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転職を希望する人が増えている理由と、転職を踏みとどまる人が増えている理由。主体的なキャリア形成を企業がどのようにサポートするか。

皆さん、こんにちは。今回は「転職」について書かせていただきます。

新型コロナウイルスの影響で、一時採用活動を控えていた企業が採用を再開し、2023年に引き続き2024年もあらゆる業界で求人数が増加しています。

転職市場が活況になっている今、転職希望者は5年前に比べて2割も増えているそうです。そんな売り手市場になっている中で、リクルートワークス研究所の調査では、転職希望者の87%は1年以内に転職していないことも明らかになりました。

「今すぐに転職したいわけではない」「転職しないからといって差し迫った問題にぶつかるわけではない」といった、漠然と転職したいと考えている人が多いことが理由の一つではないかと思います。

引用した記事の中には「転職迷子」と呼ばれる、自分に合う仕事が分からないといった人の存在も指摘されています。

転職を考えている人、希望している人が、自分で主体的にキャリアを選択し、スキルアップやキャリアアップを実現していくためには、どのような意識が必要なのでしょうか。

転職希望者が2023年に初めて1000万人を超えた。就業者の6人に1人にあたり、人材不足や就業観の変化が背中を押している。一方、実際に転職した人は350万人にとどまる。個人が転職をキャリアアップにつなげ、雇用が成長産業に移動するような好循環が求められる。

■転職を希望する人も、転職を踏みとどまる人もどちらも増えている理由

こちらの記事によると、

労働力調査によると、23年7〜9月平均の全国の就業者が6768万人。このうち15%にあたる1035万人が転職希望者だ。転職希望者は新型コロナウイルス禍前の19年同時期に比べ23%増えた。終身雇用が徐々に崩れ、転職への抵抗感が小さくなった。構造的な人手不足で経済活動が回復基調に向かい、売り手市場になっていることも希望者増の背景にある。

とあり、転職希望者が増えると同時に企業側の採用意欲も高まっています。一方で、転職したいにも関わらず実際に転職している人数は、ここ数年で増えていません。転職を考える人が増えている理由と、希望しているのに転職を踏みとどまる人が増えている理由は、それぞれ以下のようなものではないかと思います。

【転職を考える人が増えている理由】

1、転職が一般化してきた
→転職への心理的なハードルが低くなり、漠然と「いつか転職する」ことが自然とキャリアプランに入っていることがあります。

2、自分を見つめ直す機会が増えた
→今は外部環境の変化も多い時代です。大きな環境の変化に直面する度に、本当に自分に合う仕事とは何か、今の仕事は自分がやりたい仕事なのかを立ち止まって考える機会が増えるという点も転職希望者が増える要因の一つです。

3、今の会社に対する不満が大きくなった
→人や組織、労働環境、人事制度、給与や待遇に不満が出てくるタイミングが一番転職を考えやすい時です。不満が大きくなればなるほど、今の環境から離れることが問題解決へとつながると考える人が多いです。(不満の根本要因が全て会社や周囲の人のせいであると捉える人は、新しい環境でも不満を持ちやすい傾向にあります。)

4、会社からの高い要求や期待値に対して疲弊してしまった
→「会社からの要求が高い」「ワークライフバランスに配慮してくれない」「常に自分が働き過ぎであると感じている」など、現在の仕事に対する不満やストレスが蓄積され、極度のプレッシャーや疲れを感じている人は少なくありません。このような状態では転職という選択肢が頭をよぎることは避けられません。

5、市場の変化に伴い、求められる専門性やスキルが変化した
→市場の変化によって、個人に求められるスキルや能力、経験は変化していきます。その変化に対応するために環境を変えることを検討し始めるのです。

6、これ以上、今の環境では成長しないと思った
→現在の職場ではスキルや経験をこれ以上伸ばすのが難しいと感じた場合に、全く違う別の業界や同じ業界でも伸びている競合他社、または新しい職種に挑戦したいという意欲が沸き、転職への第一歩を踏み出す傾向にあります。

