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eスポーツで国体選手を目指すという生き甲斐

 世界全体のビデオゲーム人口は33億人を超して、総人口の40%は何らかのゲームを楽しんでいる。ゲーム業界の調査分析を行うNewzooが発表したグローバルマーケットレポート(2023年10月)によると、世界のゲーム市場は年率4.3%で成長しており、2026年末のプレイヤー人口は37億9千万人に達すると予測している。その中で、有料ユーザーは14億人で、1840億ドル(約26兆円)の市場規模がある。 日本と韓国、そして中国やインドなどのアジア圏は、世界で最もゲーム人口が厚い地域である。

Newzoo’s Global Games Market Report 2023

ゲーム事業の収益構造は、ハードウェアとソフトの販売の他にも、アプリ内のアイテム販売など多様化しているが、無料ゲームで大量ユーザーを集めてアプリ内課金をするモバイルゲームは、決済プラットフォームの審査が強化されて、人気は衰退している。一方で、eスポーツの競技としても取り組める良質なゲームが見直されている。

国際オリンピック委員会(IOC)は、リアルスポーツの国際競技連盟とゲーム販売会社との提携により「オリンピックeスポーツシリーズ」を2023年3月~6月にかけての日程で行った。

この大会では、アーチェリー、サイクリング、モータースポーツ、サイクリングなど、10種類の競技でIOC公認の市販ゲームソフトが指定されている。プレイヤーは自宅や地域のゲーム施設から予選大会にオンライン参加してトーナメント戦やタイムトライアルを競い合い、各国の代表に選出された130人のプレイヤーにより、シンガポールの国際会議展示場でファイナル大会が開催された。大会の成果は、予選を含めると、世界で50万人以上のプレイヤーが参加して600万以上のライブ視聴数を記録した。

オリンピックeスポーツシリーズ(IOC)

リアルなスポーツ競技は、年齢や身体能力の違いから、国民すべてがオリンピックを目指せるわけではないが、ゲーム上のeスポーツであれば、練習次第で誰でも世界ランキング上位を狙える可能性を秘めている。試合は、オンライン対戦で行われるため、障害のある子どもや高齢者にとってもハンディは感じにくく、多様性の高いスポーツとしての注目度が急速に高まっている。

オリンピックeスポーツの各種目で使われるゲームソフトは、市販されて人気が高いもの中から採用されているため、ゲームメーカーにとっても新たなプレイヤー層を開拓するチャンスになっている。

《2023年オリンピックeスポーツシリーズの指定ゲーム》

○アーチェリー(Tic Tac Bow)
○サイクリング(Zwift)
○射撃(フォーナイト)
○セーリング(バーチャルレガッタ)
○ダンス(JUST DANCE)
○テコンドー(Virtual Taekwondo)
○テニス(Tennis Clash)
○モータースポーツ(グランツーリスモ7)
○野球(WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球)

【高齢者とグランツーリスモ】

この中でも、「グランツーリスモ」はソニーがプレステ専用に開発したレーシングゲームで、世界での累計販売数は9000万本を超している。実車(480車種以上)のデザインと性能をゲーム上で精密に再現して、実在するサーキットや公道コースを走れるため、レーシングシミュレーターとしても活用されており、ゲーム上のトッププレイヤーが日産自動車のプロドライバーとなった実話も、2023年に映画として公開されている。

グランツーリスモのユーザーには、10代~50代の幅広い車好きが多いが、高齢者の認知機能を改善する効果があることも、日本アクティビティ協会によって報告されている。グランツーリスモを週1回60分間プレイする高齢者(70~80代)の脳血流を8週間にわたり測定したところ、認知機能低下の予防に重要な脳の部位(左右の前頭前野)が活発に刺激されていることが確認された。特に、運転免許を返納した男性の高齢者にとっては効果が高く、車に乗らなくなったことによる、運動量と脳機能の低下を、レーシングゲームは楽しみながら抑えることができる。

こうした研究成果により、障害者や高齢者向けのゲーム施設には、公的な補助金や報酬が支払われるようになっている。日本でビデオゲームが本格的に普及しはじめたのは、タイトーがゲームセンター向けに発売した「スペースインベーダー(インベーダーゲーム)」が大ヒットして社会現象となった頃からだが、当時のゲームセンターに通っていた10~20代は、定年退職をして70代を迎えようとしている。彼らが、自由になった時間を活用してゲームに回帰する行動は不思議ではなく、昔のゲームセンターとは異なる現代版のゲーム施設を開発するビジネスが成長してきている。

【グランツーリスモで国体出場する道筋】

eスポーツを正式なスポーツ種目と認めようとする動きは日本国内でも高まっており、2023年には5つのゲームタイトルを対象にした国体文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」が開催された。その中でも、グランツーリスモは人気の高いゲームとして採用されている。

eスポーツ選手権に参加する方法は、7月に開催される都道府県大会に自宅からエントリーして上位数名の優秀者になると、全国を8地域に分けたアリア大会、そして11月には本大会(2023年の開催会場は鹿児島県)で優勝者が決まるという流れになっている。都道府県予選には、U-18の部(6歳以上18歳未満)、一般の部(18歳以上)に誰でもエントリーすることが可能だ。

誰でも「国体選手になれるかも」という夢を抱けるのが、リアルスポーツとは違ったeスポーツの魅力であり、引きこもりをしている若者や、新た目標見つけられない高齢者にとっての、新たな生き甲斐になるかもしれない。

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