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安易に「メンバーシップ型とジョブ型の間をとってハイブリッド型で」と選択するのはリスクがはらむ


こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

少しバタバタとしており、年始の投稿から間が空いてしまいました。

さて、以下の記事にあるように、日立製作所では、全社員をジョブ型にするようです(“ジョブ型雇用”をどう定義しているのかは定かではないですが)。

他方で、多くの企業はジョブ型に急展開することは難しいということで、ジョブ型でもメンバーシップ型でもない「ハイブリッド型」という方向性を志向するのではないかと言われています。

そこで、今回は「ハイブリッド型」について考えてみたいと思います。

「ハイブリッド型」にも複数軸のハイブリッドがあり得る

一言で「ハイブリッド型」といったところで、少し広い視野でみるといくつかの軸があり得ます。

①労働市場の全体でのハイブリッド
まず、企業の枠を超えて広い視点で見ると、労働市場全体でのハイブリッドがあり得るでしょう。
すなわち、最初に雇用される時には「メンバーシップ型」で雇用され様々な職務経験を積み、一定の段階で、専門性を活かすために別の企業で「ジョブ型」で雇用されるという形のハイブリッドが考えられます。
これは、「大企業は新卒一括、中小企業は中途採用」という労働市場からすると、ある程度こういう形はあったとみることもできるかもしれません(中途採用が全て「職務が限定された雇用契約」ではないでしょうが)。
少し前に話題になった「40歳定年制」という考え方もこれに通ずるところがあると思われます。

②企業内でのハイブリッド
次に考えられるのは、一社の中でのハイブリッドです。これには2パターンがあり得ます。
まずは、時間軸の中で、入社当初からしばらくはメンバーシップ型で雇用され様々な職務経験を積み、一定の段階で、当該企業内で専門性を活かすためにジョブ型に切り替わるという形のハイブリッドが考えられます。
もう一つのパターンとして、メンバーシップ型で採用するコースと、ジョブ型雇用で採用するコースとに分ける形でのハイブリッドがあり得ます。

これらのパターンは以前からもみられる例がと思います。
ただし、契約のレベルで「職務を限定する契約」にしているわけではないと思われますので、厳密な意味では「ジョブ型」ではないでしょう。

③制度上のハイブリッド
さて、最後に考えられるのは、職務無限定契約は維持しつつ、報酬は年功的でなく仕事に応じた報酬とするという形のハイブリッドです。

つまり、メンバーシップ型の最大の利点である広い人事権を維持しつつ、年功的賃金を打破するために賃金制度だけをジョブ型にするという形です(実質的には「ジョブ型」の名を借りた成果主義のことが多いですが)。

ただ、このような形でのハイブリッド型にはかなりのリスクがあると思われます。

「広い人事権を持ちつつ仕事に応じた賃金」は成立するか

メンバーシップ型雇用は、「①職務無限定の契約(新卒一括採用)⇒②広範な人事権による広いジョブローテーション⇒③仕事によって変わらない賃金(職能給)」という、それ自体上手く考えられた仕組みで成り立っています(②は①の法的な帰結なので、実質的には①と③がポイントです。)。

他方で、ジョブ型雇用の場合、賃金は「仕事」に付くことになります(成果主義とは違います。)。

では、仮に「広い人事権は手放せないけど、年功賃金を解消したい」という思惑だけで、③の要素を「仕事に応じた賃金(職務給)」に変えてみましょう。
そうすると、①と②は変わらないので企業は広い人事権を持っています。ただ、賃金は仕事に応じて付いているので、従業員はジョブローテーションの度に賃金が変動することとなり生活が安定しません。
結果、広く法的にはジョブローテーションを行う権限があっても、ジョブローテーションが権利の濫用であるという紛争を惹起させる可能性がありますし、何よりもそのような仕組みを従業員側が受け入れるとは思われません。

精緻なもののパーツを一つ変えると崩壊する

上記のとおり、メンバーシップ型雇用は、それ自体精緻に作られた合理的な仕組みです。そうでなければここまで日本に普遍的な仕組みになるはずがないでしょう。

そうした精緻に作られた仕組みの一部の機能を欲しいがためでパーツを一つ変えると、全体が瓦解する可能性があります。
したがって、「メンバーシップ型の年功賃金は変えたい。だけども広い人事権は手放せないのでジョブ型も難しい。じゃあ職務無限定だけでも賃金は仕事に応じるハイブリッド型で」というように安易にハイブリッド型を選択することは、相当にリスクがあるでしょう。

本当の意味で「ジョブ型」にする場合には、広い人事権を捨てる覚悟があるかどうかが問われるといえるでしょう。

※ジョブ型雇用については、以下のような記事も書いていますので読んでいただければ嬉しいです。



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