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帳尻は合うが財政課題は解消せず

保守党が7月4日に実施される英国の総選挙を前にマニフェストを発表した。公約の多くは様々なメディアでも確認されていたことに限定されていたため、意外性はなかった。三つの大型減税と1つの支出増がそれだが、下記の通り。

1) 国民保険料の8%から6%への引き下げ、財政コストは103億ポンド
2) 自営業者の国民保険料を廃止、財政コストは26億ポンド
3) 「トリプル・ロック・プラス」制度により、国民年金受給者向けに新たな年齢関連の税控除を導入、財政コストは24億ポンド
4) 防衛支出をGDPの2.5%に引き上げ(NATOの下限は2%)、財政コストは57億ポンド

総コストは2029/30年度までに200億ポンド超(GDPの約0.6%)に上る。こうしたバラマキ政策の財源は福祉改革による120億ポンドのねん出をはじめ、脱税の取り締まりや公務員削減を想定し、財源不足分は5億ポンド程度に過ぎず、表面上は帳尻を合わせる形。これが正しければ、今後5年間で対GDP債務比率を低下させるという保守党の現在の財政目標と平仄の合うマニフェスト、ということになる。

もっとも財政的な余裕は限られる。予算責任局OBRは既存の支出計画を前提とした場合、現行予算法に基づく保守党の財政計画が2028/29年度に持つ余裕は89億ポンド前後となり、マニフェストの公約に関わらず、ほぼ同じ程度である。ここから考えると、GDP成長率への影響は比較的少ないと思われる。

とはいえ、英国の総選挙に関する世論調査や最近の地方選挙や補欠選挙の結果からすると、労働党が最大議席を獲得する見込みであり、おそらく労働党の議席数は過半数を大きく上回ることになるであろう。ただどちらの党が勝利を収めるとしても、財政政策の自由度は限られることに変わりはなく、それが次期政権のマニフェストに課題となる。そもそも税収予想は楽観的に過ぎるし、改革案で増収になるかもはっきりしない。保健省、国防省といった支出増が保証された省庁を除いて実質支出の削減が可能なのかどうかもわからない。財政政策の変更もないため、金融政策見通しにも大きな影響を与えるものではない、とも考えられる。

突然の解散に打って出たスナク首相の政治的な賭けではある。政治的な混乱はそれなりに大きいが、以上より、金融市場に与える影響としては帳尻が合う格好になる、のではないか。

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