見出し画像

人的資本情報の開示に定量的開示がないのは残念だが今後に期待したい

今朝の日経新聞朝刊によれば、今年義務化された有価証券報告書における人的資本関連の開示義務化に応じて「人への投資」について開示するのは、5割にとどまるようです。
この調査は、回答したのは57社のみとのことであり、n数としてはかなり小さいですが、それでも5割というのは少ないように思います。

人材版伊藤レポート策定を担当していた立場として歯がゆいところは、そのなかでも指標や数値を使い定量的に開示するとの回答が2割強にとどまるという点です。

政策的には定量的開示は強く求められている

上記のように数値や指標を用いた開示は極めて少ないのですが、人的資本の政策的には、数値や指標を用いた定量的開示を強く求めています。

これは人的資本政策に関する各種レポート等からも明らかです。

人材版伊藤レポート

例えば、人材版伊藤レポート(1.0)では、「経営陣は、重要な人材アジェンダごとに、目指すべき将来の姿(To be) を定量的な KPI を用いて設定すべきである。」などと明記しています。
また、3つの視点の1つに「視点②:As is‐To be ギャップの定量把握」と明記しています。

人材版伊藤レポート2.0でも、「人材戦略を策定し、その進捗に応じて迅速に軌道修正を図る上では、実現したい組織の在り方や必要な人材をできる限り具体的に想定し、KPIを 設定することが重要となる。」などと明記されています。

その他にも、人材版伊藤レポート1.0、2.0ではKPIの設定の重要性がいたるところに記載されています。

人的資本可視化

また、開示の指針である人的資本可視化指針でも、「価値協創ガイダンスの各要素(価値観、長期戦略(長期ビジョン、ビジネスモデル、リスクと機会)、実行戦略、成果と重要な成果指標(KPI)、ガバナンス)と、自社の人的資本への投資や人材戦略を明瞭かつロジカルに関連付けることで、企業は自社の経営戦略と人材 戦略を統合的なストーリーとして説明することができる。」、「気候関連財務情報の開示フレームワークであるTCFD(Task Force on Climaterelated Financial Disclosures)提言において、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの要素についての開示が推奨 されて以来、この構成に基づく説明が広く受け入れられつつあり、(中略) この4つの要素は有価証券報告書に新設が予定されるサステナビリティ情報の記載欄(3.2.において後述)においても採用され る方向となっており、人的資本についてもこの4つの要素を検討することが効率的である。」

コーポレートガバナンス・コード

さらに、令和3年6月に改訂されたCGCでも、補充原則 2-4①で「上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登 用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。」とし、測定可能な目標の開示を求めています。

以上のとおり各種レポート等で定量的開示の重要性が謳われています。

定量的な指標と「例」としてISO30414などが示されていますが、これは「例」であり、自社の状況に照らして独自の指標を示すことで足ります。

KPI設定の例は、人材版伊藤レポートにも参考例を載せているので「参考」にしてください(真似は厳禁)。

開示される見込みの数値も経営戦略と人材戦略の統合的ストーリーを示しているか

また、以下の記事によれば、開示される数値は、主に研修費用や人件費のようです。

これはこれで間違いではないのでしょうが、上記で述べたレポート類の記述からも分かるように、定量的な開示を求めるのは、「経営戦略と人材戦略の連動のストーリー」を示すためです。

上記の記事で開示するとしている企業が、具体的にどういう形で開示するかはまだ定かではないですが、人件費を開示したとしても、それが経営戦略との関係でどういう意味を持つかを示す必要があります。
これは研修費用も同様です。

今回の結果はやむを得ないところもあり今後に期待

人材版伊藤レポートの策定を担当していた身として、今回の結果は、「あんなにレポートに書いたのにな…」と残念な思いがありますが、準備期間がなかったというのは、そのとおりだと思いますので、やむを得ないところでしょう。

また、定量開示が難しいというのも理解できますが、人的資本に関する資本市場との対話の観点からは、やはり重要だと考えています。

今後は、上記レポート類をしっかり理解いただいたうえで、定量的な開示が進んでいくことを期待したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?