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端末・通信の分離は第2の官製不況となるのか?

菅官房長官による「携帯料金を4割下げる」という発言から、はや3ヶ月。この発言は携帯各社の株価にまで大きな影響を与えたが、その後の進捗はどうであろうか。


10月に本格的に始まった総務省の情報通信分野の政策や規制を包括的に見直す議論でも、携帯電話料金の値下げやプランの単純化、販売店での待ち時間・手続き時間の短縮が論点にあがっている。なかでも急浮上しているのが「端末と通信の完全分離」だ。「消費者は適切な選択ができなくなっている。料金プランを抜本的に見直し、端末と通信料金の完全分離をお願いしたい」。10月18日に開かれた総務省の有識者会議で、全国地域婦人団体連絡協議会(全地婦連)の長田三紀事務局長はこう主張した。端末と通信料金の完全分離とは端末代金と通信料金を明確に分けることだ。

現状の携帯電話にまつわる契約や料金体系がわかりにくいという声は多い。複数年契約(いわゆる縛り)による割引や、固定回線や電力など携帯電話以外のサービスとの組み合わせによる割引など、様々なパターンが存在している。消費者にとって「自分にとって最適なプランがなにか?」を見極めることは難しいだろう。そのような背景から出てきている「端末と通信の完全分離」によるプランのシンプル化であろうが、これが本当に上記の課題を解決しうるのだろうか? この話を目にしたとき、真っ先に思い出したのが2007年の「モバイルビジネス研究会」を発端とした販売奨励金の適正化だ。


当時、激しい競争をしていた携帯各社は戦略に合う施策をする販売店に対して数万円の販売奨励金を支払い、結果として店頭価格が「実質0円」の携帯電話が並んでいた。頻繁に最新機種に買い換えるヘビーユーザーにはメリットがあったものの、そうではないユーザーにとってみればこのコストが通信料金に転嫁されているため不平等であるという課題があった。ここの適正化を求めたのが、先の研究会の最終報告書だ。

結果なにが起こったか。事業者の積極販売に依存していた国内携帯電話メーカーは大幅に売上が低下し、相次いで市場から撤退。現在でも続けているメーカーはごく少数だ。もちろんこれは独自の販路を育てなかった事業者の戦略に依るもので、研究会の指摘が市場を破壊したわけではない。しかしながら、当時の議論と今回の議論をリードしているのは同一人物であることから、ふと脳裏によぎるものがあった。

また、現在ではスマートフォンの定価は10万円を超えており、最高機種では20万円弱という価格である。完全分離となれば端末更新時にはこの金額を払う必要があり、おそらく端末の平均利用年数は伸びるだろう。中古市場が活性化するという見方もあるが、端末メーカーによっては国内での中古品の流通を快く思わない場合もあり、その場合は単純に海外で流通することになろう。

仮に完全分離が実施されたならば、なにが起こるか。消費者からすると今まで隠れて見えなかったスマートフォンの「定価」に直面することになる。おそらく、大多数の人にとっては「そんなに高かったのか」という印象だろう。今までのように割賦で割引後の値段で支払いたいという声も出るだろう。すると事業者側も知恵を絞り、携帯電話回線「ではないもの」との組み合わせを提案してくるのではないか。「光回線」や「電気」と端末のセットなどが考えられるあろう。

「携帯電話料金の4割減」が実現したところで、他に付け替えられてしまい実質の家計の負担額は変化しなかった。という結果になるのか? もし消費税増税を控えて少しでもインパクトを減らそうと考えているのであれば、「家計」という幅広く国民目線で見た包括的な議論が求められている。


タイトル画像提供: Burdun / PIXTA(ピクスタ)

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