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人口減少でまちを市民の手に取り戻せ〜スローガバメントの挑戦

人口減少対策で、もっとも残念な取り組みが、地域間で移住者を取り合う競争だ。子育て支援のチキンレースを行い続けることで、結局、各自治体が疲弊してしまう。観光客の取り合いで、各自治体が観光プロモーションを競うのとも似ている。では、これからの時代、自治体間の人の取り合いを超えて、自治体はどのように人口減少に立ち向かえばいいのだろうか。


100年後の日本は?

次の記事は、人口減少問題について、100年思考で捉える必要性を強く訴える。「100年後の人生を考える人はあまりいない。自分の寿命を超えるからだ。しかし人類史を変える節目があり、子や孫の世代がその変化に直面するとなればどうだろう。日本も世界も出生率の急激な低下で人口が大きく縮む。拡大一辺倒だった経済社会のありようも大きく変わるだろう」という。

京都に拠点を移してから、つねづね「100年思考」の大切さを痛感してきているだけに、この記事には大きく頷いた。この記事ではさらに、「人口減が悪いと考えるのは間違い。大事なのは1人当たりの幸福度が高まるかどうか。スマートシュリンク(賢い縮小)を目指すべきだ」と専門家の意見を伝えている。そして最後には、「日本は人口減少のフロントランナーだ。少子化対策と同時にスマートシュリンクを実現できれば世界の範になれるだろう」とまとめる。

これまでは人口増加にあわせて社会インフラを増やすことで、経済的にも発展してきた。これからのチャレンジは、人口減少にあわせて社会インフラを縮小させながら経済的に成り立たせていくことである。

政府が移住支援金を出す必要ある?

スマートシュリンクが重要とわかっていながら、その一方で、地域の人口の取り合いは続く。
次の記事では、「首都圏から地方に移住すると最大60万円もらえる」という移住支援金が、大学卒業生にも対象が広がることを記している。「東京23区の大学などを卒業した地方出身者が地元で就職した場合、移住支援金の支給対象に加える方針だ。人口の東京一極集中を是正する狙いがある」という。

短期的には一極集中の是正は必要なのかもしれない。しかし、是正して一時的に人口を一定レベルに保ったとしても、長期的には全体の人口がどんどん減少していく。長期的な社会インフラの縮小戦略に、早期に取り組むべきだろう。

次の記事は、出生率が8%減少した長野県の阿部知事の嘆きを報じている。阿部知事は、「自治体の競争になっており、財政が豊かなところが手厚い支援ができる状況。少子化対策が地方の競争、人の取り合いになっている」と指摘し、国の統一的な対応を求めたという。

また、ふるさと納税の奪い合いも、収まる様子がない。ふるさと納税という税金の取り合いが激化すればするほど、ECサイト運営業者に税金が流れるばかりだ。

こういった自治体間の人と金の奪い合いは、国全体の価値をまったく向上させない。このような内輪揉めにリソースを使って、隣の自治体との勝ち負けにこだわっているうちに、世界の中での日本の価値がぐっと下がってしまっているのが現状である。

地域自主組織という可能性

そんななか、人口減少を楽しんでいるかのように、「市民がまちを自分たちの手に取り戻しつつある地域」が報じられている。雲南市の少子高齢化に対する取り組みだ。
次の記事は、「地区ごとに自治会やPTAなどでつくる『地域自主組織』が市の支援のもと、商店の経営や高齢者の見守り活動をする。行政の手が届きにくい過疎地の住民サービスを住民が担い地域課題の解決を図る企業の受け皿にもなっている」と報じている。

さらに、この記事では、「交流センターの管理を委託する形で拠点を提供し、活動資金として1組織あたり平均年1000万円を配る。組織は交付金や委託費、会費、事業の売り上げなどから直接雇用する事務局員の人件費や活動費を捻出する」と伝える。

雲南市の職員たちは、何か問題が出てくると、「誰が解決できるだろうか」と市民や企業を思い浮かべるに違いない。このように、市民参加で社会インフラを保とうとするならば、「人口減少はそれぞれの市民の出番を増やす」ということになる。

スローガバメントの挑戦

私は、このような社会課題を長期的、本質的にセクター横断で解決する行政のあり方を「スローガバメント(Slow Government)」と呼んでいる。スローガバメントでは、行政内の組織横断に加え、クロスセクターで企業やNPOも含めた市民の力を使って政策形成、事業推進を進めていく。

これに対して、「ファストガバメント(Fast Government)」では、なんでも行政予算で解決しようとする。たくさんの交付金を国からもらい、どんどん社会インフラを増やしていく方向に進む。右肩上がりの人口ボーナス期は、これが正当化されてきた。しかし、右肩下がりの人口オーナス期にこのやり方を続けることはできない。それにもかかわらず、自治体間で人と金を取り合って、たくさん集めた自治体だけが人口ボーナス期の戦略を継続でき、人と金を集められなかった自治体は合併されていくという競争がいまだに続いている。

私は、ファストガバメントをベースとした地方創生、補助金政策から、スローガバメントを前提とした市民参加政策へと転換すべきであると考える。そして、「学習のコミュニティ」や「イノベーションのコミュニティ」の育成を学校教育の最大の目的に据えることを検討してほしい。

スローガバメントに転換すれば、人口減少はおそれるものではなく、楽しむものになるはずだから。

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