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肩書への囚われを手放して得る、これからのキャリアづくり(後編)

前回、肩書に囚われた状態とは何か、そうした状態に陥るとどうなるのかについて、私自身が肩書に大いに囚われていた実体験をもとに整理しました。
その上で、肩書に囚われ拘束されてしまわないためには、「肩書だけに依存しないこと」であるということをお伝えしました。

後編では、「どうすれば肩書だけに依存せずにいられるのか?」についての方法論に触れながら、これからのキャリアについて考えてゆきます。

肩書を失うことを恐れない

肩書に依存してしまうということは、自分自身に価値があるのではなくて、肩書に価値があると考えるから、依存してしまうわけですよね。

前編の僕の例で言うと、「唐澤俊輔」という自分自身に価値があるのではなくて、「日本マクドナルドのマーケティング本部の部長」という肩書に価値があり、それを頼りに自分の価値を認識しているということになります。

その状態でもし肩書を失うとなれば、自分が頼りにしているものがなくなってしまうので怖くなるんですよね。僕自身も、「失敗して降格になったらどうしよう」と思い、安全で無難な判断ばかりしていたと思います。小さくまとまったわけです。
このようにして、「このポジションを失いたくない」といいう思考が生まれて、肩書にしがみついてしまう。

それを避けるためには、肩書を失っても大丈夫と思えるくらい、自分の実力を付ければいいわけです。
「自分の名前で食べていけるようになろう!」「そのためにはまずは目の前の仕事で成果を上げましょう!」などとよく言われるのがそれです。
けど、そんなことはみんな分かっていて、「でもやっぱり肩書を失うのは不安」なんですよ。

そこで、ここからは、その不安を乗り越え、肩書を失うことを恐れずにキャリアを積んでいくための僕なりの方法論を2つご紹介したいと思います!

(1)人生3倍速で生きる

「なぜ肩書にこだわるのか?」「なぜ失敗して失うことが怖いのか?」という考えを突き詰めていくとそれは、「人生が1回しかないから」なんです。

投資だったら、どこか一社に全てを賭けるのではなくて、ポートフォリオを組んで、複数同時に投資することでリスクを分散しますよね。だから、リスクの高い投資も受け入れられる。

けど、キャリアは一つしか選べない。同時に複数の会社に正社員として所属し、全てでフルタイムで働くことは、時間的にも法制度的にもできなくて、選択肢の中から一つしか基本的には選べないんです。
そして、新卒で会社に入社すると、そこにはその会社で勤め上げてキャリアを終える人がたくさんいるから、就職すれば当然そういう前提で考える。

道が一本しかないから、失敗したらその先が閉ざされてしまう。
だからリスクを取りにくい。
それが日本における一般的なキャリアであり、人生なんです。

この環境においては、リスク取らずにできるだけ失点しないように行動するのは、ある種当然なんですよね。

このように、「時間は有限なのだから、一つしか選べない」ことが常識なわけですが、実はこの常識を覆す方法が一つだけあります。

それは、スピードを上げることです。

スピードを上げて生きていけば、何なら3倍速で生きれば、3回分の人生を送ることができます
3回チャンスがあるわけなので、1−2回くらい失敗したってまだチャンスはある。そう思えるから、リスクをとった行動ができますし、今の肩書を失ってもまた頑張れば大丈夫、と捉えられるわけです。
このようにして、肩書だけに依存しない生き方を得ることができます。

実際、私自身もマクドナルドを退職しようと思った決め手の一つがこの「人生3倍速」でした。
最年少でマーケティング部長になったわけですから、このままうまくいけば、CMOになって、その先はCEOで・・・というキャリアが描けるわけです。(なれるかどうかは別の話ですが、キャリアの一般論として。)
しかも、私が退職した2017年当時は、2015年の過去最大の赤字を乗り越え、V字回復に成功して過去最高益まで見えていました。成果も挙がる、この先のキャリアの可能性もある、そんな最高のタイミングで退職したんです。

当時、業績もどんどん伸びていて、チームのメンバーも育ってきていたので、すごい頑張らなくても、楽に成果がどんどん出る状態でした。

そのとき、「このまま楽に成果を挙げながら、CMO→CEOとキャリアを上げちゃって本当にいいのか?」という疑問を抱いたんです。
昇進は、そのポジションに就くことがゴールではなくて、そのポジションで成果を挙げることこそがゴール。だとしたら、もっと幅の広い経験を積んで、大きなチャレンジを乗り越えて成長し、それからなった方がいい。そう思いました。

そして、「チャレンジするなら、できるだけ違う環境を選んだ方が伸び代が大きい」と考えて、外資大企業の外食業から、日本のITスタートアップであるメルカリへの転進を決めました。まさに真逆の環境です。
新しいことを身につけたかったので、12年やってきたマーケティングの職からも離れたんです。

12年間働いてきた慣れ親しんだ会社を離れるのは怖さもありました。当時34歳。全く違う業界かつ違う職種に、ゼロからチャレンジして本当に大丈夫なのかー。

そこで「人生3倍速」をもとに、このように捉え直したんです。

「12年働いたから、3倍速で仕事したってことは36年分くらい。新卒から定年くらいまで働いたのか。新卒で入った会社でマーケティング部長や社長室長をやって、V次回復を成し遂げて定年退職。とてもいい仕事人生だった。これで1回目のキャリアは終わりにして、またゼロから出直せばいい。」