7、大きな成果を残した後、それ以上の目標ややりがいを見失ってしまった
→大きな目標を掲げ、達成に向けて精力的に仕事に取り組んできた結果、達成した後にいわゆる「燃え尽き症候群(バーンアウト)」のような状況になり、力を出し尽くして消耗してしまうこともあります。短期的な目標設定だけで社員をモチベートすると、このような状態に陥りやすくなります。

8、将来への不安が募った
→所属している会社の未来を考えた時に、安定性や将来性があるかどうか不安が募り、より安心できる業界や企業への転職意欲につながることがあります。

【転職を踏みとどまる人が多い理由】

1、転職を急ぐ理由がない
→転職という選択肢が身近になったものの、実際には差し迫った理由がなく、すぐに転職に至らないというケースが多いです。

2、転職迷子になる
→転職活動を始めるうちに、結局自分に合う仕事が分からなくなる“転職迷子”と言われる存在も増えています。自分のやりたい仕事が見つからない状態が、転職を躊躇させるのです。

3、想像以上に転職活動の手間がかかる
→転職活動に本腰を入れると、大量にある情報の中から自分にとって必要な情報を取捨選択し、本当に自分が求めているものは何かを定めていかなければなりませんが、その作業は時間も手間もかかる分、つい億劫になりがちです。緊急性が高くない限り、後回しにしてしまう人も少なくありません。

4、転職への不安感とリスクを避けたがる
→現在の仕事が安定していると特に、環境を変えることへの不安感は増していきます。さらに、転職によって得られるメリットがデメリット(転職することによるリスク)を上回らない限り、転職を見送りがちになります。

5、給与や福利厚生の変動リスクを避けたがる
→給与や福利厚生など、経済的な側面での安定が担保されない(変動する可能性がある)場合、転職を踏みとどまることがあります。転職しても自分の希望条件が満たされないこともあるからです。

6、現在の職場で目標やキャリアプランを達成できることになった
→異動やミッション変更などによって、転職しなくとも自分自身がやりたいことや目標達成が実現できる場合、転職の必要性が薄れていきます。

7、新しい環境への適応不安がある
→数年かけて慣れてきた仕事内容や人間関係から一転、新しい環境への適応に少しでも不安がある場合、転職をためらう人は多いです。

8、現在の仕事に対する責任感や忠誠心が強い
→仕事に対する責任感や、職場に対する忠誠心から、転職をためらうこともあります。また、職場の上司や同僚から退職を引き留められ、最終的には転職しないことを決める人も一定数いるはずです。


実際に転職で年収が上がったり、上の役職に就ける人もいますが、多くの場合、転職によって「また新しい経験や信頼をゼロから積み上げなければならない」といった、もしかしたら転職することで“損する”かもしれないという気持ちが芽生え、転職を踏みとどまらせてしまうのです。
だからこそ、「転職を希望している中で実際には転職しない」という、モヤモヤした気持ちを抱え続けたまま現在の仕事に向き合うこととなり、迷いなく覚悟を決めた状態ではない分、中途半端なパフォーマンスしか発揮できないことも残念ながらよく起こってしまいがちです。

■若手社員の転職意向にどのように向き合うべきか

若手社員の早期離職に歯止めがかからないと嘆く各企業の人事担当者の声をよく聞きますが、優秀でやる気もあり、社内で活躍している若手社員が、ある日突然退職するということも増えているようです。20代から30代にかけてのキーマンの引き留めを強化すべく、様々なリテンション施策を検討している企業もあります。

今の若手社員の多くは、自分のキャリアプランを実現するための“サポート”を企業に求めている傾向が強いと言えます。上司が会社の都合で細かい業務の指示を出し、言われた通りに仕事をこなすことで評価され、昇進・昇給していくという仕組みや風土が、あまり受け入れられなくなってきているようにも思います。自分の個性や強みを見てくれていないと感じてしまうと、組織に対しての忠誠心や愛着が薄れ、気持ちがどんどん離れていってしまうのです。

