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外国人CEOでおせんべいは世界で生まれ変わるか?

外国人CEOで製菓メーカーの挑戦

柿の種やハッピーターンで有名な米菓メーカーの亀田製菓が、今年6月から会長兼最高経営責任者としてインド出身のジュネジャ・レカ・ラジュ氏を迎える。その狙いは、世界展開だ。

亀田製菓は、米菓メーカーとして日本市場の35.4%の市場占有率を誇る、業界最大手の企業だ。「亀田の柿の種」や「ハッピーターン」をはじめとした12の主力ブランドは、日本で生活をしたことのある人なら知らない人はいないほどの国民的菓子ばかりだ。しかし、ほかの多くの食品メーカーと同じように、国際展開では課題を持つ。
現在の海外売上高比率は26.1%だ。同社の沿革をみていると、品質の国際規格 ISO 9001 認証取得をしたのが2001年で、2003年に中国・青島亀田食品有限公司を設立していることから、21世紀に入って海外展開を本格化させていることがうかがい知れる。そこから徐々に売上高を伸ばしてきた形だ。

世界市場を狙うために米菓専業から脱却する

煎餅は英語で「ライスクラッカー(Rice cracker)」と呼ばれ、類似の塩味のスナック菓子は世界中に存在する。世界を旅していると、どこの国民も「わが故郷の味が世界で最も美味しい」と自信をもって言う。私は妻がインドネシア出身であるためにインドネシアの友人と接する機会が多いが、「ポテトチップスとチョコレートは日本が美味しいけど、煎餅(クルプック、Krupuk)はインドネシアが負けない」と口々に言う。既存の類似した食文化があるとき、海外製品が進出することは簡単ではない。
そこで、亀田製菓が新たに挑戦するのが煎餅以外の事業での海外展開だ。同社のIR資料をみてみると、2021年度の海外事業の売上高は92億円であり、北米とアジアが主な市場となる。2030年度には売上高500億円規模を目指すと言い、その中心となるのがグルテンフリー製品だ。米粉を使ったクッキーやパンなどのグルテンフリー製品の市場ニーズは成長している。
また、同様に力を入れているのが、食品事業のプラントベースドフード、いわゆる植物性代替肉だ。ビーガン対応だけではなく、植物性代替肉はアレルギーなどの体質の問題で肉料理を楽しめない人にも歓迎されている。

将来の成功のためのアンラーニング

亀田製菓の決断で面白いところは、外国人CEOの起用だけではない。主力事業である煎餅に固執しない、柔軟な意思決定にある。
新規事業開発の相談や調査・研究をしていると、過去の成功や既存事業が制約となって、市場や顧客とのコミュニケーションの障害となってしまうケースを遭遇することが多い。「それは、役員が若い時に立ち上げた事業だから、アンタッチャブルなのです」とか、「過去の実績から、役員から伝統だから変えてくれるなと釘が刺されているところなのです」という、いわゆる社内事情で新規事業が流れてしまったり、実証実験だけで本格的な事業展開に結びつかないこともある。クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」の亜種とも言えるような状態だ。
過去の成功をいったん忘れて、新しいことに挑戦しようというアンラーニングは個人レベルであっても難しい。それを組織レベルの意思決定で行うことができるのは凄いことだ。
新CEOであるジュネジャ・レカ・ラジュ氏による、同社の海外戦略と脱煎餅の新たな挑戦には目が離せない。

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