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コロナで変わる新卒採用:通年採用は広まるのか?

コロナウイルスの影響によって、新卒採用はオンライン化と通年採用という2つの大きな変化の渦中にある。これまでの日本企業の新卒採用は「定期性」と「大量一括」、「面接偏重」という3つの特徴を持ち、世界で日本だけの特殊な商慣習となっていた。面接偏重の大量一括採用は20年以上前から制度疲労の問題が指摘されているが、それでも一定の合理性があったために長年継続されてきた。

大量一括の新卒採用の主な合理性は以下の事項が考えられる。

①自社の風土に合う学生を多数の候補者同士で比較しながら、長い時間をかけて吟味できる

②不足している大量の人員を個別対応するよりも、低いコストで採用できる

③毎年の定期行事にできるので業務プロセスを定型化できる

④若年労働者の雇用保障ができる

➄中小企業も定期採用の時期に求人を出すと学生を採用できる

特に社会的には④と➄の効果が絶大であり、他の先進諸国が抱える若年層の雇用問題や中小企業の人手不足問題に一役買ってきた。新卒の大量一括定期採用がなければ、中小企業の新卒採用は今よりも多くのコストをかけることが必要とされていただろう。

しかし、人手不足問題や求める人材要件の変化、ジョブ型のキャリア志向、終身雇用を前提とした人事制度の限界、グローバル採用といった環境の変化は、日本独自のローカル・ルールである新卒の大量一括定期採用という伝統手法の継続を困難なものにしている。

それに合わせて、今回のコロナ騒動によって物理的に新卒採用の定期性が損なわれることとなり、採用活動の時期を流動的に行わなくてはならなくなった。

3月12日付けの日経新聞には、政府が経済界に通年採用を視野に入れた柔軟な採用活動を要請している。

また、経団連も通年採用を後押ししており、雇用の脱一律を目指すように提言している。

企業側からも、通年採用を自ら選択する事例が増えてきている。そして、それは大手企業だけの話ではない。建設資材商社のコンドーテックは通年採用を2010年入社から導入し、新卒入社の3分の1を確保している。


目的で4タイプに分類される通年採用のポートフォリオ

しかし、通年採用と言っても、企業によってその運用方法や実態が変わってくるだろう。通年採用で有名な企業はファストリテイリングだが、どの会社もファストリテイリングを参考にした通年採用を運用することは不可能だろう。それどころか、同じことをしようとして、逆に採用実務が混乱し、崩壊する恐れもある。

なぜ混乱し、崩壊するのかというと、企業ごとに通年採用の目的と労働市場や競合との関係性が異なるためだ。特に、業界内での就活人気と会社の知名度によって、通年採用の在り方は変化することと思われる。

下図のポートフォリオは、想定される通年採用の在り方を示したものだ。

通年採用ポンチ絵

ファストリテイリングのような、会社の知名度も高く、業界内での学生からの人気度も高い企業は、通年採用は人事戦略として実施ができる。新卒一括採用のままでも定員の充足はできるが、より良い人材を採用するために、採用プロセスに柔軟性を持たせるために通年採用を導入している。そうすることで、留学から帰ってきた学生や海外大学の学生に対しても、なんの不利益を被ることなく採用活動をすることが可能だ。また、採用に力を入れている企業としてのブランドが、より優秀な人材を惹きつける装置ともなる。このタイプの通年採用は、リクルートワークス研究所の中村天江氏の推奨する「攻めの採用」の一形態と言えるだろう。

同じように、通年採用を「攻めの採用」として活用しているのが、知名度はないが就活人気の高い「ニッチ型通年採用」だ。ニッチ型通年採用は、良い人材がいれば時期を問わずに採用しようとしている企業だ。採用担当者は、ヘッドハンターのように社外にネットワークを構築し、優秀な人材を探し続ける。そして、良い人材と出会ったときにピンポイントで採用してくる。例えば、数か月から数年単位のインターンシップを活用して、優秀な学生と接点を持つようにしたり、学生主催のイベントや団体のスポンサー活動を通して採用する。採用担当者に採用のプロとしての専門性が求められるが、大企業ではなくても、驚くほど優秀な人材を獲得することができる。このような企業は組織作りに熱心なことが多く、「Great Place to Work(働きがいのある会社ランキング)」に選出されるようなイメージだ。

3つ目のカテゴリは企業の知名度はあるが、同じ業界内に強力な競合がいるために学生からの志望度が低い場合だ。例えば、自動車関連産業はどうしてもトヨタやホンダ、マツダなどの完成車メーカーの志望度が高くなり、部品や素材、産業用機械を製造する自動車関連企業の志望度は低くなる。そういった企業は、競合の新卒採用がクローズするまでは採用を本格化することができず、採用活動が長期化しがちである。そのため、通年採用を長期化する採用活動の1つのオプションとして活用していく。また、公務員志望で試験に落ちてしまった学生の採用に積極的なのも、このカテゴリ内の企業に分類される。

最後のカテゴリは、企業の知名度も低く、学生からの志望度も低い場合だ。このような企業は、現状でも春採用・夏採用・秋採用・冬採用と呼称を変えて実質的には通年採用を行っていることが多い。


新卒一括採用関連の混乱は、これからも続くだろう。しかし、通年採用だけではなく、採用プロセスのオンライン化、ピープル・アナリティクスの活用、グローバル採用への対応など、遅いか早いかの問題だけで、最終的には導入しなくてはならないとわかっている変化は多い。自社の在り方をしっかりと分析し、目的に応じて最適な採用手法を選ぶ能力が、各社の採用担当者には求められている。

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