こちらの記事には、

20代後半から30代前半は結婚や出産、転職など人生の決断を迫られるケースが多い。この時期陥りやすい悩みや不安は「クオーターライフ・クライシス」と呼ばれる。私も経験したという先輩世代は多いだろう。近年はデジタル技術の発達などを背景に質的変化もあるようだ。

とあり、20代後半から30代前半に、幸福度が著しく下がる状態のことを「クオータータイフ・クライシス」と呼んでいるそうです。自分の人生のライフプランにおける重大な決断がだいたい同じ時期に重なって悩むというのは、よく聞く話です。さらに「これからのDX時代は全社員のリスキリングが必要不可欠」「AIの発達によって、人の仕事がどんどん奪われていく」といった類の情報が溢れ、長期視点で自分の仕事を考えなければならない焦りや不安、閉塞感が増していることが背景にあります。

転職が当たり前のようにキャリアの選択肢の一つになっている今、企業はより“選ばれる企業”になっていくための努力をし続けていく必要があります。

  • 自分自身のキャリアについて主体的に向き合う機会を提供する

  • 社員が望むキャリアを一緒に描き、最大限サポートする

  • 会社の都合を押し付けずに、個人の意思を尊重した異動や配置転換を行う

  • 様々な価値観を持つ社員のそれぞれの個性を尊重し、一律のルールや規律で縛り過ぎない

  • 今の若手社員の価値観を捉えた上で適切な育成を行う管理職を増やす

  • 目標に対する結果を見ながら、的確なフィードバックを行い、成長実感を得やすくする

  • 会社の目指すビジョンや方向性をしっかり伝え、共感できる部分をすり合わせる

  • 各々の仕事がどのように会社や顧客、チームや組織に貢献しているかの共通認識を持つ

というような工夫を施しながら、予期せぬ退職(サプライズ退職やがっかり退職)を極力減らす努力をしなければなりません。「まだまだ社内で活躍してほしかった人」や「今辞められたら困る人」、「将来長期にわたってパフォーマンスを発揮してくれると信じていた人」などに次々と辞められてしまうのは企業にとって大きな打撃です。

ですが、あらゆる手を尽くしても退職が防げないことも当然あります。最終出社日に向けて気まずい雰囲気になったり、わだかまりを残したまま退職者を見送るようなことはせず、退職者の意思を尊重して潔く見送ることも大事です。(一昔前は「退職者=裏切者」として扱う会社もあると聞きますが、そのような対応は退職する本人にとっても会社にとってもマイナスになります。)

■後悔しない転職を実現するには

いざ勇気を振り絞って転職をしてみても、転職が失敗だったと感じてしまうケースも当然存在します。失敗しやすいケースとは、以下のようなものだと思います。

●目先の年収アップに囚われて、安易に転職してしまうケース
→一般的に年収がアップするのは、転職先で発揮できる明確なスキルや経験があるケースです。「短期的な年収アップ」が「転職の成功」というわけでは決してなく、仕事内容や入社後のキャリアプランが描けるかなど、自分が重視する項目が満たされるかどうかを無視して「目先の年収アップ」だけで転職を決めてしまうと転職後に後悔することがあります。また、年収を重視する場合は、転職によって生涯年収がどの程度引き上げられるかまで視野に入れた方が良いと思います。

●自分にはどこでも通じるスキルがあると過信し過ぎてしまうケース
→市場で必要とされているスキル、希少性の高いスキル、グローバルで通じるスキル、転職後すぐにでも発揮できるスキルなど、どのような企業からも引っ張りだことなるスキルを保有した人材もいますが、現在の企業の看板があったからこそ、または企業が保有しているアセットが魅力的であったからこそ実績を上げられていたということも多分にあります。それを見誤ってしまうと、転職後に苦労することもあるかもしれません。

