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“JTC”や“大企業病”から抜け出すために、人事制度の見直し以上に大事なこと。

皆さん、こんにちは。今回は「JTC」について書かせていただきます。

JTCとは「日本の伝統的な企業(Japanese Traditional Company)」のことですが、この言葉は最近SNSなどでよく見るようになりました。「稟議書等を紙で行っている」「仕事の質よりも量で評価される」など、非生産的な文化や伝統が残っている企業のことを指します。

よく「大企業病」と言われますが、保守的、かつ前例主義で新しいことが前に進まない状態、コンセンサス重視で意思決定に時間がかかり過ぎる状態など、一般的に大企業で見られがちな傾向や企業体質を総称した言葉も一般化しています。(決して大企業だけに限らず、中小企業であっても“大企業病”は起こり得ます。)

このような状態がイノベーションを阻む壁として立ちはだかっていることは間違いありません。

大手商社で2千万円以上の年収を得る窓際族の中高年社員は「ウィンドウズ2000」、働かない中高年のしわ寄せで、休日返上で働く若手・中堅社員は「オフィス365」。出社後いつの間にか姿を消す中高年社員は「妖精さん」――。投稿を調べると、JTCにはこうした造語で皮肉られる残念な社員が大量に生息していることも分かった。

JTCの多くは、働かない中高年が増え、その分を若手や中堅社員が担い、職場には停滞感や社員の熱意の低さが蔓延するという構図があります。

今回は、いかにこのような状態を打破していくかについて、考えていきたいと思います。

■JTCと言われる企業の特徴

JTCと呼ばれるような、日本の伝統的な大企業の特徴を挙げてみます。

記事には、

  • 会議が長いのに何も決まらない

  • 年功序列・終身雇用

  • 男性中心の経営層や管理職

  • 責任の所在があいまいになっている

  • パワハラ、セクハラなどのハラスメントがある

  • 育児休業・介護休業が取りにくい

  • 過剰なノルマがある

  • チャレンジへの失敗が許されない雰囲気がある

  • 断りにくい転勤制度がある

  • 勤続年数が長いほど有利な退職金制度

とありました。他によく挙がる項目として、

  • 過度な社内政治がある

  • 無駄な手続きが多い

  • 社内向けの報告資料が多い

  • 自分の仕事にしか関心を持たなくなる

  • 現状維持を優先して、チャレンジをしなくなる

  • 顧客ニーズよりも社内ニーズを優先する

  • 現場の声や顧客のニーズがトップまで伝わらない

  • 自分が何か変わったことや新しいことを始めてもそれが周囲に認識されない(何をやっても無駄だという意識が広がる)

  • リスクテイクをする人が評価されず、現状維持によってインセンティブが発生する

  • 既存のマニュアルや手順にこだわり、臨機応変な対応ができない

  • ルールだからという理由で非効率な作業を遵守し、作業の見直しや改善をしない

  • 中間管理職は慣例やルールにとらわれて、非効率な業務や本質的でない施策を増やしている

  • 上司や同僚の顔色を気にして、外部のステークホルダーに目を向けない

  • 社員間でのコミュニケーションが形式的になり、目的に対する認識を十分に共有できない

  • 自らが責任をとりつつ、周りを巻き込んで物事を推進していくことが応援されない

  • 能力不足な人ばかりが出世している

  • 会社が倒産するわけがないという安心感があるがゆえに一人ひとりが歯車でしかない無気力感がある

など様々です。まとめると、

1、 安定志向、保守的、前例主義(現状維持、チャレンジ不足)
2、 内向き、形式的(社内史上主義、縦割り、責任のなすりつけ合い)
3、 スピードの欠如(業務スピードや意思決定スピードの欠如)
4、 同質化、風通しの悪さ(経営体制や組織の新陳代謝不全)
5、 変化対応不足(柔軟性の欠如)

という状態が、JTCと言われるような企業の特徴です。

一方で、「大企業病」と同じように、「スタートアップ企業病」と言われるような、スタートアップならではの組織課題も確実に存在します。
たとえば、「とにかくがむしゃらにスピード最優先で部下に無茶ぶりをする」「長時間労働体質は当たり前で、気合いや根性を求める」「自分で何でも考えろと、ほぼ育成を丸投げする」などがそれに該当します。

