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「階段を下りる時代」に、政府と財界は足踏みそろえた先読みを

最近、青果大手の経営者とざっくばらんに話をする機会を得た。食品スーパーなど小売を売り先として日々交渉する立場にある彼に、日本の小売も徐々に再編が進みつつあるトレンドをどう読むか伺うと、「そうはいっても、日本のチェーンストアは、結局“なんちゃって”なんですよ」と意外にも悲観的な答えが返ってきた。

いくら統合で規模が大きくなったチェーンストアといえども、特に青果に関しては、本部が率先して科学的なデータ分析にもとづいて発注をするのではなく、個々の店舗発注の力がいまだに大きいという。これは、分析を容易にするシームレスなシステムと、その分析結果にもとづいて効率良くモノを流す物流センターへの投資を軽視した結果というのが彼の見立てだ。

事の発端は、2000年の大規模小売店舗立地法だという。まだ日本には熱気が残る時代。大型店の出店規制が緩和され、アメリカ型のカテゴリーキラーと呼ばれる特化型大型店舗がこぞって日本へ進出する「黒船到来」が予測された。ひ弱な在来種である国内メーカーや小売にとって、強力な外来種に蹴散らされるのではと脅威論が高まった時代である。

結果、大規模小売店舗立地法は、黒船よりもむしろ国内小売の2000年代開店ラッシュにつながった。「お店を作れ」という掛け声のもと、物流センターやシステムといった下支えよりも商圏開拓が重視された。この流れは今も続くと、経営者は説く。

幸い、チェーンストアとしての足腰が弱い分は、地場の中間流通業者が役割を埋めてくれる。これは、全体的な非効率を温存しながらも、中小中間流通業者の延命とチェーンストアの非近代化という共存関係を生み出した。“なんちゃって”チェーンストアの所以である。当然、小売どうしの合併による効果は、ロジとITというインフラを統合しない限り薄い。

大規模小売店舗立地法は規制緩和による市場活性化を狙ったもので、非近代的かつコスト高な小売という将来を意図したものではない。しかし、産業界がどう反応するかという予測が不十分だったのではないか?この結果を予見すれば、政策的な別の手や合わせ技により、インフラ投資の促進を促せたのではと考えられる。産業界にとっても、インフラ軽視のつけは重い。

鈍化したとはいえ、まだ成長を前提にできた20年前に比べ、今日の日本は人口減少が容赦なく進む。縮む身の丈に合い、環境にも配慮しながら「階段を下りる」ようなかじ取りが、国全体に求められている。下りる足取りを踏み外す危険は、階段を上るときよりもさらに大きい。政策を作る側も産業側も、20年前の誤りを繰り返さないためには、足並みをそろえた先読みが求められている。

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