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旧車市場にみるリプロダクト(復刻生産)事業の方向性

自動運転やEV化など、自動車業界がハイテク化していく中で、20年以上前に生産された旧型車(旧車)は、ネオクラシックとも呼ばれて、中古車市場では価値が上昇している。1989年~1994年に生産されたR32スカイライン、1991年~2003年に生産されたRX-7(FD3S型)などは、当時の新車価格を上回る相場で取引されている。

旧車が人気となっている理由は、コミックや映画の影響によって旧車ファンが、日本国内の他、海外にも増えていること。また、現代のハイテク車とは異なる、シンプルな内燃エンジンの構造によりオーナー自身でもカスタマイズがしやすいことなどがあり、30年以上前の人気車を入手してレストアする自動車愛好者も増えている。

そうした旧車オーナーにとって悩みとなっているのが、故障した部品の調達である。メーカーによる自動車部品の供給期間は、該当モデルの製造終了から10年間+αというのが一般的であり、20年以上前の旧車になると、中古部品を探すしかないが、入手可能な部品は少なくなっている。

自動車メーカー側でも、旧車ファンからの要望に応えるべく、昔の人気車を対象として、公式なレストアサービスを実施したり、部品の復刻をする動きはある。

マツダは、1989年から発売した初代ロードスター(NA型)の修復を、メーカーとして公式に行うサービス「NAロードスターレストア」を2017年から立ち上げている。ただし、ボディに錆が出ていたり、大幅な修理や改造がされている車は対象外となっており、熟練工が年間に修復できる台数も限られていることから、申し込みから修復の完成までには数年待たなくてはいけない、人気のサービスになっている。

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トヨタ自動車でも、1896年から2002年までに生産された「スープラ」旧モデル(A70とA80型)の補給部品を復刻して再販売することを、2020年1月に発表している。

自動車メーカーが廃番になった旧型車のレストアや部品供給を行うことは、信頼性の高い再整備を可能にして、旧車の資産価値を向上させる効果があるが、一部の旧車ファン顧客に限定されたサービスになるため、自動車メーカーとしては採算ベースに乗せにくい事業である。

【初代マスタングの復刻ビジネス】

自動車メーカーにとっては、品質や安全性の面で妥協をすることができないため、旧車ファンの要望にすべて応えることは難しいが、こうしたリプロダクト事業(復刻生産)の事例として、初代フォード・マスタングの再生モデルは参考になる。

マスタングは、米国を象徴するスポーツカーであり、1964~1968年にかけて生産された初代マスタングは、現在でも人気がある。このモデルを復活させているのが、2014年に米フロリダ州オーランドで創業した「Revology Cars」という、従業員数が30名規模の会社だ。創業者はフォード社出身のエンジニアで、フォードからの正式なライセンス契約により、1966年型マスタングのコンバーチブルとクーペ、1966年型シェルビーGT350など、計5車種を復刻生産している。

これは、現存の中古車をレストアしたものではなく、フォードから現行型マスタングに搭載されるエンジン(5.0L、435馬力)の供給を受け、ボディーデザインもフォードとのライセンス契約により、本物を忠実に再現したレプリカ(複製車)を新車として生産販売している。ただし、安全や快適装備については当時のままでなく、3点式シートベルト、4輪ディスクブレーキ、パワステ、エアコン、パワーウインドウなど、現代の車として使いやすい機能が搭載されている。

価格はモデルによっても異なるが、16万~19万ドル(約1700~2000万円)の設定で、注文から納車までには約1年かかる。このようなレプリカ車は、手作業の製造工程が多く、販売台数も限られるため、フォード社自体が行うのでは採算が合わない。しかし、コアなファンが確実に存在する市場でもあるため、元エンジニアがスピンアウトした会社に、デザインやパーツをライセンス提供する形での“復元”であれば、合弁事業として手掛けやすい。

Revology Cars

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