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学歴不問の見習い制度による優秀人材の発掘

従来のインターンシップは、新卒予定の大学生や大学院生を対象として企業が就業体験の機会を提供するものだが、近年ではそれとは別に、「Apprenticeship(アプレンティスシップ)」といいう就業体験のプログラムが欧州では導入されはじめている。Apprenticeには「見習い」の意味がある。

アプレンティスシップは、職人の世界で古くから行われてきた徒弟制度を現代風にアレンジしたもので、企業の職場で1年以上の実習訓練を行いながら、正社員として登用していく仕組みである。インターンシップとの違いは、学歴は問われずに、選考試験をパスすれば実習生として働くことができ、研修期間中は法定最低賃金以上の給与が保証されている。

インターンシップとは別に、アプレンティスシップが注目される背景には、近年では大学授業料の高騰により、生活苦に陥る学生が増えており、借金を抱えてまで大学を卒業することが良いことなのか、疑問視されていることがある。経済的な事情により、大学に進学できない、または中退した者の中にも優秀な人材はいるため、隠れた逸材を発掘できることが企業側のメリットになっている。

「Multiverse(マルチバース)」は、2016年に英国内で設立されたアプレンティスシップ専門の求人プラットフォームで、2021年からは米国向けにもサービスを開始しており、英米で1000社以上の企業が見習い制度による求人募集を行っている。

具体例として、美術品オークションハウスのクリスティーズでは、ワイン部門の販売コーディネーター、美術品の国際輸送、コレクターへのプライベートセールスなど、普通ではなかなか経験できない専門職の見習い生を募集している。いずれの応募も、大学に進学していないか、中退者を対象としているが、英国の学力試験でAレベル判定であることを条件としている。見習い期間は12ヶ月間で、平日午前9時~午後5時の勤務、その間の給与は19,500ポンド(約350万円)が提示されている。

Christie's Apprenticeship Programme

英国では、アプレンティスシップによる見習い生の権利が法律で守られており、見習い期間中は最低賃金以上の給与が支払われることや、見習い修了後は必ず入社しなくてはいけない義務も無い。そのため、18歳で見習い生として1年間の職場経験を積んだ後に、正社員になるか、大学に進学するかを決めることもできる。

「RateMyApprenticeship」は、英国内で行われているアプレンティスシップに実際に参加した人達によるレビューが投稿されているサイトで、その中で高評価を得ている会社が、自分が就きたい仕事に該当するのであれば、大学進学よりも前に、アプレンティスシップに応募してみるという進路も、高い学費を使わないための有意義な選択肢になっている。

RateMyApprenticeship

アプレンティスシップによる見習い制度は、大学進学前の18~19歳が主な対象となるため、企業にとっては大学新卒者よりも先に、優秀な若者を青田買いできる利点もある。見習い制度に適しているのは、職人系の仕事だが、ハイテク人材の育成でも、できるだけ早い時期から行ったほうが成果は出やすいため、見習い制度との相性が良いと言われている。

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