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演劇とPRとエンパシー

鴻上尚史が高校生に演劇を教えてた

テレビのスイッチを入れたらNHKの番組で劇作家で演出家の鴻上尚史さんが高校生に演劇を教えているシーンが流れてきました。自分が高校生だった1980年代、鴻上さんはニッポン放送の「オールナイトニッポン」木曜2部のパーソナリティをやっていました。午前3時にロキシー・ミュージックの「MORE THAN THIS」というテーマ曲で始まる番組は、ラジオ好きだった僕のお気に入りの一つで、この番組をきっかけに演劇に興味を持ち鴻上さんが主宰する第三舞台の芝居を観に行ったりしたものでした。話がそれました。その番組で鴻上さんはなぜ高校生に演劇を教えるのか語っていました。
かつて、こどもはごっこ遊びをして他人になりすますことを覚えていたと鴻上さんは話していました。すみません。テレビで見ていたことなので、言葉がそのまま正確ではないかもしれません。ある時は、ヒーローになったり、ある時は悪者になったり。自分とまったく違う世界の人になりきる。そういう体験をごっこ遊びで体験するんだと説明していました。演劇のワークショップをやることも、高校生が自分と違う価値観を持った人の役になりきることに意味があって、それは他人の価値観に寄り添うエンパシー力を鍛える訓練になるというのです。

シンパシーは感情、エンパシーは技術

シンパシーとエンパシーはともに「共感」というふうに訳されますが、それぞれ違うものなんです。
シンパシーは「この人、いい人ね」みたいに思う感覚的な共感のことをいいます。
エンパシーは異なる価値観を持った人たちが、その違いを乗り越える何らかの合意をし、歩調をそろえて何か行動を始めることです。
シンパシーは感情、エモーションの話。エンパシーは合意形成、技術の話と理解してもいいかと思います。
エンパシーはある意味ドライなところもあるわけです。客観的にお互いのギャップの違いを認識して、相手の価値観に寄り添う外交官的技術といってもいいと思います。
これは、まさにPRパーソンに求められる力なのではないでしょうか?

自分でやった方が早いけど・・・

去年の11月にnoteに、広告は違いを見つけると褒めらる仕事で、PRは同じを見つけると褒められる仕事だと書きました。これです。

この中でPRの仕事は、新しい価値観を自分で世の中に伝えるのではなく、まずは影響力のある他者に話すことから仕事が始まるという話をしました。そう、第三者を巻き込むのがPRという仕事の最大の特徴なのです。

大体のことは自分でやった方が楽なのに、新しい価値観の普及を目指す時、PRパーソはまずはわざわざ第三者に話にいくんですよ。面倒臭いですよね。
相手によっては、その価値観に合意してくれないケースもありますし、反論されるケースもあります。でもPRパーソンの腕の見せ所はむしろここからです。
PRは価値観が異なる人に対しても働きかけます。時に対話を通じて弁証論的に相手もこちらも納得できるアウフヘーベン的合意ポイントを模索するのです。対立しあうよりは、理想に近づくからです。

こんな面倒臭いプロセスをわざわざ踏むのは、影響力のある第三者がPRパーソンの提案する価値観に、「そうだね、それいいね!」って思ってくれて、何か新しい行動を起こしてくれたり、あたらしいアイデアを世の中に広めてくれたら、ものすごい説得力があるし、新しい価値観が世の中に浸透する速度は一気に増すからです。

これが、PRの最大の強みでもあるわけです。第三者というレバレッジがフルに発揮されるんですね。

相手の価値観に憑依してますか?

例えば「パブリシティ」は影響力のある第三者の代表であるマスメディアに対して情報提供を行い、番組や記事での発信を促す活動です。番組や記事を通じて新しい価値観を世の中に発信するわけですね。

関係人口になること、キャッシュレス決済をすることから、新業態のビジネスや新商品まで、報道番組や情報番組で取り上げられたり、ドラマの中に登場したり、雑誌で特集が組まれたりした時の世の中への影響力は計り知れません。

しかし、メディアは別に企業情報を伝える筋合いがあるわけでははありません。だから、PRパーソンは企業の情報をなぜ、今、メディアが取り上げるべきかという観点を説明します。例えば、会社会計のDXサービスの紹介であれば、このサービスによって世の中的に求められている「働き方改革」が推進されるとか。「夜カフェ」であれば、多様性やソバーキュリアスの時代にお酒を飲まないでもコミュニケーションできる場が求められ増加しているなど、社会が求めるニーズの中で、紹介したい事柄をアピールするのです。

ココが、「PRパーソンがソーシャル視点でものを見ている」と言われるところですね。

メディアのインサイトは世の中の新しい潮流や変化を伝えたいということ。だからメディアは「社会の鏡」と言われます。もちろん、メディアが何を取り上げるかは、それぞれの媒体の世界観や制作者の意思や好みによって決められます。

優れたPRパーソンは、社会的視点をもち、かつ、それぞれの媒体の嗜好にあわせた情報提供をしているのわけです。
 
パブリシティ活動に限らずPR活動の多くは、影響力のある第三者の価値観と、普及させたい新しい価値観のすり合わせをし続ける仕事です。それが新たな合意形成に繋がっていきます。そこに、エンパシーが発揮されるのです。
 
もちろん、メディアもPRパーソンも人間ですから、「この人は一生懸命だから、載せてあげよう」と思う記者・編集者もいるでしょう。PRの仕事の中ではそういう形でパブリシティを獲得することももちろんあるしシンパシーも大事です。
 
でも、影響力のある第三者に本気で動いてもらったらすごいことが起きるというPRのパワーを最大に発揮するためには、相手の価値観をとらえて握れるポイントを探すことが大事です。PRパーソンに求められる本質的なスキルはエンパシーなのです。

良い技術のように、良いPRは埋没する

ユビキタスコンピュータの開発者マーク・ワイザーは「最も優れた技術は見えなくなってしまう」と語っています。つまり、テクノロジーを使う人が、テクノロジーだと意識して使っていないということですね。
多くの人が日常の気軽なコミュニケーションツールとしてLINEを使っているのはまさにこの状況ですよね。

優秀なPRパーソンのエンパシー力によって提供された情報は、滑らかに、自然に、世の中に浸透していくんだと思います。

この日経の記事はドライバーが足りなくなる「2024年問題」について書かれています。「置き配」や「ゆっくり宅配」などの解決策を推進するためには、マンションのルール改正などいろいろな合意形成が必要とされます。

他者の生活を想像し、現実的にできることを模索して着地できる方法をみつける。エンパシーが必要とされるシチュエーションは確実に増えていると感じます。


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