「むしろ、ここでチャレンジせず、楽に稼いでしまっていたら、人生のスピードが落ちるわけで、その方がよっぽど怖いのでは。」

我ながら、すごい勝手な解釈(笑)。
でもこの考えのもと、ゼロからチャレンジして。
その先の成長スピードは自分の想像を超えるものでした。

その後、人事・組織開発の責任者を2年間、COO職を1年間。計3年間、スタートアップで経験を積んだ結果、自分で起業して挑戦してみてもいいのではと思えるようになり、どこかで何かしらできることはあるから食いっぱぐれることもなさそうとも考えるようになり、失敗への不安はなくなりました。

それ以来、人生3倍速というのを自分自身意識して生きています。

(2)複数の肩書を持つ

さて、ここにきてやっと、元のお題である「#肩書を複数持つ必要ありますか」に答えられそうです(苦笑)。

これからの時代、複数の肩書を持つこともどんどん可能になってきています。同時並行ができれば、一つの道に全てを賭けなくても、リスクを分散しながら生きることができます。そうすれば、一つの肩書だけに依存することがなくなり、囚われを手放すことができます。
(ちなみに、複数を同時にやるにも結局スピードが必要なので、3倍速の必要性は変わりません。笑)

副業は徐々に大企業でも受け入れられてきていて、最近では大手の金融機関でも認める事例も出てきました。

この記事では副業を企業が認めない理由の一つに「情報漏洩リスクがある」と言及されてますが、「本当にそうか?」ということは冷静に考える必要があります。

情報漏洩させる気があれば、副業しなくてもnoteにだって書けますし、情報を売って儲けるような仕事をするなら、それは副業としてそもそも会社に申請せずにやりますよね。

独自の技術やノウハウが盗まれることを懸念されてるのだと思いますが、情報を持って退職されたらもう止められないんです。そもそも、ちょっと副業して伝えたくらいで模倣されて追いつかれ追い越されるような技術・ノウハウなら、情報漏洩しなくたってすぐにキャッチアップされます。

これは副業の問題ではなくて、企業としての情報管理の問題と、競争優位性の構築の仕方という問題です。問題をこうやってすり替えてはいけません。

模倣できない本当の競争優位とは、脈々と受け継がれる組織文化や企業風土といったカルチャーにあったりします。こういうものは真似できない。そうした人・組織にしっかり投資している組織であれば、ノウハウの漏洩なんて気にする必要はないはずです。

現にメルカリでは、副業は「許可」どころか「推奨」していて、むしろどんどんやれと言ってました。登壇などでもどんどんメルカリの内部のノウハウをオープンに話していたのです。

メルカリの競争優位の源泉は人・組織とそのカルチャーにあると僕は考えていて、これはコピーできないんです。部分的に真似する会社はあるかもしれないけど、それで競争優位が揺らぐようなことはない。
むしろ、IT業界がそれで成長していくなら歓迎だし、他社から学んで帰ってきてくれたらメルカリにとってもプラスだ、そう考えてのことです。

僕が副業をスタートしたのは、マクドナルド在籍時代の2016年です。

「グロービス経営大学院で教員として教えないか」と声をかけていただいて。「これって副業になっちゃうかも」と思い人事に相談したんです。

人事の回答としては、「副業にあたるけども、うちは今副業を認める制度はまだ導入していないから難しい」という趣旨のものでした。

それもそのはず、2016年といえば、ロート製薬が副業解禁を発表して大きな話題になった年です。

まだそれくらいの時期だったので、副業に対して人事が慎重になるのは至極当然のことです。僕はその時、人事にいくつかの点でやるべきではということを伝えてみました。

・社員が経営大学院で教壇に立つことは、会社のブランディングにプラス
・平日の夜もしくは土日に働く形になるので、本業に悪影響はない

会社にとってプラスだということは、人事も理解してくださいました。
そして、「この機会は逃したくないので、マクドナルドを離れることも選択肢に入れて考えざるを得ないが、それは自分としても辛い判断で避けたい」ということも、生意気ですが率直に相談しました。

そして、翌日には「副業許可申請書」なるものができていました。(!!)

「上長が、本業のパフォーマンスが落ちていると判断したら、やめさせることができる」など、いくつか条件はありましたが、それを記入して申請して、上長が承認すればOKというものです。(当時の制度なので現在は分かりませんが)

マクドナルドの仕事の早さ、素晴らしすぎるなと改めて思います。ファストフードなんで仕事はすぐやるカルチャー。当時対応して動いてくださったHRBPの方には、とてもとても感謝しています。

まぁ、マクドナルドの早さはちょっと異常とは思いますが(笑)、副業は論点を冷静にひとつずつ潰していけば、できない理由はありません。むしろ企業にとっても社会にとってもプラスの要素が大きい。

経営者の皆さん、人事の皆さん、ブロッカーになっていませんか?
できない理由ばかり言ってないで、できる方法を考えていきましょう!!

副業したい方々、「どうせうちの会社は・・」と諦めていませんか?
こうやってしっかり伝えれば大きな会社でも動いてもらえるものです。
何かをやりたいときは、諦めずにぜひ言い続けてください!!

まとめ

これまでみてきたように、肩書に囚われた状態では、リスクを取れずに小さくまとまり、パフォーマンスが発揮しきれません。
これは、個人にとっても企業にとっても、避けるべきことです。

であれば、複数の肩書をもつことで、一つの肩書だけに依存しない健全な状態を個人は作るべきですし、企業としてもそれを推奨するべきです。

そして、コロナ禍が加速させた、デジタル化やリモートといった働き方の変化により、こうしたキャリアがこれからの普通になってゆきます。
これからのキャリアは、一つの肩書に依存せず、複数を並行させることでリスクを取れる環境を自らつくることが欠かせません。

そのためにも、一つ一つの行動と判断のスピードを上げ、生きるスピードを加速させていきましょう!!!

#日経COMEMO #肩書を複数持つ必要ありますか #キャリア #副業 #複業

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