見出し画像

認知の前に共感があった 我々の未来の希望はどこにあるのか

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

ビジネス書は日々新著が出てきており、「おっ!」と思って購入しても積読になってしまっている方も多いのではないでしょうか。わたしもご多分にもれずそうなのですが、なるべく時間を見つけて消化しようとしています。

最近はビジネス書よりも文化・教養的なものや、自身のコア分野とは離れた領域のものを意識的に読むようにしています。また、面白い人は面白い本を知っているという持論がありますので、おすすめの本を聞いて回ったりもしています。

先日、経営学者の入山章栄先生とお話する機会がありまして、さっそくおすすめの本を教えていただきました。日経電子版でも紹介されていましたね。

言わずと知れた霊長類研究第一人者の最新作。快作だ。『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリが述べるように、人類は言葉を生み出したことで共同幻想を持つようになり社会を形成したと、通常は考えられている。他方で本書は、人類はそれよりはるか以前から音楽や踊りなどを通じた「共感」で社会を形成し、結果、協力しあう平等性の高い社会が維持されたと主張する。しかし言葉の獲得と農耕牧畜による定住を始めたことで、社会の「内側」のみで共感性が高まり、他の社会への攻撃性が強まった。言葉の出現により共感が歪(ゆが)んで使われたが故に、近代で戦争や格差が生じているというのだ。

日経電子版

『サピエンス全史』によると、人類の繁栄は約7万年前の言葉に獲得が大きな転機だったと指摘されています。これにより「認知革命」が起き、現在に至るまでの発展につながったと。

著者の山極壽一先生(ゴリラ研究で有名ですね)は、認知革命よりも前にもっと大きな革命があったのではないかと考察しています。つまり、仲間とつながり集団を形成して「社交」することができるようになったきっかけ。それが「共感」であり、この「共感革命」こそが人類最大の革命だったのではないかと論じています。

二足歩行がなぜはじまったのか。著者によれば、仲間のために離れた場所から食物を運ぶために進化したものであり、弱みを強みに変える人類特有の生存戦略の出発点であったとのことです。自分で見てもない食物を口にするというのは、非常に勇気のいることです(毒が入っているかもしれない等々)。そのためには、仲間を信頼する必要がありますし、きっとお腹が空いているだろうという仲間を思う気持ち=共感力が必要です。

この共感を醸成するのに言葉の前に存在したのが、音楽(リズム)です。現在でも我々は対面コミュニケーションにおいて頷いたりして相手に同調しています。これも音楽的なリズムのひとつであり、言葉を獲得していてもなお重要なコミュニケーション手段を形成しています。

また、このような仲間が共有しているリズムは150人以下の小規模な集団で通用するものです。ゴリラ社会も小規模な集団ですが、リズムを共有することであたかもひとつの生物のように団体行動することができます。この数は「ダンバー数」と呼ばれ、FacebookなどのSNSにおける友達の数も概ね150人以内に収まることで知られています。狩猟社会では30〜50人程度の集団で、部族として大規模になると500〜2500人程度の規模になることもあります。しかし、その場合は中間に氏族という集団が形成され、この規模は150くらいになるそうです。

では、未来はどうなっていくのか。著者は「第二の遊動」時代、つまり複数拠点での生活により複数のコミュニティに属する多極社会。それを実現する地方分散型社会に希望を見出しています。また、昨今の生成AIやメタバースについて強い懸念を表明しています。人間だけがもっていた物語をつくる能力。またそれは生身の体と密着して外に出すことはできなかった。だからこそ、外から操作されない一個人としての思想信条の自由が担保されていたと指摘します。この能力をAIの使用によって手放してしまうと、人間はもはや機械化していくのみで、想像力が消滅してしまう危険性もあるでしょう。

世界情勢も経済の見通しも不透明な中、大きな視野で物事を考え直すきっかけとなる一冊でした。


みなさまからいただく「スキ」がものすごく嬉しいので、記事を読んで「へー」と思ったらぜひポチっとしていただけると飛び上がって喜びます!

※ タイトル画像は筆者撮影

#日経COMEMO #NIKKEI

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?