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スタートアップが拓く「アジアの未来」

第26回「国際交流会議アジアの未来」二日目。終わりに近い2セッションを続けて視聴し、悲観的なマクロ経済見通しと、予想以上にうまく危機を乗り切るスタートアップの胆力が、対照的に感じられた。

例えばブータンや台湾といった小国がパンデミック優等生と称されるのとどこか似て、スタートアップには意外な粘り強さと弾力がある。コロナ危機後の復興には、意識的にスタートアップの活力を生かすことが鍵となるのではないか。

例えば、インド。コロナ禍により、インド経済は中国以上の打撃を受けた。コロナ以前の経済成長路線に戻るのには、何年もかかりそうだ―こんな説明をアジア開発銀行チーフエコノミスト澤田康幸氏が述べた直後のセッションでは、OYOという、オンラインを武器とする格安ホテルチェーンの創業者CEOリテシュ・アガルワル氏(若干27歳!)が登場。この1年は人生最大の試練だったものの、「ありもので何かつくる」精神で、難局をいかに乗り切ってきたかを語った。

まず、コロナ第二波で日本と比べられないほど死者が出ているインドで、OYOは従業員のメンタル面のサポートを大切にしながら、ホテルチェーンという資産を活かして、ワクチンの認知を高め、また、自宅に帰れない医療関係者に住居を提供してきた。もちろん観光や旅行のホテル需要は激減している。しかし、コロナ後のニューノーマルに対応して、自宅付近のステイケーション用にホテルを提供する方向に舵を切っているそうだ。

マクロ経済が描く悲観にとらわれすぎて、果敢に生き延びるスタートアップの底力を過小評価してはならない。実際、2021年インドIPO市場は4社のユニコーンを含め、テク新興企業により活況だという。

ひと昔前までは、新興国の経済が成熟する過程で、大切なのは工場や設備といった有形資産だった。そのためには大組織が必要で、ひとも資産も多い大企業ほど価値があるという暗黙の了解が成り立つ。戦後日本の勃興も、このパターンに沿い、優秀な人材ほど大企業に集まる好循環が生まれた。

しかし、いまは、全体の効率化追求の結果、産業が垂直統合から水平分業に向かい、デジタル化により、小さなプレイヤーや個人でも、組織外の大きな資産にアクセスすることが可能になった。製造業において「アセットライト」が肯定される時代だ。大組織の規律よりもアイディアが、多くの兵隊ワーカーよりも少数のノレッジワーカーが重宝される。

さらに、コロナのような突然の危機に瀕したとき、大企業の弊害は大きい。対策を打とうにも関係者が多く、調整するだけで時間を費やしてしまう。対照的に、スタートアップは、動きが敏捷だ。失敗することもあるだろうが、方向転換も早い。「ありもので何かつくる」精神は、スタートアップならではだ。

したがい、危機に効くメンタリティは、もはや「寄らば、大樹の陰」ではない。「アジアの未来」を視聴し、逆にスタートアップのレジリエンスにこそ、解があると感じる。このパンデミックにより、多くのスタートアップの力は試され、証明されたのではないか。

であれば、これからコロナ後の復興に向けて、スタートアップの活力を最大限生かすことは理に適う。政府が成功するスタートアップを直接選ぶことは、難しい。だが、起業家が活動しやすい環境を作り、応援することはできる。起業家教育、規制緩和、セイフティネットの整備など、官ができることは多い。

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