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日本型雇用慣行自体が“悪”ではない。経営戦略と人材戦略の”ずれ”が問題(人材版伊藤レポート①:問題意識)

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

飼っているウサギの体調が悪く、少し心配しています。

さて、今回は、経済産業省産業人材政策課(当時は「室」)が、昨年9月に公表した「『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会』報告書~人材版伊藤レポート~」について、書いていきます。人材版伊藤レポートは、私が経産省にいた時に担当していたもので思い入れのあるレポートです。
まだ、このレポートをお読みでない方は、是非こちらをご覧ください。参考資料はなかなか面白いものが集まっています。

人材版伊藤レポートは、今年行われたコーポレート・ガバナンスコードにて明記された「人材戦略の重要性」等の記載と深く関係しており、まさにガバナンスの問題として位置づけられています。

今回は、まず人材版伊藤レポートの問題意識を書いていきます。

日本を取り巻く激しい環境の変化

既に言われて久しいですが、日本(のみならず世界)をとりまく環境は、激しく変化しています。
①第4次産業革命
まずは第4次産業革命です。世界はこれまでも産業革命を経験しており、産業革命自体は初めて経験する現象ではありません。
しかしながら、第4次産業革命は、これまでの産業革命に比して変化のスピードが激しく、非連続的な変化が生じているとされています。

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(経済産業省「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言~日本企業の経営競争力強化に向けて~」(2019年3月)より)

そのため、第3次産業革命時には、日本型雇用の広いジョブローテーションが雇用喪失を防ぐ役割を果たしたとされていますが、第4次産業革命下では、変化のスピードが速く、しかも非連続的であることから、ジョブローテーションだけでは太刀打ちできないと懸念されます。

②グローバル化
続いて、グローバル化です。この点は分かりやすいと思いますが、企業間の競争に国境がなくなり、グローバル競争が激化しています。かつては市場価値のトップを占めていた日本企業は、IT企業の台頭とともにほとんど姿を見せなくなっています。

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(経済産業省「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言~日本企業の経営競争力強化に向けて~」(2019年3月)より)


このことは、日本企業が、上記の第4次産業革命下における競争に後れを取っていると見ることもできるでしょう。

③少子高齢化
さらに社会構造としても、少子高齢化がますます加速していきます。推計では、2050年には、労働生産年齢人口は、人口全体の半分程度となる見込みです。
この点は、上記の点とは逆に日本が世界の中で先行している現象ともいえます。

④人生100年時代の到来と個人の就労観の変化
また、今後、ほとんどの人が100歳まで生きることが想定され、人生100年時代が到来します。
人生が100年となると、仮に65歳(70歳)まで一つの会社で勤め上げたとしても、(もちろん、一つの会社で勤め上げることは尊いことですが)残りの人生を社会的接触なく生きることは難しく、また経済的にも困難となってきます。
そこで、定年後も他の会社で働くことや、フリーランスとして働くことができるよう、予め、キャリア形成を行っていく必要があるということになります。
その結果、働く人にとっても、キャリア観が変化してきており、人生100年時代に直面する若い層を中心に、ジョブローテーションに服するよりも、専門性を高めたいという意向や、兼業・副業をしたいという意向が高まっています。

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(経済産業省「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言~日本企業の経営競争力強化に向けて~」(2019年3月)より)

⑤新型コロナウイルス感染症の拡大
新型コロナウイルス感染症拡大は、上記のような現象による影響を早めたものと言えまます。
人材版伊藤レポートにおいても、新型コロナウイルス感染症拡大は、同様に位置づけています。

人的資本を含む無形資産が企業価値の源泉となる

さて、こうした経営環境、社会環境の変化の中で、企業価値の源泉が、「モノ」から「ヒト」にシフトしています。
このことは、1990 年代後半から米国企業における無形資産への投資額(付加価値総額に 占める割合)が有形資産への投資額を上回っていることや、ESG 要因の中でも、特に S(ソーシャル)要因が企業価値に密接に結びついており、S 要因のレーティングが高い企業は、株価パフォーマンス も高いというデータもあることにも表れているでしょう。
まさに、創造的な業務や機会では代替できない細かな技術・サービスのように、ヒトがヒトたるゆえんのところに価値の源泉が移ってくるということになります。

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(経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート」参考資料より)

経営戦略は変わっても人材戦略は慣行に囚われていないか

上記のような経営環境、社会環境が変化し、「ヒト」に付加価値の源泉がシフトする中で、経営戦略と人材戦略の課題は直結してきます。

経営課題直結

(経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート」参考資料より)


ところが、経営戦略は変われども、人材戦略は、日本型雇用慣行がまさに「慣行」として定着し、変わらない(変えられない)状況となっています。

人材戦略が課題

(経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート」参考資料より)


日本型雇用慣行は、それ自体はメリットもあるものであり、一概にこれを否定すべきものではありません。日本型雇用慣行が発生、定着していった頃の経営環境、社会環境に照らすと、経営戦略とも適合していたといえるでしょう。
問題なのは、経営戦略は当時から変化しており、また企業ごとに多様であるはずであるのに、人材戦略は日本型雇用慣行の名の下に画一的となり、経営戦略とずれが生じていることにあります。

人事部門だけでなく経営層、機関投資家に向けたレポート


人材版伊藤レポートは、上記のように「経営戦略と人材戦略にずれが生じ、両者が適合していないのではないか」との問題意識のもと、人材戦略と経営戦略を適合させるためにどのように考え、どのようなアクションが必要であるかをまとめています。
そうした観点から人事部門だけでなく経営層、機関投資家もターゲットとしています。

今回は、以上です。次は、大枠としての「変革の方向性」について書いていきます。
                                以上

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