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FOMCを終えて~為替市場が狙う「次の獲物」~

利下げに向けて発進開始
注目されたFOMCは現状維持を決定しました。12月会合でハト派方向へ急ハンドルを切ったものの、過去1か月の経済・金融情勢を踏まえ、ハンドルをややタカ派方向へ戻した格好です。現状への自信は冒頭部分に表れており、経済活動(economic activity)に関し12月の「slowed from its strong pace」が1月は「expanding at a solid pace」へと明確に上方修正されました:

より正確には12月から1月にかけ蛇行運転気味だったものが、今後は直進安定性が増していくと読むべきかもしれません。声明文はFF金利の調整方向に関し、インフレが2%に向けて収束する動きについて「大きな自信が得られるまで(until it has gained greater confidence)」 は利下げしないと明記されました。前回まで「any additional policy firming」とした部分が「any adjustments」に変更され、引き締めバイアスを解消するとともに、利下げ(reduce the target range)が前提となっています。

具体的な時期はさておき、利下げを念頭に置いて発進を始めた点が声明文から汲み取るべきポイントでしょう。
 
利下げは5月を予想
もっとも、その時期に関しては明確な言質が得られてるわけではありません。パウエルFRB議長が「3月会合までに(利下げに対する)確信が一定のレベルに到達する可能性が高いとは思わない」といった趣旨の発言をしていることもあって、ヘッドラインでは「3月利下げなし」の温度感が強くなっており、市場予想もこれに追随しています。しかし一方、「良好なインフレデータが直ぐに入手できる場合、より早期に、かつより迅速に我々は(利下げに)動く」とも述べています。

端的に言えば、「大きな自信が得られる」かどうかはFRBの胸三寸であり、いつでも自信は得られると考えておいた方が良いでしょう。雇用・賃金情勢を見る限り、利下げを急ぐ理由は見当たらないため、筆者は今後3か月分の情勢を踏まえた上で5月FOMCにおいて利下げ着手があると想定します。
 
「FRBがハト、日銀がタカ」という珍しい構図も円安解消せず・・・
いずれにせよ、FRBの利下げは既定路線です。しかし、ドル/円相場はこの期に及んでも148円台で推移している。現状、FRBに関しては年内4~5回の利下げを、日銀に関しては3月ないし4月のマイナス金利解除をほぼ確実に織り込んでいます。為替市場参加者、特に東京外国為替市場の参加者にとって最もポピュラーなテーマである「日米金利差とドル/円相場」に関し、日米両中銀がこれほど分かりやすく円高・ドル安を示唆する方向へ舵を切る構図は歴史的にも稀ですが、円安はさほど収まっていません

2月1日、日銀より公表された「主な意見」(1月22~23日会合)から滲み出る正常化意欲はかなり強いものでしたが、その流れに利下げを確認したFOMCが重なってもようやく146円台後半までの調整でした:

米国の利下げと日本の利上げが確実視される以上、4~6月期から7~9月期にかけて、日米金利差縮小に応じた円高・ドル安相場は相応に期待できるものの、まずは上半期中に140円を割り込めるかどうかが1つの注目点になるでしょう。2022年3月、113円台から始まった円安局面は「かなり遠い所へ連れてこられてしまった」という感想を抱かざるを得ません。筆者はその4~6月期から7~9月期の過程で記録するドル/円相場の安値(円高・ドル安)が年初来安値になると予想しています。

その後は米大統領選挙の通過に合わせて、再浮揚が始まる公算が大きいと読みます。大統領選とドル/円相場の関係についての議論は別の機会に譲りましょう。
 
円安解消に必要な「次の獲物」
今後、日本が最も恐れるべき展開は為替市場が「円安解消の必要条件」として「FRBの利下げ」は自明の前提として、「日銀の連続利上げ」の可能性も探り始めることでしょう。少なくとも金融市場にその心構えはないため、植田日銀総裁が頑なに否定する「不連続性」を招来するかもしれません。

近年の日本は「円金利の上昇」か「円相場の下落」か、いずれかを我慢しなければならない状況で後者を甘受する状況にあります。利上げという行為に対して政治的かつ社会的に異様なまでのアレルギーを示す日本の実情を思えば、この状況は概ね続くというのが筆者の認識です。FRBによる累次の利下げにもかかわらず円安は本当にこのままなのでしょうか。

仮にそのような状況に陥った場合、為替市場が「次の獲物」として「日銀の連続利上げ」を督促する状況はあり得るでしょう。その展開に至った時、ドル/円相場は恐らく150円を主戦場とする光景に変わっているでしょう。要すれば、円安リスクは「マイナス金利解除の有無」よりも、「マイナス金利解除の次」の方が重要になっているのが現状と見受けられます。仮に、「マイナス金利解除の有無」という争点について「17年ぶりの利上げ」で決着をつけたとしても、それだけで終わってしまえば「日銀発の円高材料は出尽くし」という思惑の方が「FRBの利下げ着手」よりも材料される可能性は十分あるでしょう。その時、日本として何ができるのか。この点は別の機会に議論を譲りたいと思います

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