企業規模の大きさに限らず、全ての企業には必ずそれぞれの組織課題や経営課題はあるので、「大企業病」が一概に全て悪いわけではないのです。

■転生のヒント

「年功序列」や「終身雇用」、「勤続年数が長いほど有利な退職金制度」などは典型的な古い人事制度です。年次や勤続年数だけで、給与や役職が決まってくる硬直的な評価システムがある場合、社員の働くモチベーションややりがいを奪っていることは間違いありません。断れば評価に響くような「転勤制度」も今の若い世代からは嫌厭されています。

古い体質を引きずる企業をJTCというスラングで揶揄し、その真逆の社風を求めて就職・転職活動を行う若手世代も増えている中、伝統的な日本の大企業の多くは、人を取り巻く制度や文化の見直しに着手し始めています。

●採用→新卒一括採用など古い慣例に囚われず、時代や自社に合った採用手法の確立へ。
●人材配置→人員補充など会社都合のみの観点で人材を配置するのではなく、社員の能力開発の観点で人材を最適配置する人事制度へ。
●昇格・昇給→入社年次や年齢に応じて一律で昇格や昇給が決まるのではなく、能力に応じて早期に昇格・昇給できるような人事制度へ。
●キャリア開発→会社からの辞令によるキャリア開発ではなく、社員起点でキャリアを構築できる人事制度へ。
●ガバナンス体制→内部監査など「内なるガバナンス」ではなく、社外取締役の設置など監視の目が働きやすい構造へ。
●会社と社員の関係性→社員は会社のために働くものという主従関係ではなく、社員が会社に愛着や貢献意欲を持つ関係性へ。
●多様性→同質性の高い組織や環境ではなく、多様な人材が「個」を発揮しながら活躍できる環境へ。
●企業文化→失敗しないように慎重に成功を狙う企業文化ではなく、失敗を許容しネクストチャレンジを生み出す企業文化へ。

このように、速やかに見直すべき項目は多々ありますが、一番重要、かつ難易度が高いのは「企業文化」です。

こちらの記事には、

「失敗カンファレンス」NTTが一風変わった社内イベントを始めた。グループ社員が次々に登壇し、しくじりを明かし合う。2023年3月と11月に開催し、オンラインを含め計2千人が参加。「八方ふさがり、妙案なし」「何も事態が好転しない……」。登壇者の"失敗自慢"に会場が沸いた。

とあり、失敗を恐れて挑戦を避ける風土を変えるためのイベントを開催しているそうです。
「一度失敗すると出世の階段から外れ脱落してしまう」という状態は、責任逃れをしたり、責任の所在を曖昧にしたり、リスクをとらずに無難な仕事しかしないというような、失敗を回避する企業文化を生み出すことにつながります。社内の誰かがチャレンジしたとしてもその結果うまくいかなかった場合に、左遷されたり、大きな仕事から外されたりするような事例が出てくると、組織全体に「チャレンジへの失敗が許されない雰囲気」が蔓延してしまいます。

人事制度を時代や働き手のニーズに合わせて見直していくことはもちろんですが、何よりも重要なのは、「失敗を恐れず、チャレンジを生み出す文化」を醸成することではないかと思います。
そのためには、社員が何かに挑戦した結果失敗したとしても、次のチャンスをいかに提供できるかが重要で、失敗しても次、そのまた次と挑戦機会を提供するような事例を創出していくことがスタート地点です。
 
JTCと言われる大企業ほど、失敗することに対して敏感で、臆病で、拒絶反応がある体質であることが多いです。失敗への許容度を大幅に引き上げていくことができれば、試行錯誤や改善の積み重ねにより、イノベーションが起きる可能性があります。

「失敗しないこと」が大事なのではなく、失敗経験を生み出し、その結果や仮説をコントロールしながら、より良い方向に進んでいくことが大事なのです。

■昭和からの脱却には、“若い力”がカギ

「大企業病」からの脱却に向けては「失敗を許容する文化の醸成」を一番重要なポイントとして挙げさせていただきましたが、もちろんそれだけで十分なわけではありません。

先ほど挙げた5つの特徴に対して、上図のように「社内の風通しの良さの追求」「業務改革による意思決定プロセスやスピードの見直し」「経営層や組織の新陳代謝促進」「組織変革のための新しい力の活用」なども、大きなテコイレポイントとなるはずです。

