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日傘とアンコンシャスバイアス

梅雨が明け、猛暑の季節がやってきた。今年は男性向け日傘の販売が好調で、7月初旬ですでに去年の3倍という百貨店売り場もあるという。去年の夏も記録的な酷暑だったから、これは気温が上がったせいというよりも、男性が日傘をさしてもいいよね、という認識が世の中に浸透してきたことを示すものだろう。

日傘のように、「女性の持ち物(よって男性向きではない)」という刷り込みは、せっかく開拓できるはずの市場を矮小(わいしょう)化するのみならず、日傘によって恩恵を受けられる男性の得にもならない。

ところが、このような事例は意外に多い。例えば、今では当たり前のキャスター付きスーツケースも、男ならかばんは持ち上げて運ぶもの、という刷り込みに阻まれた。確かに60年代くらいの映画を観ると、男性は必ず重たそうな旅行かばんを抱えている。

このようにジェンダーに関する固定観念は、往々にしてイノベーションを損なう。一方、芸術分野では「女性(あるいは男性)のもの」を利用して、男性(あるいは女性)による試みが新天地を開く定石が古くから存在する。

古くは紀貫之の「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」で始まる土佐日記が思い当たる。また、男性のアイコンファッション―例えばタキシードを女性が着こなすことで新しい魅力が生まれる。最近は、パール男子が真珠の需要増を支える一因となっている。ジェンダーレスがはやりではあるが、そもそものジェンダー概念があるからこそ、使い手を広げることでひねりが加わったり、元の使われ方に刺激を与えたりすることがありそうだ。経済分野も、芸術分野のような柔軟な発想が必要だろう。

現代、企業社会の文脈では、「アンコンシャスバイアス」は、女性を知らず知らずのうちに不利な立場に置くような目に見えにくい社会規範を指す。地方からジェンダー・エクイティの実現を目指す兵庫県豊岡市の関係者の言葉を引用すると「男性も女性も性別に関わらず、年代にも関わらず、誰もがバッターボックスに立ち、自分らしく生きることができる」仕組みに変えていくことが求められるという。

一方で、「おっさん」にとっても「男らしさ」を前提とする暗黙の前提は、日傘に手が伸びないような窮屈さをもたらしているのだろう。「男らしい」「女らしい」で思考停止することなく、軽々とジェンダーの壁を飛び越えることは、壁の両側に気付きをもたらし、広義のアンコンシャスバイアスを破ることにつながるはずだ。

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