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ラストマイル配送を支えるオンコールワーカーの働き方

 コロナ禍ではタクシー業界が深刻な影響を受けている。企業のテレワーク導入や飲食店の時短営業により、タクシー利用者は5~7割近く減少した。それに伴い、タクシードライバーの中でも、失業や収入ダウンにより、別の仕事を探す人が増えている。

全国にタクシー車両は23万台、ドライバーは27万人いるが、彼らの平均年収は、コロナ前の時点で343万円、月収およそ27万円となっている。ただし、タクシードライバーの給与は歩合給の割合が高いため、景気の悪化がドライバーの収入にも直結してくる。今後は、日本でもライドシェアサービスが解禁される可能性があることや、自動運転タクシーが実用化されると、プロのタクシードライバーという仕事自体が衰退していくことも考えられる。

その一方で、需要が急速に伸びているのが、軽貨物車、自転車、125cc以下のバイクによる配送サービスの分野だ。オンラインで注文された荷物を即日、翌日までに宅配するサービスへのニーズは全国的に高まっており、そうした地域物流を担う配送サービスは「ラストマイル配送」と呼ばれ、世界では年率10%以上で市場が急成長している。

ラストマイル配送サービスの特徴は、「ギグワーカーまたはオンコールワーカー」と呼ばれるオンデマンドの人材と、スマホアプリを活用しながら近距離(約20km圏内)の効率的な配送ネットワークを構築している点である。ヤマト運輸「宅急便」の取り扱い件数をみても、コロナ禍の2020年度は、過去最高の20億個(前年比16.5%)となっており、従来の宅配便業界だけでは対応できない配送ニーズに対応することが、新たなラストマイル配送業者の役割になっている。

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米国労働局が2017年に調査した雇用統計によると、米国就労人口(約1億5000万人)の中で、会社と雇用契約を結ばずに、個人請負人として働くフリーランスは1060万人いるが、その中でスマホアプリで必要な時に呼び出される「オンコールワーカー」は260万人(全体の1.7%)と算定しており、この大半がライドシェアリングやラストマイル配送で働いている。現在は、その数が更に増えていることから、オンコールワーカーは、従来の派遣社員やパート勤務よりも自由な働き方として定着している。

Contingent and Alternative Employment Arrangements Summary

日本でも、Uber Eatsや軽貨物など、ラストマイル配送のオンコールワーカーとして働く人は増えており、学生や主婦のアルバイト、タクシードライバーからの転身組もいる。自分の都合の良い時間にログインして働けることと、努力次第でアルバイトよりも稼げることが人気の理由である。

Uber Eatsの場合には、基本料金+ブースト+各種インセンティブ+チップによって報酬額が算定されており、繁忙期や配達員が集まりにくい時間帯には単価が上昇していく仕組みだ。そのため、好調な時には1日2万円以上を稼ぐことも可能である反面、最低賃金が保証されていない厳しさもある。

《Uber Eats配達員の報酬算定》

○基本料金
料理の受取料金+受渡料金+配達料金によって算定される。
※配達する地域によって料金単価は異なっている。

○ブースト
注文件数の多い地域や時間帯に加算される報酬倍率(例:基本料金×1.2倍)

○インセンティブ
出勤日数、配達回数などの条件をクリアーすることで支払われる報酬。クリスマスや正月にも各種のインセンティブが設定されて、配達員の就労意欲が駆り立てられている。

○チップ
顧客が任意の気持ちで支払うチップ制度が日本でも導入されている。
※チップの決済もアプリ上で行われる

通常のアルバイトは、東京都の場合で法定最低時給は1,013円に設定されているため、1日8時間の労働で8,104円、月20日間の出勤で16.2万円の収入が保証される。 Uber Eatsの配達員として同じ収入を稼ぐには、相応の努力が必要になるが、就業時間の縛りが無く、上司から管理されないオンコールワーカーとしての就労者はこれから増えていくことが予測され、彼らを上手に活用することがラストマイル配送の急所になっている。

《業務委託方式のフードデリバリー業者例》
出前館の業務委託配達員
Uber Eats配達パートナー
menu(メニュー)デリバリースタッフ
foodpanda(フードパンダ)配達ライダー

現在のフードデリバリー業界は、コロナ禍で増える注文件数に対応できる配達員のネットワークを構築する必要があるため、採算を度外視してライバル業者よりも魅力的な報酬を提示する競争が行われており、配達員にとっては「空前の売り手市場」となっている。出前館では、2020年にサービス対象エリアを39都道府県に広げたことで、配達員の数を前年比で10倍に増員している。

ただし、報酬体系は、地域毎に異なるライバル業者の状況や、配達員の過不足によっても変動するため、同じ働きをしても、先月は30万円だった月収が、今月は15万円に下がることもある。需要と供給のバランスによる収入差が激しいのもオンコールワーカーの特徴ともいえる。それでも、アプリを起動するだけで、好きな時間で働けることの魅力は大きく、オンコールワーカーは新たな労働力として増えていくことになりそうだ。

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