見出し画像

業務改革する気のないテレワークはしないほうがいい【日経COMEMOテーマ企画】

注目の割に進まないテレワーク

テレワークは、コロナによって、いま最も注目を集めている変化の1つである。新聞やニュースなどのメディアで、目にしない日はないというほど注目を集めている。あたかも次世代の働き方はテレワークが標準になるのではないかと思わせるような盛り上がりぶりだ。その反面、データは盛り上がりに水を差すような冷静な様相を示している。

人材情報管理サービスのカオナビの調査によると、在宅勤務などテレワークを実施しているのは、20代~60代の23%であるという。緊急事態宣言中の5月に比べ12ポイント減少している。その中でも、毎日テレワークをしている人はたったの8%だ。

SHRMによる調査では、米国の労働者のうち64%がテレワークを行っているという。Gallup社での調査では62%という数値が出ている。日本はダブルスコアどころかトリプルスコアに近い差を付けられている。(テレワークは、英語だと一般的に "Work from home" と呼びます)

これらのデータからは、テレワークが騒がれているほどには日本では普及していないことが見て取れる。それでは、テレワークの導入を何が阻んでいるのだろうか?

今回は、日経COMEMOのテーマ企画「#テレワークのハードル」を土台にして考察していきたい。


テレワークという言葉で働き方を論じる危険性

テレワークは本当に次世代の働き方か?そもそも、テレワークは次世代の働き方として進むべき方向性なのだろうか?米国のメガベンチャーでも、テレワークへの対応は割れている。Twitterが在宅勤務を「永遠に」許可するという報道が流れた一方、アップルやAmazonは対面へと徐々に戻してきている。

結局は、事業内容に応じて、テレワークを積極導入するかどうかが分かれるということなのだろう。しかし、どこの企業でも共通していることだが、だからといってテレワークができないというわけではない。コロナの影響下において、どの企業も事務系職種の在宅勤務を行っている。その上で、戻すという決断を下している。

テレワークを積極導入しないからといって、アップルやAmazonの働き方がTwitterやFacebookと比べて劣っているというわけではない。重要なことは、自社に最も適した働き方は何かを常に考え、模索し、独自に新しい働き方を創造していくことだ。そういう意味では、テレワークは働き方改革の文脈の一部分でしかないと言える。

例えば、レノボの調査では日本企業は他の先進諸国と比べて、在宅勤務のほうがオフィスよりも生産性が下がると答えた割合が大きい。それも、わずかな差での違いではなく、明らかに他国とは異なる答えをしている。

なぜこのような事態が起きているのかというと、そもそも、普段から働き方や業務改革のためにデジタル化の準備を進めてこなかった日本企業のツケが回っているともいえる。

ちょうど、コロナが本格流行する直前の今年2月にジャカルタに行き、現地のビジネススクールで教員やインドネシアのユニコーン企業で働くマネジャーと意見交換をする機会を得た。そのとき、ベンチャー企業をはじめとして、インドネシアの伝統的な大企業でも積極的にデジタル・ツールを導入し、生産性向上のためにプロジェクトをいくつも走らせていた。インドネシアをウォッチし始めた9年前では考えられないような変化だ。彼らにとっての日本企業のイメージは、スピード感がなく、古い経営手法をいつまでも使い続けている老人に近かった。

テレワークで生産性を高めたいのであれば、設備やテクノロジーなどのハード面の整備よりも、まずはデジタル化で生産性を高めようという意識改革と業務プロセスの改革に力を尽くす必要がある。

業務改革としてのテレワークに取り組む

テレワークを成功させるために、意識改革と業務プロセスの改革は不可欠だという議論は新しいものではない。リクルートワークス研究所 アドバイザーの大久保 幸夫氏は、働き方改革が重要視されるようになってきた最初期から、働き方改革と業務改革をセットとして考えることを主張してきた。

そして、テレワークを成功させるためには2つの人事思想が重要だと述べている。1つは、社員を自律したプロフェッショナルとして育てることだ。プロフェッショナルとして育っているのならば、自分で自分のモチベーションを統御する術を身に着けているため、形式的なモチベーション向上の施策は必要なくなる。もう1つは、社員を信頼するということだ。社員を信頼しているのならば、怠業を危惧する必要はないし、怠業があったとしても求めている成果は出してくるので割り切って考えることができる。

COVID-19でテレワークの導入が一斉に進む中で、AIによって従業員の働き方を監視したいというニーズが生まれ、それに応えるサービスが注目を集めた。しかし、そういったニーズがある企業や職場は、テレワークの前提となる意識改革や業務プロセスの整備ができていない。そのため、当然のことながら働く現場では混乱し、不具合を対処療法で潰していくためにその作業だけで疲弊してしまう。

前提となる準備ができていないのに、テレワークを実行しても生産性があがることはない。そのため、やってみたけど、うちでは合わない/できないと諦めることになってします。結局のところ、テレワークの導入が進まないのは、生産性を向上させるために業務プロセスの改革に二の足を踏んでいる現状にあるのだろう。

奇しくも、COVID-19によるテレワーク導入の騒動で、日本の生産性の低さを改善しようという努力が不足していたことが明らかになってしまった。OECDが示す日本の生産性の低さは統計上のマジックでもなんでもなく、実際に諸外国と比べて水をあけられているという実態を詳らかにしたと言えよう。そのため、テレワークを導入するのであれば、生産性向上のための業務改革とセットで取り組む覚悟が必要である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?