行」。9月24日に「新たに50億元の資金調達」と報道されました。記事によると、それぞれ三つの信頼できる情報源から、今回の資金調達は中信グループがリードし既存の株主中心となります(現時点でT3からは否定コメントはなし)。これはT3の2回目の資金調達で、実現すれば2017年以来の配車アプリ市場で最も大きい額となります。

■実力派プラットフォームも注目している

2位の「美団」は中国のプラットフォーム大手です。傘下にdianpingやデリバリー、シェアバイクなどの事業があり、膨大なユーザーを持っています。先日のnoteでも触れたように、デジタル人民元への取り組みも積極的。

報道によると「美団」はかなり前から中国の37都市に配車プラットフォームを運営するための各種資格を獲得しましたが、これまであまり注力してなかったようです。今回、DiDiへの規制が入ったのをチャンスと見てか事業を拡大してきています。ただ、成長はしていますが多元化している「美団」の事業の大きさに比べると、まだそこまで重要視されていないのでは?とも考察されています。

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3位の「曹操」は”吉利汽車戦略投資プロジェクト”として自社車方式から拡加盟式に転身して拡張してきました。これは「T3出行」と同様の戦略です。こちらも、9月6日に「曹操」が2回目の資金調達で38億元の融資を獲得したと公式に発表されました。投資者は蘇州の国有資本がメインだそうです。

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そして4位の「高徳」はご存知ですか?本業は地図とナビアプリで「百度地図」と中国TOPを争っています。今までは「情報まとめ」という立場で地図アプリ内で配車サービスを提供してましたが、9月に「北京利通出行」という新たな子会社を設立。その社名から間違いなく配車事業です。

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また、「高徳」はアリババ系の企業であり金ならいくらでもあるよって雰囲気をプンプン出してます。7月にDiDiが規制されてから、アプリ内の配車サービスを新規利用するユーザーに108元の現金券(ちなみに北京のタクシー料金は初乗りの3キロ内は13元でその後は1キロ2.3元、さらに配車アプリだといわゆる白タクだから料金がもっと安くなります)、既存ユーザー3人の協力で150元の現金券、運転手には朝の通勤時間のプラットフォームサービス代の免除、などのキャンペーンを次々実施。こんな大規模なキャンペーンはここ数年では珍しく、過去のタクシーシェア戦国時代を思い出しました。

と、ここまで新王者候補の動きを紹介してきましたが、ネット民や有識者からは「それでもDiDiには勝てないだろう」と言われています。その理由はいくつかあります。

■改めてわかった王者DiDiの強さ

・ユーザー数
DiDiのIPO資料によると、DiDiの中国国内の年間アクティブユーザー数は3.77億人です。アプリがストアから削除され、新規ユーザーの獲得ができないとは言え、この数字は圧倒的です。実績からみても、DiDiが規制されるまで毎日の利用オーダー数は2500万程度あり、7月に規制されてから減少するかと思いきや逆に13.1%の伸びが実現してました。

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↑各社の6,7,8月の利用オーダーの推移

8月に2000万台に落下しましたが、その理由はDiDi離れの加速ではなく、他社アプリの頑張りでしょう。「T3出行」のオーダー数は8月に66.8%の増加ですが、これはそれまでの規模が小さかったため。8月時点で累計4000万の登録者数で毎日の利用オーダー数は120〜150万だそうです。ちなみに「高徳」は500万程度、「美団」は120万程度で、いずれもDiDiとは桁違いです。

「T3出行」の予測では、配車アプリ市場で生き残るためには少なくとも15%の市場シェアが必要とされてます。現在市場全体が1日平均3000万の利用オーダー数なので、ここから計算するに少なくとも1日450万の利用オーダーが必要となります。

・運転手の数
同じくDiDiのIPO資料によると、DiDiは中国国内に1300万のアクティブな運転手がいるとのこと。この数字も他社を圧倒しています。7月の「美団」や「高徳」のキャンペーンは非常にお得なものだったにも関わらず、ボクも含めて利用者からは「なかなか車が見つからない」とクレームが噴出。

上記で述べたように、「T3出行」や「曹操」は自社車モデルから加盟モデルへ転身を図っていますが、これはニーズ(乗客)を満たす供給量(配車可能車両)が確保できないからです。この問題はお金を燃やしてキャンペーンをすれば解決できる単純なものではないです。無理をして国が要求する条件をクリアできなければ、違法運営になり処罰を受けてしまいます。

現時点で中国全土で発行されている配車運転手資格はわずか336.4万。配車アプリ各社による運転手の取り合いはこれから激しくなるでしょうから、ドライバーへの待遇は向上するかもしれません。

・コンプライアンスコスト
どの配車アプリも直面している大きな課題の一つはコンプライアンスのコストです。国の基準を満たす以外に利用者の安全もきちんと守らなければならない。DiDiのCEOは2016年に乌镇で行われた世界インターネット大会で「安全は企業責任であり、安全を保証できなければ潰れて当然です」と語っていました。DiDiはこの覚悟で大きなコストをかけて厳しい基準を設定して運営していましたが、1300万の運転手がいて日々2500万程度の利用オーダーがあれば、当然トラブルは起きます。

↑こんなトラブルも過去にあった

これについては他の成長している配車アプリ各社が同じ問題を抱えています。悪質な事件はそこまで表面化していなくてもその傾向はデータからも明らかで、データ(詳細は参考資料参照ください)によると、7月に「高徳」の配車オーダーは1131%の成長を実現したがクレームの件数も同比1162%の増加。

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↑データでは「T3出行」や「曹操」のような、今まで自社車で運転手を雇用する形態は安全面やコンプライアンスのパフォーマンスが高かったが、加盟式になってからどうなるかはまだわかりません。

この他にも、過剰なプラットフォーム利用料や、専業で配車運転手をやる人へプラットフォームからの社会保険の支払い義務が整っていない、など配車サービス全体としてさまざまな議論があります。また、ここ最近中国政府のインターネット企業の独占禁止など一連の動きもあり、DiDiとしてはあまりにもシェアを獲得しているのは逆に困るといった思惑もあるようです。

いずれにせよ、長らく続いたDiDi一強の時代が終わり、新しい配車サービス時代の到来をユーザーも投資家も期待しています。各社が競争する健全な環境になることでサービスの改善と利用料が下がることを多くのユーザー、特にヘビーユーザーのボクが望んでいますので、頑張って欲しい。また何か新しい動きがあったらnoteで共有しますので、ぜひフォローしてお待ち下さい!

(参考資料)

https://mp.weixin.qq.com/s/AfSjekP6xJVB8IdJdMyasQ

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1712236818839119156&wfr=spider&for=pc


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