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新型コロナ検査陽性者数の減少とデルタ型変異の可能性

 東京都の新型コロナ検査陽性者数の減少が下げ止まることなく順調に続いています。いくつかの要因が重なって大きなブレーキをかけていることに相違はないと考えますが、これだという明確な理由でもない印象です。

東京都は26日、新型コロナウイルスの感染者が新たに299人確認されたと発表した。日曜日に300人を下回るのは3月21日以来、およそ半年ぶり。26日までの感染者は累計で37万4529人となった。直近1週間平均の新規感染者は約362人で、前週(約815人)の44.5%だった。

 これまでも順調に減少を続けた数週間後に「下げ止まり」傾向になり、増加に転じたところで緊急事態宣言が解除になった経緯がありますが、今回は減少に転じてからまもなく2か月が経過しようとしていますが、そのような兆しは見えません。人流が減っていないのに何故減少し続けているのか?という疑問に対し、第52回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年9月16日)において京都大学大学院教授の西浦博氏らは「人流の中でも、移動率と実効再生産数が強く相関する。特に 「retail and recreation(レストラン、カフェ、ショッピングセンター、テーマパークなど)」への移動は、予測精度が高いことは海外でも知られてきた。感染のリスクが高いとされる行先に対応しているものと思う。日本でも最近の感染者数の減少は、ワクチン接種の拡大だけでなくて移動率の減少に対応していることが示された」と説明しています。

 また、東京都医学総合研究所の西田淳志・社会健康医学研究センター長は、第64回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議(令和3年9月24日)「感染リスクの高い夜間の繁華街に滞留する人のうち、ワクチン未接種者がお盆前後から急速に減少したことが、新規感染者の抑制につながった」との見方を示しています。

 東京都の新規検査陽性者数の激減状況は2週間ほど前にも以下の記事にしましたが、当院ではその後9月25日までで検査陽性者は4名(8月は21名)しか出ておりません。学校が再開してから区内の公立学校で陽性者が確認されたこともあり、濃厚接触者の検査も増えたことから検査数自体は8月とほとんど変わっていないのですが、同居家族全員の検査をしてもまったく陽性にならないのです。

 この記事に「ウイルスは常に変異を繰り返しながら感染力や病原性を変えてきます。短期間に前週比で1000人近い数の減少が続いている理由ですが、感染源の可能性のある人の(他の人にうつさないという)感染対策意識の向上に加え、感染源そのものである「デルタ株の感染力」が落ちたような印象もあるように思えるのです」とつぶやいてみたところでしたが、本日の日経新聞記事を見て、もしかしたら現実であったかもしれないことを知りました。

東京医科歯科大学は8月中旬、新型コロナに感染していた患者から、新たな変異が加わったデルタ型を検出した。ウイルスの表面にある突起状のスパイクたんぱく質に「N501S」という変異があった。かつて感染の主流だった英国由来のアルファ型などにあり、感染力を強めるとされる「N501Y」に近い変異だ。デルタ型は「L452R」などの変異を持つことが感染力の強さに影響しているとされてきたが、これまで「N501Y」や「N501S」の変異はなかった。

 東京医科歯科大の報告と同様の変異を持つデルタ型は海外ではそれまでに8例確認されていたようですが、今回の事例は「国内で新たに変異を獲得した可能性が極めて高い」ということです。感染力や病原性への影響は現時点で不明とのことですが、ともに感染力の強さに影響する変異が同時に起こることがさらなる感染力を増強させるのか、相互作用で感染力を減弱させるのか、今後の解析が大変興味深いところであると思っています。ただ普通に考えてみても、これまで以上に感染力が増強しているのであれば、本件が確認された8月中旬以降から検査陽性者数は下げ止まり~再び増加に転じるはずではないでしょうか?

 その一方で、この新たな変異を持つデルタ型を検出した患者が、ワクチンを2回接種してから2週間が経過していた人への「ブレークスルー感染」も確認したことから「従来のデルタ型と同等の感染力がある」との見解も示していますので今後2回接種済の人たちの感染率が上昇してくるようであれば、追加接種の必要性だけではなく、新たなワクチンの開発なども視野に入ってくる可能性もあると考えられます。

ワクチン接種によってウイルスの宿主である人間側の性質が変化すれば、ウイルス自体の病原性が下がらずとも、相対的にウイルスが「弱毒化」した状態を作り出せることになる。何もせずに弱毒化を期待して待つのではなく積極的にその状況を作り出す、いわばウイルスを「手なずける」戦略が必要だ。

 この宿主である人間側の性質が変化すること、すなわち「感受性宿主の変化=ワクチン接種によって感受性を低下させること」は感染症発生の3要素の一つであることは以前よりお伝えしてきました。

 この3つの要素のうちどれか一つでも断つことができれば感染は成立しない、または拡大することを最小限に抑えることが可能となります。今月末で緊急事態宣言は解除になる模様ですが「なぜ感染は拡がるのか?」をもう一度振り返って考え、日常生活をもとに戻していきましょう。

#日経COMEMO #NIKKEI

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