●就職活動と同じようなやり方で企業選定を行ってしまうケース
→特に第二新卒など社歴が浅い求職者に多いですが、就職活動と同じような手法で転職先を選ぶことがあります。本来ならば、就職活動の段階では見えにくかった企業選びの軸や選定基準も、転職活動時には、より解像度高く見えるようになり、「仕事内容が自分に合っているか」「自分が望むキャリアプランを実現できるか」「自分が望む働き方ができるか(労働時間や休暇の取りやすさなど)」「報酬が自分の能力に見合っているか(十分か)」といった具体的な条件を挙げることが可能なはずですが、転職することがゴールになってしまうと早く内定がほしいと焦り、準備が不十分なまま選考に臨んでしまうこともあります。

●働き方、仕事内容、得られるスキルなどにミスマッチが生じてしまうケース
→たとえば「リモートワークがいつでもできると聞いていたのに出社を強要された」「残業がほとんどないと聞いていたのに同僚は毎日残業している」「最初に配属された部署からすぐに違う部署に異動になり、全くやりたい仕事ではなくなった」など、入社前に聞いていた話とは違い、転職したことを後悔したという話はよく聞きます。働き方や仕事内容だけでなく、転職先の企業風土や評価制度、実際に働く人の声など総合的に判断した上で転職を決めることは大前提必要なことです。転職前のリサーチが不十分だと、希望する条件との乖離が必ず発生し、身につけたいスキルが得られなかったり、想像したキャリアプランを歩めないはずです。
 

上記のような状態に陥らないためにも、
★転職する理由を明確にする(なんとなく転職活動を開始しない)
★転職先に求める条件を明確にする(求める条件に優先順位をつけ、外せないポイントを抑える)
★自分の現時点のスキルと経験を的確に把握する(自分の能力を過信したり低く見積もることなく、市場の相場を理解する)
★市場動向を踏まえ、転職先の将来性を予測する(会社の方向性や戦略、資源、競争優位性を見極める)
★今ぶつかっている課題が「転職」でしか解決できないかどうかを改めて考える(必ずしも転職することだけに執着し過ぎない)

という点に留意しながら、自分で主体的にキャリアプランを描き、理想を叶えるために前向きに新しいチャレンジに飛び込むことができるような思考の整理が必要ではないかと思います。

最後に、働き方の多様化や、雇用慣行の変化に伴い、働き手のキャリア形成はより主体的、かつ多様化してきています。個人の“キャリア自律”の意識の高まりを受け、スキル習得への意欲や会社や組織への貢献意欲が以前と比べて増している人も増えています。
また、就職活動を経てファーストキャリアとして選択した企業は数年程度在籍し、その後はさらにステップアップできる企業へ転職するというような具体的なキャリアプランを就職活動時から明確に描いている人も増えている印象です。

企業側の視点に立っても、個人単位の視点に立っても、社員が「転職」という選択肢を持つこと自体は、今や当たり前であると捉えた方がよく、何もキャリアについて考えない(迷わない)方がむしろ不自然なくらいです。

就職活動を始める時点から、「定年まで勤め上げる会社」という観点で企業選びをしている人の方が稀であり、早い段階から自分の市場価値を測るためにも転職サービスに登録し、タイミングを伺っている人はこれからも確実に増え続けていくでしょう。

「転職」を通して、それまで在籍した会社での経験や価値観にとらわれずに、外の世界を見ながら視野を広げたり、仕事の幅を広げて未経験領域への挑戦をすることで新しいスキルを習得するなど、これからの時代に必要な能力やスキルを見極め、強みを磨き続けることの重要性は増していくばかりです。
 
自社で人材を育てるには、コストも労力も手間も時間もかかります。従来のように「終身雇用」で社員を長期にわたって囲い込み、「転職をさせない」という発想ではなく、社外での成長を積極的に後押ししたり、出戻り制度のような形で過去に退職した人材を受け入れていくなど、様々なバックグラウンドやキャリアを持った人材の良い活用事例を作ることができれば、会社の成長に繋げることができるのではないでしょうか。


#日経COMEMO #NIKKEI


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