その他にもいくつか大企業病解決のためのヒントを挙げてみます。

●ルールで縛り過ぎない
→重要ではない社内ルールが多く自由が少ない組織は、大企業病に陥りやすいです。過去に作られたルールが現在の業務管理や評価の仕組みに合っていないことがあるため、合理的ではないルールは撤廃し、自由な発想やクリエイティビティーを尊重していかなければなりません。
●チャレンジすることに抵抗を持たない
→チャレンジをするよりも安定や現状維持を望む社内の風潮は組織構造として危険です。さらに、会社が新しいことを始めることによって、自分の業務負荷が増す、居心地が悪くなるという社員が多い状態も問題です。チャレンジしたことが褒められたり、認められたりする事例や評価システムを構築していくことが大事です。
●理想論だけを振りかざさない
→現場の状況を冷静に判断しないまま、理想論ばかりを振りかざす人が多いと、それが仮に正しくても机上の空論に過ぎず、大きな成果を出すことはできません。現実的な解決策を模索しない姿勢は、大企業病の悪しきポイントです。また、何をしても「どうせ変わらない」「どうせ意味がない」というような職場の雰囲気を完全に根絶させることが重要です。
●マニュアルに固執し過ぎない
→マニュアルで決められた通りの対応に固執してしまうと、臨機応援に対応するなどの柔軟性が失われていきます。マニュアルが不要というわけではありませんが、その時々の状況に応じて自分で何が正しいかを判断しなければいけません。
●他部署とのつながりを作る
→縄張り意識をなくし、自部署以外は興味を持たないという状態をなくし、他人や他部署との連携や協力、コラボレーションを生む機会を狙って設ける必要があります。
●業務範囲やミッション領域を“越境”していく
→これだけ社員がいるのだから、自分は与えられた仕事だけやっておけばいい、複雑で難易度が高い仕事は誰かにやらせておけばいい、という当事者意識の欠如は、大企業病の始まりです。決められた範囲を越え、自ら仕事の範囲を広げていく努力が必要で、それがしっかり評価されることも大事です。
●顧客や社会課題に目を向ける
→たとえば、社内で派閥争いがある、出世をめぐって社内政治が常態化しているという状態も大企業病の特徴の一つです。自分の評価や出世にばかりに目を向ける社員を放っておかず、本来のビジネスの目的である、顧客の満足度向上や社会課題解決、会社の存在意義に目を向けさせる必要があります。顧客ではなく上司の顔色を見て仕事をする人を減らしていかなければなりません。

こちらには、

24年、日本に住む人の半数が50歳を超える。団塊ジュニアも50代に入り、日本の現場を支えた豊富な労働力にはもう頼れない。一方で20歳から64歳のうち20〜30代の比率は27年に37.7%で底打ちして上がっていく。人は減るが、職場は若返る

とあり、これからは20代や30代の若い世代が、これまでの常識や慣習を打ち破り、新しい企業の在り方を模索していかなければなりません。記事には、バブル経済が崩壊してから日本経済は伸びず、経済力を示す1人あたりの名目GDPは2000年は世界2位だったにも関わらず、2022年は世界32位(G7のうち最下位)に落ちた、とありました。
このように日本の経済が長く停滞していること、海外と比べて日本の生産性が著しく低いこと、古き良き昭和のシステムから脱却し世界水準で競争力を磨いていかなければならないことをまずは自覚し、凝り固まった社会を作り変えていかなければならないのです。

創業から何十年も経ち、会社の成長が鈍化し、社員の自己防衛意識が高まり、会社全体の一体感や連帯感が失われているような大企業病を発症している企業があった場合、前述した「失敗を恐れず、チャレンジを生み出す文化」を醸成すると同時に、「ビジョンを体現する若手人材を積極的に責任あるポジションに登用」していくことで、凝り固まった景色を変えていく一手になる可能性が十分あります

こちらの記事には、

意思決定の多様化によって企業価値が高まる、という考え方が欧米では浸透しています。人工知能(AI)が様々な領域に広がり、革新的な技術やサービスが相次ぐ中、日本の出遅れ感は否めません。

とありました。
“JTC”と言われる伝統的な企業は、「長年培ってきた顧客」や「社会からの信頼」という資産を持っています。ただ、「意思決定の多様化」によって企業価値が高まるとするならば、日本の大企業が“JTC”のままでいては、到底常に先を行っている海外企業のスピードや技術革新の流れについていけません。「脱JTC」は、改革を進め、長年染みついた古い体質を変え、企業価値を高めるためには避けて通れない道です。

古き良き日本企業の体質の良いところは残し、変えるべきところは思い切って変えていくという試行錯誤こそが今、求められています
既にテコイレに動いている“JTC”とそうでない“JTC”との二極化は確実に進んでいます。


#日経COMEMO #NIKKEI


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