見出し画像

ショート動画によるインフルエサーの収益転換トレンド

個人がチャレンジしやすい副業として、動画投稿を続けるYouTuber(ユーチューバー)は年収数億円を稼ぐ成功者も多数出て、夢が抱ける仕事になったが、ここ1年で、その収益構造にも大きな転換期が訪れている。直接的な要因となっているのは、ショート動画の台頭により、従来の長編動画の再生数が落ち込んで、広告収入が下落していることである。

ユーチューバー事務所のUUUM(3990)の決算発表によると、同社が管理しているチャンネルの総再生数に対して、ショート動画の割合は2年前には10%に過ぎなかったが、2023年5月の時点では50%超を占めるようになっている。ショート動画の収益性は低いため、人気ユーチューバーの収入も半減するような状況に陥っている。

UUUM 2023年5月期通期決算説明

10~20代の視聴者は、数十秒から1分程度で楽しめるショート動画を好む傾向が顕著になっており、お気に入りの動画サイトも、YouTubeからTikTokへへと流れている。こうした動画視聴スタイルの変化は、若い世代を中心とした「集中力の低下」が関係していると、海外では分析されている。

2015年にマイクロソフトが行った研究によると、携帯電話によるモバイル革命が起きた2000年頃から、人間は長時間の集中をすることが苦手になっており、平均的な注意持続時間は、わずか8秒間しかないことが発見されている。そのため、8秒間の集中で1つの知識を習得させるような動画コンテンツが求められるようになっている。

そこで、新たなトレンドとして浮上してきたのが「マイクロラーニング」と呼ばれるカテゴリーの教材コンテンツで、1分以内の動画で有意義な知識を提供しようとするものだ。

TikTokのショート動画でも様々な学習コンテンツが投稿されるようになっており、「#LearnOnTikTok」のハッシュタグが付けられた関連動画の再生回数は5400億回にもなる。子どもの学習に TikTokを利用することには、否定的な意見があるものの、教師の中でも、学校の授業で教えた内容を1分以内のショート動画に編集して、復習用として投稿することも増えてきている。

【マイクロラーニングの収益化モデル】

SNSのインフルエンサーは、広告料や企業案件によって収入を稼いでいる。しかし、景気や人気による収入の変動は大きく、長期的に継続することが難しい。それに対して、マイクロラーニングで知識を教えるクリエイターは、ユーザーへの課金がしやすいため、毎月安定した収入を得やすいのが特徴である。

英国のコンサルティング会社に勤めていたキャット ノートンという20代の女性は、コロナ禍で出張が減り時間に余裕ができたことから、大学で MBAを取得するための学習(データ分析など)で活用していた Excelの知識を使い、「miss.excel」というアカウント名で、2020年6月からTikTokで実用的なExcelの使い方を解説した数十秒の動画を投稿することを開始した。

単純な娯楽ではなく、楽しみながら有意義な知識が身に付く動画としてバズり、4日間で10万回再生された。その後も、解説動画をシリーズ化したことにより約1ヶ月で10人万のフォロアーを獲得することができた。

2020年10月からは有料コースを開設したことで安定収益を確保できるようになり、2021年1月には勤めていた会社を辞めて、教育クリエイターとしての活動に専念している。現在のフォロアー数は90万人を超して、年間収入は200万ドル以上と公開されている。

@miss.excel(TikTok)

https://www.tiktok.com/@miss.excel/video/7239028499850300715?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7175951878893733377

miss.excelのコンテンツは、Excelのタブやショートカットの使い方を解説した映像と、ノートンのコミカルな表情やダンスをする映像とを組み合わせて、軽快なBGMを乗せて1本の動画にしている。教材としての堅苦しさは、敢えて取り除いているのが特徴で、動画を楽しみながらExcelの知識が身に付く内容にしている。

動画は数十秒の短いものだが、わざとテンポを速めにすることで、繰り返し再生しないと理解しにくいようにしている。これは、TikTokのアルゴリズムでは反復再生される動画ほど上位にランキングされる効果を狙ったものだ。

さらに Excelを詳しく学びたいフォロアーに対しては、TikTokの動画から miss.excelの公式サイトに誘導して、有料コースに入会できるようにしている。こちらは、Excelの初心者、中級者、上級者向けに複数のコースが用意されて、1コースあたり30~100本のトレーニング動画を見ながら、用意された練習ファイルを実際に操作するカリキュラムとなっている。こちらも、動画1本あたりのレッスンは10分以内に終わるようにして、集中力が途切れない工夫がされている。

有料コースの料金体系は、月額単位の課金ではなく、購入したコースを永続的に視聴できる権利を与えることで、1コースあたり99~500ドルと高めの料金設定にしている。miss.excelのTikTokフォロアーは大半が10代~20代だが、有料コースの購入者は、就職対策としてExcelのスキル習得を目指しているケースが多い。 また、従業員にExcel研修をしたい企業からの法人購入も多く、複数のコースをセットにしたバンドル商品が売上の大きな割合を占めている。

■JNEWS関連情報
流行トレンドを生み出すTikTokの没頭型アルゴリズム
Netflix暴落で見直される定額動画サービスの解約特性
広告収入から月額会費に移行するYouTubeの収益構造

JNEWSはネット草創期の1996年から、海外・国内のビジネス事例を専門に取材、会員向けレポート(JNEWS LETTER)として配信しています。JNEWS会員読者には、新規事業立ち上げなどの相談サポートも行い、起業者の支援を行っています。詳細は公式サイトをご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?