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EV時代に求められる出張整備サービスの仕組みと顧客層

 米国では10年以上前から、自動車整備の出張サービスが登場して、整備工場の市場に食い込むようになっている。特筆すべきは、自動車メーカーも出張型の整備を重視しはじめていることである。この背景には、自動車のeコマース販売が進むことにより、ディーラー店舗の商圏から外れた地域の顧客にも対応できる整備ネットワークが必要になっていることがある。また、車両の診断システムがクラウド化されて、モバイルアプリとして利用できるようになったことも関係している。

ロサンゼルスを拠点として2019年に創業した「RepairSmith」は、メルセデス・ベンツのインキュベートプログラムによって生まれたオンデマンド整備サービスの会社で、現在では全米500以上の都市で、出張型の自動車整備と修理サービスを展開している。

出張整備のために専用開発されたミニバンには、故障の診断ツールと各種の交換部品が収納されており、必要な修理の90%は現地で対応することができる。対応できない修理については、提携している整備工場まで牽引して行う。

交換部品の価格は、車種と年式別にサイト上ですべて公開されており、顧客は、部品代と作業工賃(人件費)が記載された見積書を承認、代金決済がされた後に、交換作業が行われるため、作業終了後に追加料金が請求されることがない。たとえば、オイル交換(フィルター交換を含む)の作業は75ドルの見積金額で、激安というわけではないが、顧客が工場まで車両を持ち込む手間を考えると、妥当な金額と捉えられている。

RepairSmithの整備士は、請負業者ではなく正社員として雇用されているが、これは優秀な整備士を安定的に確保することが目的である。同社の料金設定では、整備士の作業工賃を1時間あたり約100ドルとして、整備士の時給単価は平均25ドルに設定しているが、マネージャー職に昇格すると45ドル/時にまで上昇する。

自動車販売会社にとっても、新たなメンテナンスサービスの形として出張整備のネットワークには価値を見出しており、2023年1月には新車と中古車で累計1200万台以上を販売する AutoNation社が RepairSmithを1億9000万ドルで買収した。

また、EVメーカーのTesla(テスラ)では、独自の出張整備ネットワークとして「Tesla mobile service」を米国で展開している。これは、ネット直販によるテスラ車の販売台数に対して、サービス拠点の増設が追いついていない状況に対応するもので、テスラの技術認定を受けた整備士が、テスラ車オーナーの自宅や職場に出張して整備を行う体制を拡大している。

EV時代の自動車整備士は、電装部品の交換を中心とした軽作業が増えるため、各EVメーカーが行う技術講習の合格認定を受けた後、出張型で整備を行う方式が増えていくことが予測されている。

出張整備のビジネスモデルは、自前の工場を持たないため固定費を50%近く削減することができ、作業料金に対する利益率を高められることだが、出張1件あたりの採算性を高めるためには、法人顧客の開拓が重要であることがわかってきている。

RepairSmithでも顧客の25%は、業務としてトラックやミニバンを使用している運送会社やサービス業者であり、整備や故障のために車両が非稼働となる時間のロスを抑えるために、出張サービスが利用されている。

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